30話 疑似英雄譚
「っく、 【摩天楼】!!!」
剣を構えてそう唱えたかと思うと黒い影の様なものがシルヴの周りに壁の様に出てくる。
それに当たり弾かれる。
と思ったが、なんだ? 止まってるぞ?
「ちょま……こ、これにも無象切断の力が付与されているのであるか!? き、切り裂こうとして拮抗するとは……! ぬうう! ふん!」
影がさらに色濃くなったかと思うと、飛ばした光の刃たちは力尽きたように消えてしまった。
「っふう……まさかこれほど強くなるとは……本当何者であるか、お主」
ただの現代日本人、とはもう言えないよな。
「俺も知りたいぐらいさ」
「む? まあ深くは聞くまい。しかし、たったこれだけでこの成長か……怖くもあり楽しくなってきたのである」
その言葉を吐いたシルヴは、吸血鬼らしい邪悪な笑みを浮かべていた。
「さて、細かい話も多くなって頭が疲れるであろう。とりあえず今日の所は」
一区切り、言葉を切ると。
俺でもわかる程強大な力を放出し、周囲が震え始める。
宝剣を構え、目は翠に輝き、その顔は真剣だ。
そして告げられた言葉に対して俺は、思わず笑った。
「吸血女王の本気を、見てベッドで休むがいい」
「なるほど……意外と、プライドが高いみたいだな」
「ふっふっふ、舐められては講師としても名折れであるからな。今度はこちらが驚かせる番である」
「そうか……」
はっきり言って今感じる力はアルマダより、上だと思う。
アルマダに勝てなかった俺が全力の吸血女王と呼ばれる相手に勝てるか?
決まっている。
「やってみなきゃわかんねえだろう! 折角の女王の本気だ、俺も答えてやるよ!」
感じる力は強大。
だからこそ、だろうか。
俺も本気を試したいと思った。
今の本気がどれぐらいなのか、この人に判断してもらいたかった。
だからこそ、出し惜しみはしない。
今は身体に負担がかかろうとも、いや、負担がかかるからこそ訓練と言う今しかない。
「<疑似英雄譚・白き誓い>!」
俺の身体が白い鎧で包まれる。
剣も白く染まって、以前と同じだ。
唯一違うのは、今俺のテンションは高いという所ぐらいかな。
だから剣を突き付けてこういった。
「さぁ、やろうぜ吸血女王シルヴちゃんよ!」
戦闘が始まってまだ数秒。
前回は発動してから直ぐに大技をぶっぱしたからわからなかったが、今はこのティルトニクスとやらの特性が分かってきた。
「これならどうだ? 血の刃に魅入る【血霞の刃】」
指先から飛ばされた俺の光刃、いまは光羽か。それの血のように赤い版が俺を襲うが、俺は意に関せずに突き進む。
刃が身体に当たるが、金属音の様な音を立てて、刃は消えた。
「強い魔法防御……なるほど、見た目通り強固な鎧のようであるな」
俺の剣を宝剣とやらで受ける。
お互いの剣がせめぎ合う中、なんとか押し込もうとするが。
「それにこの力、全体的な強化もかかっているか。強いな」
「そう言いながら、そっちは片手なのに剣で押し込めないんだが皮肉かね?」
「これでも力には少々自信があるのである」
見た目は完全に女性なのに、片手で握られた宝剣で、両手で握っている俺の剣を完全に抑え込んでいた。
なんて力だよ。俺でも怖いくらい感じる程のパワーがあるはずなんだが。
しかし、訓練と言うだけはあって、色々わかった事を口にしてくれる。
それは有り難いが、やはり一泡吹かせたいという気持ちはある。
「使った事は無いが、どうなるかね!」
剣を離して後ろに飛びのく。
「光羽!」
アルトリウスモードで使った技だ。あの状態からバージョンアップしたのがこのティルトニクスなら、威力も上がっているはず。
「……で、出ねえ!」
だが予想は外れて振った剣先からは何一つ飛び出す事は無い。
「ほう、出ないのであるか……」
「くそ、なんでだ。貴重な技の一つなんだが」
単純にバージョンアップ。強くなったわけじゃないのか?
「光羽と名付けたその魔法は、余波と言っていたな? それからしかるに、今のお主にはその余波すらも無い状態なのではないか?」
「余波がない? ……どういうことだ?」
「つまり、お主は完全に力を制御している。漏れ出る力すらもない程に、という事だ。その恩恵が常に強力な魔法防御と身体能力、と見えるのである」
なるほど、それは一理あるかもしれない。
しかし、完全制御なんてされているのか?
全く俺はそう言った事はしていないし、そもそも完全に制御していれば使うな、なんて言われないはずだが。
『必死に制御してます』
……お、おう。ありがとな?
しかし、そうなるともう一つも難しいか?
いや、あれは違うはず。
「ふむ、手札は終わりかな? であれば……」
「おっと、そうはいかねえ。頼むぞ、【開け、光輝の幽世門】!!」
…………くそが!
「【軌跡を喰らえ、驕れるもの】!!」
こっちも出ないのかよ!!
むしろ弱体化してるんじゃねえのかこれ!
「魔法が使えぬ、か。ふうむ、興味深いのである」
「俺は面白くないがな……なんだこの状態はステゴロ上等って事か」
自重するように言う俺に対して首を振ったのはシルヴ。
少しだけ険しい目をしているが、何かあったか?
「普通、今まで使えていた魔法が使えなくなるという状態は無い。であれば、何か別の原因があるはずである」
「別の原因? ……単純に力全部強化に回されてるストロングモードってだけなんじゃねえの?」
「ありえなくはないが、ふーむ……」
正直手札が尽きた感はある。
……後はあれだ。
全力を振り絞って放つ、あのアルマダに撃った大技。
だが、使えばその後俺は多分倒れるだろう。
あれはそういう力だとなんとなく察している。
「とはいえ、長時間戦うわけにもいかないか」
身体には活力が満ちている。
しかし同時に何かが段々と減っている様な感覚がある。
流石に寿命とかそういうのではないと思うが、恐らくこれが実質的な制限時間だと俺は感じている。
……後5分って所か。燃費悪いなこれ。
「しかし生半可な魔法では傷がつかんか。ならばこれならどうであるか?」
一瞬視界から消える程の速度で迫ってくる。
はええよ!
「ぐお! あ、あぶねえ……」
殆ど反射で上げた剣でシルヴの剣閃に割り込むことができた。
鈴の様な音をして剣と剣がふれあい、弾いた後何とか一撃をしのいだとほっとして、後ろを振り向く。
「……対応するか。なるほどな」
「怖いことするなよ、殆ど見えなかったぞ」
あの速度でずっと攻撃されたらどうしようもないんだが。
そんな力の差を感じていたが、軽く笑うシルヴをみて首をひねる。
「何か面白い事でもわかったのか?」
「ふふふ、お主は気づいておらんか。防いだか、今のを。……今の速度が、最初の悪戯と同じ速度だぞ?」
愉快そうにそう告げるシルヴ。
「最初の悪戯、ってあの俺に喉元に突き付けた時か!?」
「そうだ。あの時は見ることも反応も出来なかったようであるが、今は防げる様であるな」
時間が止まった様なあの速度。
アルトリウスモードであっても反応できなかったが、今は出来た?
「反射や動体視力とか、そういう物も上がっているってことか?」
「恐らくはな。全強化。力の底上げと言う点ではこれ以上のものはないぞ」
「……やっぱり殴り合い上等スタイルじゃねえか」
それを言うなと苦笑するシルヴ。
「それにもう一つ。我が魔眼は今も発動しているが、効果を受けていないようであるな?」
そういえば、あの動きにくいのはいつの間にか消えている。
威圧も全く感じなくなっていた。
「魔法防御、いや無効化か? ……分かってきたぞその力の謎が」
「まじかよ。喧嘩モードじゃないのか」
「実証して見せようか。【血引き手】【狂乱堕落】【糸斬り人形像】」
一気に三つの魔法を発動させるシルヴ。
「うお! ……あれ?」
不思議な事はそこからだ。
地面から出てきた赤い腕が俺を掴もうとして、その手が俺の足首を掴んだ瞬間、何もせずとも消え去った。
あれ、それだけ?
「ふっふっふ、やはりか。お主、今我が三つ魔法を放ったのはわかるな? それぞれ物理干渉、精神干渉、肉体干渉の三つであるが、どれも効果を発揮しなかった」
「言葉の意味でなんとなくは分かるが、説明してくれ」
そう言うと嬉しそうに説明をしだすシルヴ。
「うむ、いいだろう。物理干渉は見ての通り、例えば鎖や今の手の様な魔力で実体を持ったもので干渉、つまり触れたりするわけだな。精神干渉は精神に効果を与える、恐怖を感じさせたり無気力になったりな、肉体干渉は物理干渉と似て非なるもので、魔法で直接相手の肉体に影響を与える。しかし、そのどれもがお主には効かなかった」
「さらっと言っているけど結構ヤバめの魔法使ってね?」
ふいっと横を向くシルヴ。おい。
「つまり、その力。ティルトニクスと言ったか、それの真価は守護であろう。あらゆる攻撃、魔法から主人を護り抜く、といった所か」
こ、この能力防御寄りだったのか……てっきり攻撃系かと。
「どれぐらいまでかは知らんが、まあ並大抵の魔法は効かんだろうな。格下であれば絶対勝利である。 ……時間制限はあるようだがな」
にやりと笑うシルヴ。
やっぱりばれていたか。まあ時間制限があるって言ってたのはシルヴだしな。
「ふむ、では訓練はこれぐらいであろうな。いやしかし、流石の力だったのである」
「…………待てよ」
おいおい、ここまで俺をあしらって置いて、じゃあ終わり?
っは、マジで?
片手で防御されて、良いように魔法を使われて?
傷一つ与えられず、傷一つ与えずに?
ちょっと防御しただけで総評は流石だと?
「あんまり、舐めてんじゃねえぞおらああああああああああ!」
もう後の事は知らねえ! ひゃあぶっぱだ!!
そういえば名前を付ければ強くなるんだったか。
しゃらくせえ、適当でいいだろう!
くらえ。俺の最大最強技を!!
「───<総てを塵に>オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
剣を後ろに回して、全力で振るう。
ん? あれ、なんか魔法みたいな言葉になった様な?
そう感じた瞬間、地面に極大の魔法陣が出現する。
目もくらむような光を発して。
「ッ!!! 来たれ『この世界に呪いあれ』!! <おわりなき黒>!!!!」
光の先、そこでわずかに見えたのは黒い杖。そして発動するお互いの魔法。
無数の細い流星が魔法陣から巨大なホールを作るように多く螺旋回転しながら飛び出す。
まるで銀河の様だ。そして、その中央を突っ切っていくように巨大な光が発射された。
レーザービーム、と言えばいいのだろうか。
以前使った時よりも光は強く、俺自身も先が見えない程。
そんな光が見えない状態で、奥の方に見えたのは世界の終わりの様な黒。
黒と白がぶつかり合っているのが視界の奥の方でわずかに見えるが、眩しすぎてよくわからない。
その状態がいつまで続いただろうか。
限界が来て俺は膝をついてしまう。
やっぱこれ、めっちゃ身体にくるわ……ていうか前よりもすっごい疲れて……
あ、もう無理。
そこで俺は意識を手放す。
結果がどうなったのか、気になったが唯一心配なのは。
……あのやばそうな魔法、俺に直撃したりしないよな?
【TIPS】
魔法と言っても数多く存在する。その中でも特格魔法と呼ばれる魔法がある。
特格魔法も多く存在するが、そのどれもが特異な能力や効果を持っている。
並大抵の魔法では対抗する事すらもかなわない程強力な魔法であることも特徴の一つであるがもっとも特徴深いのはその全てに色が含まれている事だろう。
ちなみに読者はご存知だろうが、魔法名は文字で記載する場合と口頭で話す場合で違う。
炎閻魔と文字で書くが、口頭ではイブリースと呼ばれる。
何故色が含まれるのか、何故口頭と記述で違うのか、興味深い所である。
しかし最も気になるのは、特格魔法は普通の魔法と何かが違う所だ。何か、がいつかわかる日が来るだろうか。
───上級魔法指南書 著者リカ・ユメノミ




