17話 アグリシア
か細い勝ち筋はまだある。
しかしそれに頼るには、まだ俺は全力を出していない。
たとえ負け試合であったとしても、負けても命は奪われないとしても。
今ここで無理をする場面でないとしても。
全力を出さずに終わらせたくない!
「まだ、やる気なんだね」
「当然だろ、俺は……」
そうだ。俺は。
「もう、後悔はしたくねぇんだよ!!」
やらなかった。
できなかった。
まにあわなかった。
そんな後悔はもう既にした後だ。
やらなかった結果がここに来る前の自分なんだからな!
「【軌跡を喰らえ、驕れるもの】!」
再度、痛む身体と頭に活を入れながら剣を振るい光の龍を召喚する。
「気持ちは凄く立派だとおもうよ。でもね、それだけじゃ届かないよ」
「わかっとるわバカ。でも俺に出来るのはこれぐらいしかねぇんだよ」
「だったら、痛い思いをする前に降参してもらった方がボクとしては嬉しいんだけどな」
翼をパタパタさせながらこちらを心配そうな眼で見ている悪魔、アルマダ。
それは本音だろう。バカにしているわけではなく、ただ事実を告げているだけ。
「確かに、このまま撃っても結果は見えている。先ほどの状況を再現させるだけ。……そう思っているなら」
どうせ、ほかは何も知らない。
なら、想いのまま、出来るかわからない事を試してみてもいいだろうが!!
「光輝の幽世門!!!」
「ん? 逆じゃないかな」
本来であれば順序が逆の魔法。
だが、今はそれでいい。
「この魔法の誘導先はアグリシアだ!! 喰らえ、アグリシア!!」
「な!?」
地面から飛び出す光の玉はアルマダではなく、光の竜の口元に吸い込まれていく。
「もう一発、くれてやる。光輝の幽世門!!!」
再び発動した魔法も同じく、光の龍、アグリシアに吸い込まれていく。
そして
「やろうと思えば、出来るもんだな」
息も絶え絶えな俺だが、見上げた先。
そこには3対6翼を持つ、巨大化した光の龍。
「軌跡を喰らうなら、もしかすると光輝の幽世門は餌的な役割でもあるのかと思ったが、どうやら、あたっていたみたいだな」
神々しく輝く龍を背に俺は剣を突きつける。
「正真正銘、今の俺自身が最後に出来る魔法だ」
その言葉に、一瞬ぽかんとしたアルマダだったが、口元を手で隠して笑いながら言った。
「やっぱり、最高だよ。来て、ユウ」
受け入れるように両手を広げる。
───【軌跡を喰らえ、驕れるもの】
<到達せしあか>───
再び、光と赤が激突する。
先ほどとは違い、食い破る様に赤い雨を進んでいく。
身体こそ削れていっているようだが、その速度はさっきと比べると遅い。
俺に降りかかる雨は全てアグリシアが防ぎ、喰らっている。
後は、どれだけ耐えれるか。
どれほど、この雨を貫いてアルマダまでたどり着けるかだ。
「すごいね、ここまで対抗できるなんて正直思っていなかったよ。ほんと、期待以上で嬉しい」
魔法同士がぶつかり合う中、光の向こう側でそう声がした。
「でもね、ボクの気持ちも負けられないんだ」
───<連呪:到達せしあか>
───<重魔:到達せしあか>
「くく……笑いも出てくる、反則技じゃねえか」
その言葉と共に、赤い雨の量が増え、更に槍ほどの大きさだったのが今は丸太のように太くなった。
ごりっと音がするようにアグリシアの身体が削れていく。
それはまさしく、先程の焼き直しだった。
「クソが、届かねえ、か」
もう俺自身にできる事は、もう無い。
アグシリアもほとんど身体を削られ、到底アルマダまでたどり着くことはできなさそうだ。
「ごめんね」
ふざけるなよ《・・・・・・》
「ごめんね、だと?」
何に対しての謝りだ。
俺に対して、何を謝るんだ。
無駄な足掻きに対してか?
そこまでバカにされるんだったら、いいだろう。
とことん、馬鹿に。
愚かに、無様になってやろうじゃねえか。
「トゥールー」
反応はない。
まあ、反応があるならあの雨の時に騒がしい事を言っているだろうが。
だが、聞こえているはずだ。
聴いているはずだ。
だから答えろ、トゥールー。
あの時のあの問に。
地竜が現れる直前。ティリアスとの模擬戦の時。
アグリシアを撃つ魔法の時、トゥールーに俺はこういった。
そこそこの魔法を教えろと。
「トゥールー。そこそこじゃない、一番強力な魔法を教えろ」
あのアグリシアをもってして、そこそこと言うのならば。
あるいは、この窮地を打破できるかもしれない。
「答えろ! トゥールー!!!」
「ごめんね」
俺が声を張り上げた時、二度目の謝罪と共に赤い矢の雨が再び降り注いだ。
いや、もう雨なんてレベルじゃないか。
赤い空が落ちてくる。そう思えるほどの密度。
……終わりか。
【TIPS】
到達せしあか。
七天魔公の一人、アルマダが使う大魔法。
超広範囲でありながらその威力は高く、撃たれたら誰にも
『<疑似英雄譚・白き誓い>です。マスター』
声が、届いた。
「愛してるぜトゥールー!!
───<疑似英雄譚・白き誓い>!!!!!」
最後の力を振り絞り、言われたまま言葉を発する。
刹那、全身の白い光が強くなる。
やがて、白いマントを羽織り、神々しく白く光る鎧に代わる。
そして、本能のまま言葉を叫びながら極光を放つ剣を後ろに大きく回して振り切った。
瞬間、俺の背後から巨大な二つの光の帯が回転しながら向かい、その中央を白色の光が伸びていく。
白と赤が、三度激突する。
撃った瞬間、身体からどんどんと力が抜けていく。
活力と言うか、元気と言うか、エネルギーと言うか、まあとにかくそう言ったものがガンガン減っていく。
「きっつ……」
光の本流は赤い矢を消滅させながら進んでいく。
そのままであればアルマダに直撃しそうなほどに。
「っく、魔力制御、極点集中!」
その言葉で周囲に浮いていた他の赤達が光の本流の方へ集中していく。
極光と赤矢の先でわずかに見えるアルマダの表情は真剣だった。
初めてかね、あの余裕を崩すことができたのは。
ざまあみろ!
と、そんなふうに鼓舞していたが矢たちが光の所に集まるにつれ、目に見える程に光の速度が落ちた。
拮抗している。いや、よく見ればわずかに俺の光の方が押し込んでいる。
そのままであれば目論見通り直撃しそうではある。
そのままで、あればだが。
「いやもうまじむり」
ぶっちゃけ、もう限界です。
いや、めっちゃかっこ悪いが維持が本当にきっつい。
そもそも直前にいろいろ撃ちすぎた。
身体がもう物理的にも精神的にも限界を迎えている。
というか突破しているんじゃなかろうか。
足が子鹿のように震えだしているし、視界もぐらぐら揺れている。
『消耗が極大ですマスター。……まだマスターには早い魔法かと』
「命令したのは俺だから仕方ねえけどもうちょっとさぁ!」
『まだマスターは力を使用しているだけで、能力が追い付いておりませんので……』
「辛辣! お前本当は怒ってるんじゃねえのか!? あああああやばいやばい!」
しかし言っていることは正論ではある。
実際俺がやったのは教えろと言っただけで特に修行や訓練したわけではない。
何せ、異世界生活一日目だしな。
それで七大……いや七天魔公だっけか。
そんな大仰な称号を持っている様な奴に勝つ方が難しい事ぐらい理解できる。
「とはいえここで負けたらゲームオーバーなんだよ!! 既にサイは投げられたってやつだ!」
嘆いていても仕方ない。
もうほかに手段もないし、力も無い。
後は全力でこの魔法の維持に費やすだけだ。
あ、いや、ほんとむりあああああああ!!
【TIPS】
到達せしあか。
七天魔公の一人、アルマダが使う大魔法。
超広範囲でありながらその威力は高く、撃たれたら誰にも防げないと言われている。
だが、中にはそれを相殺出来る強者もいる。しかしそれが人間であるかどうかは、聞いたことはない。
───「娘? そんなの居たかしらね……」




