3.ルシアンという名
たまには真面目な話をします。
今回は、ルシアンの名前について。
こういう話をすると、いかにも「名前には深い意味が込められています」みたいな顔をして語り始めることになってしまうのですが。
実際、わりと込めています。というか、欲張りました。
まず「ルシアン」という響きには、犬っぽい音を少し入れたかった。
フランス語で犬は「chien」といいます。
「その犬」とするならle chienです。
厳密にはルシアンは犬ではありません。狼っぽい幻獣です。
ただ、私の中では彼の獣としての性質に、どこか犬のような懐っこさや忠実さを持たせたかったので、名前の響きにもほんの少しだけそれを残しています。
そして、もうひとつ欲しかったのが「光」の意味。
ルシアンという名前を考えるとき、大元にはそこがありました。
彼は蒼のイメージが強く、氷も扱う幻獣なので、物語の中ではどうしても「夜・冬・青・冷たさ」といったイメージが強くなる。
でも、彼自身は誰かを凍らせるための存在ではない。
むしろ、ベルローズのそばにいることで、暗い場所にそっと光を置くような存在であってほしかった。
彼女にとっての光であってほしいみたいな、ちょっと恥ずかしい理由。
だから、名前には「光」の意味を持たせたかった。
そこへさらに「シアン」の音を重ねています。
シアンといえば、色の三原色でもある青。ちょっと緑がかっているので、直接的なルシアンのカラーとは違います。
それでもルシアンの瞳の色や、氷の色、そして彼自身の持つ蒼いイメージを、名前を見たり聞いたりしたときに、ほんの少しだけ感じてもらえたらいいなと思っていました。
つまり、犬っぽい響き。光。シアンから連想する青。
欲張りセットです。
名前ひとつにどれだけ詰め込むんだという話ですが、名前を考えるのが好きなので、こういうところはどうしても欲張ってしまう。
そして、ベルローズの名前にも同じようなことをしています。
もともとは「ベルローズ・ド・ラ・クロワ」ってすっごいごつ盛りの名前にしてやろう。みたいなふざけた理由もあるにはあったのですが。
彼女の名前を見たときには、どこか紅い色を感じてほしい。
薔薇の赤。血の赤。彼女の瞳の赤。
冷たい印象の中にある、燃えるような色。
そういうものが、「ベルローズ」という名前を見た瞬間に、直接説明されなくてもぼんやり浮かんでくれたらいい。
ルシアンが蒼で、ベルローズが紅。
名前そのものの中に、二人の色を仕込んでいます。
たぶん私は、こういう「説明しなくてもなんとなく感じるもの」が好きなんですよね。
だから、名前を見ただけで、
「あ、この人は青っぽいな」
「この人は赤っぽいな」
と、無意識に浮かんでもらえたら嬉しい。
もちろん、実際に読者の方がそこまで考える必要はありません。
作者だけが勝手に仕込んでいるくらいでちょうどいいと思っています。
さて。 ここまで偉そうに名前の由来について語っておいてなんですが。
では、当のルシアンは自分の名前をどう思っているのかというと。
「ありふれた名前だろ」
です。終わり。
作中でも書きましたが、本当にそんな感じだと思う。
自分の名前に特別な意味を見出しているタイプではない。
「俺の名前には光という意味があってだな」みたいなことを語り始めるルシアンは、私の中には存在しません。
たぶん由来を説明されても、「ふうん」か「知らねぇよ」くらいで終わる。
でも、その名前をベルローズが呼ぶと、そこだけは、少し違う。
ルシアンにとって名前そのものは、別に特別じゃない。
でも、ベルローズが「ルシアン」と呼ぶときだけは、自分が何か大事なものになったように感じる。
そういうことなんじゃないかなと思っています。
名前に「光」という意味を込めたのは作者です。
「シアン」の響きに蒼を重ねたのも作者です。
でも、その名前を特別なものにしているのは、ベルローズです。
ルシアン自身は、名前なんてただの記号だと思っている。
けれど、彼女が呼ぶ。自分を見て、自分に向かって、その名前を口にする。
それだけで、
「ああ、自分はこの人にとって大切なものなんだな」
と思える。
そういう意味では、私が名前に込めた意味よりも、本人がベルローズから受け取っている意味のほうが、ずっと大きいのかもしれません。
……というわけで、今回は珍しく真面目な話でした。
たまにはこういう話もします。
たまにはね。
次回あたりにはまた角がどうとか、ドレスが脱がしにくいとかそんなことを言い始めると思います。




