最後の時間
ペディは子供が生まれるまでの間、ローゼリア城でエレナとともに穏やかな時を過ごしていた。ペディの死刑はすでに決まっており、子供が生まれた後に処刑されるのだ。彼女には、常にローゼリア兵がついて回った。
ある日、寝室でエレナと共に談笑した。
私は、エドガーに踊らされていたのだ。彼の経歴を聞いたら、もともとはかつての女王の親衛隊を務めていたが、クーデターには太刀打ちできなかったらしい。
左様ですか・・・。
私も、あの部屋に安置されるのだろうか。
そう言うとエレナは涙を流した。エレナはただペディと穏やかに過ごしたかっただけなのだ。ペディは彼女の気持ちを推し量り、静かにうなだれる。しばし沈黙の時を過ごした。
エレナの涙も止まると、ペディはエレナに語りかける。
この子供、どうなるのか?
私が預かります。
そう言ってくれると安心だな。
しばらくして子供が生まれた。その産声に、生命というものの強欲さをペティは感じてしまうのだ。ただ、同じ過ちだけは繰り返してはいけないと、その赤子に誓い、エレナに預けた。
後日、赤いドレスに深紅の爪を光らせて、鎖につながれ、馬車でローゼリアの森を走った。これが最後の森の風景だと思うと、その緑や光、虫たちや小鳥のさえずり、馬車の大地を踏みしめる音がいつも以上に感じ取れた。
街へ着き馬車を降ろされ民衆の罵声の中をただコツコツと音を立てて歩く。その先にギロチン台の刃が太陽に照らされまぶしく反射していた。中心の広場には神妙な目で見つめるニコラや泣き崩れるエレナの他に、ギロティーニュの王族たちもいて、冷ややかな目でこちらを見ていた。ただ一歩一歩、コツ、コツと音を立て階段を登る。ギロチン台の前に立った彼女のドレスは日の光で真っ赤に染まり、赤い爪も一層キラリと輝いていた。ペディはギロチン台にかけられると、靴を脱がされ裸足にされた。その瞬間、身体が浮いたように思えた。裸足になることで、ベッドに上がれば眠るように、これから処刑されるのだと実感できた。ただペディには、あまり恐怖はなく、さっさと自由になってしまいたかった。一人の兵士は言う。
何か言うことはないか?
ペディは答えた。
何も言うことはありません。
刃がヒューと落ちていくのが聞こえた瞬間、ザクン!と首に衝撃が走り、目の前が回転して、フワッと柔らかく着地した。そして、青い空に薔薇を散らすのが見えた。
−彼女の身体は血を吹き出したまま棺に入れられたので、首から血がチョロッチョロッと呼吸をするかのように流れ出し、棺を赤く染めた。
ふと誰かの手が伸びてきて、髪の毛をつかまれ、ペディは再び民衆の前に出た。みんなは大騒ぎしているが、何を言っているのかよく聞こえなかった。少しずつ視界がぼやけてくる。ふと視線が身体に移る。箱に赤いドレスを着た女性が入っていて、足の爪が赤く綺麗であった。やっとこの身体から自由になれたのだ。そしてペディは事切れた。
−首は夜が更けるまで民衆の前に晒され、罵倒され続けた。しかし彼女には届かない。ただ故郷で生まれ故郷へ帰ってきたことに安らぎを覚えて消えていったのだ。首が棺に納められることには血は固まっていた。




