ルシアン王子
気がつくと、すでに朝だった。目の前には、ソファーの上で足を伸ばしてぐっすり眠るニコラの姿があった。敵地にいるのに、呑気な男だと呆れたが、今まで誰も襲ってこなかったので、自分たちを受け入れてくれているのだとペディは安心した。ニコラが眠っているうちに、服を脱いで、紫のドレスに着替えようとしたら、ちょうどニコラの目が覚めて裸を見てしまったので、彼は慌てて外へ出る。
よいぞ。
失礼しました。
ニコラの度々の仰々しい反応に呆れながらも、ペディは改めて顔を整えていると、ドアのノックがあったので、取り直して、入ってよいぞと、応えると、立派な風体の執事が現れた。
ルシアン様がお呼びでございます。
!?
ニコラとペディは慌てて支度をして、降りていくと、複数の兵士と共に、ルシアンが立っていた。ペディはルシアンにエスコートされるまま、馬車に乗せられて馬を走らせていった。ニコラはそのまま置いていかれて、呆気にとられていた。
馬車のなかでは、ルシアンがペディに挨拶を交わした。
私は、ギロティーニュの王子ルシアンである。貴殿が薔薇の女王ペディであるな?
左様です。私がローゼリア女王のペディでごさいます。お会いできて光栄でございます。
婚約申し入れ、私も目を通したぞ。
本当ですか!?
なかなか実直に結婚を申し入れるなどと書くものはいないからな。なかなか面白い方であるとお見受けしたが?
ペディは自分の礼儀のなさに恥じて、視線をしたに落とした。
これは失礼した。
い、いえ。
不躾で恐縮なのだが、ぜひとも私にもローゼリア主義を教えてほしい。
もちろんでございます。
ペディは真剣な顔で話す。
薔薇には、赤や紫など様々な色を見せてくれますが、水を清潔に保ってやらないと腐ってしまうでしょう?
ほう。
人間も同じなのです。トゲがあり、綺麗な薔薇も咲かせる。でも、不健全な状態でいると人の心は淀み腐る。私はすべての人々に清廉な心を取り戻したいのです。
理屈は素晴らしいが、甘くはないか?
え!?
我々や領主共の土地接収のことを言っているのだと思うが、それによってたくさん外貨を仕入れ、それで潤ってる者も多い。第一、皆が求めているからそれを買う人がおり、彼らの心も潤うのではないか?むしろ日々同じ暮らしをしていると、飽きてしまって心がよどみ腐ると思うのだがな。
・・・ごもっともです。
ルシアンは、ローゼリア女王を説き伏せることでご満悦の様子だった。しかし、ペディは、内心では、民衆のことなど一切無視しているではないかと、憤慨した。
いつの間にか、城の前におり、ルシアンに先導されるまま城の中へ案内された。すれ違う煌びやかな女性たちはきまって私をじっと見つめてくるので、緊張を隠せないでいた。長い迷路のような廊下を歩き、やっと案内されたのが、小さく光の灯った暗い寝室で、優しいアロマの香りがした。




