第55話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「スキルか」
姦しい囁き声をBGMに考える。
昔は必死にスキルを手に入れようと足掻いていた。十代の頃はまぁまぁ、いやかなり悩んでいた。だから軍学校に行くことも悩まなかった。より辛い環境に身を置けば、スキルが目覚める可能性があると知って、生体刻印術なんてものに手を出したのも、そういう考えからだった気がする。
実際に死ぬような目に遭ったわけだが、それでも目覚めなかった。だから諦めて、そして方法を変えて今に至るのだが、諦めたら向こうからやって来ると言うのも皮肉なものだ。まぁ気のせいの可能性もまだあるんだけど、少しくらいは期待させてほしい。
「どんな耐性スキルが発現したんだろうね」
ネフさん全力否定ごっこは終わりですかメテシュお嬢様。しかし耐性スキルか……考えづらいんだよな。
「うーん、たぶん違うと思うんだよなぁ?」
「嬉しくないんか?」
「そう言うわけじゃないんだけど、俺の遺伝子って耐性系のスキルが出るような遺伝子じゃないんだよね? 家族も耐性系スキルを持ってるの誰もいないし」
スキルの発現は基本的に遺伝子で決まる。それは現代の常識であり、だからこそデザインクローニングと言う技術が推奨されたのだ。遺伝子情報の解析だって随分と進歩している。
故に、俺が耐性スキルを獲得する可能性は、極めて低い。家の家系は両親ともに耐性スキルを得ずらい体質なのだ。そもそもにおける耐性が高すぎるらしい、特に魔素と言うものに対する耐性が高すぎるので、それが悪さして各種耐性がスキル化しないそうだ。
その分、スキルによる身体能力の向上幅が尋常じゃない。特に母方の遺伝子が攻撃力特化と言ってもいいほど優れ、父方は耐久力特化である。その間に生まれる子供の身体能力が、化物じみているのも納得の遺伝子だ。
だからこそ、スキル無しの俺でも今まで生き残れたと言える。
「後付け遺伝子の方かもしれんで?」
「そっちの方がないかな?」
そっちの方が余計に無い。そっちは父上と母上が研究所の設備を最優先で使って調べたと言っていた。
「私はその辺のことが分からないのだが、確信があるのか?」
「うん、俺の遺伝子って発掘遺伝子なんだよ。しかもだいぶ古いタイプで、解読できた限りじゃ耐性系とかのマルチ型スキルは確認出来なかったんだよね」
スキル遺伝子と言われたりする後付けの遺伝子、戦闘機のオプション装備の様に好みで調整できるそれにはいくつか種類がある。その中でもちょっと特殊な物が発掘遺伝子。それは遺跡や遺構から見つかる保存されスキル遺伝子。
スキルクローニングと言う技術は、元は千年前の戦争前からあった技術で、それは今よりも優れていたと思われる。その証拠に突出したスキルや、希少性の高いスキルなどが千年以上の時を超えても劣化せずに保存されているのだ。
そういった遠い過去に保存されていた遺伝子の事を発掘遺伝子と言う。俺の体の設計図の一部はその発掘品で構成されている。なんでかって? スキル遺伝子って高いのよ、そして俺を作るころ、ベラタス家は超貧乏時代に突入、真っ当な遺伝子を購入する資金は無かった。
「その遺伝子情報はどこで発掘されたんです?」
「実家の所有する惑星だね」
しかし子供を作るのは貴族の義務、俺で最後の子供であり、ギリギリまで引き延ばしてあとがなかった。それは他家からの工作だったわけだけど、そんなわけで手に入れられたのは、実家の主星で埋もれていた遺構から、偶然発掘された発掘遺伝子だけだったわけだ。保存状態は今の一般流通している遺伝子よりも良かったらしい。
「……ヨーマはん、もしかして貴族なんか?」
「親がね?」
俺は貴族じゃないよ? 貴族は親だけで、俺は貴族の子供であって貴族ではない。そのくせ貴族の務めをやらされる可哀そうな一般人である。
なお、貴族として最低ランクのセイルから三つ上のキャプスタンからは、子供にも貴族位を与えることが出来るし、ボイラーやアンクルと言った下級貴族の子供を貴族にして召し抱える事もできる。しかしセイルは出来ない。新興貴族の悲しい現実である。
「は?」
「お貴族様!?」
「まぁ、貴族家の方でしたか」
みんなめっちゃ食い付くじゃん。ワープ作業中だったおさげの子なんて立ち上がってまで見て来るし、釣り目がちな子も目が真ん丸ですよ。
言っとくが親が貴族であって俺は貴族じゃない。
「親がね? セイルだからね?」
「それでも一般人からしたら貴族と変わらんやろ?」
いやいや、それじゃ困るんですよ。俺の権限は一般人と変わらないんだから、受けられるサービスも一般人に毛が生えた程度だ。義務ばかり重いので、セイルの子はだいたい手に職つけて家を出るんだ。
家の場合は、父上と母上がすごく頑張り過ぎたことで、子供の逃げ道が断たれただけである。そういう法律があるのだ。その所為で家には貴族からのやっかみがすごい。
「まぁ半分くらいは? でも世の中に出たらあんまり関係ないと思うけどな?」
「そないことあらんよ! 貴族出身てことは、もう、いろいろ、すごいやんか?」
何がすごいんでしょうか? ヨーマにはよくわかりません。
「ネフ、説明になってないぞ」
ですよね。ロナさん冷静な突っ込みありがとう。
「まぁそんなわけで、何かスキルが発現したとしても耐性系じゃないと思うから、若干不安なんだよね」
いや、とても不安である。昔は発掘遺伝子の噂が広まった所為で “旧式” といじめを受けたこともある。実際最新の遺伝子より扱いが難しいので、うまく定着しなかったり、元の遺伝子と反発して悪い結果を生むこともある。
俺もスキルが発現しなかったことから、失敗作と考えられ、貴族院からは俺の廃棄処分の許可も出ていたそうだ。その通知を見たお母様は大変ブチギレて大変だったと、父上が昔こっそり教えてくれた。家でその話題はタブーとなっているので、今も俺は心の中に仕舞って鍵をかけている。良い思い出として。
「だいじょうぶ、私が守ってあげる。私けっこう強いよ」
「それは何となく知ってる」
知ってます。さっきからわたくしの頭を潰そうとしたり、首をへし折ろうとしたり、あまつさえ男にとって大事な毛根を殺そうとして頂いてますもんね。ほんと止めてください。
冗談は別として、短い間でも一緒に生活していればよくわかる。魔素の扱いが普通の人間のレベルと違いすぎるのだ。ちょっと怒ったからって魔素で空間歪ませるとか無理無理、しかも完全に制御出来てるから周囲に悪影響も出ない。
「なんで奴隷なんかになってるんだよ、スキル無しで捨てられたのか?」
「レクス!」
おっと、それはちょっとどころじゃなくデリカシーにかける発言だね。俺のことは別にどう言われようとちょっとムカつくくらいだけど、家族の事に触れるなら好感度ポイント下げるぞ? 今の発言だけでもヨーマポイントマイナス100点です。
「あ! いや別に嫌味とかじゃなくて……」
嫌味とか意識しなくてその言葉が出るのはずいぶん不味いと思うぞ? ほら、マザーさんの米神に青筋でてるし、笑顔がすごく怖くなってる。いやこわ。
「両親を筆頭に家族が過保護でね、独り立ちさせてもらえそうになかったからこっそり家を出たら、就職したばかりな仕事先の輸送船で、その船の船長に売られたんだよ」
「ひどい」
「最低やな」
メテシュ達にはこの話しはすでにしてるんですけど、まぁ改めて聞いてもひどいということだろう。……海賊が酷いって事だよね? 俺の行動が酷いって事だったらちょっと辛い。いや、だいぶつらい、これでもいろいろ考えた結果なんです。
「それやばくない? 貴族売ったんでしょ?」
そうなんだよね。
「そうだな、知らないからって言い訳に出来ないやつだ」
赤紫の髪の子はよくわかってるじゃない。一般人に毛が生えた俺でも、貴族の子供であることは変わらないので、それを一般人が売買したって事は、貴族に喧嘩売るって事だ。メンツを大事にする貴族である以上、とても不味い。なんだったら家だけじゃなくて後見人である大貴族が動いてもおかしくない。
まぁ家の場合は自分たちで何とかできる戦力を保有してるから、後見人であるマストのお歴々は高みの見物と言ったところだろうか? あぁ現実を再認識すると胃が痛い。考えないようにしてきたのに、余計なところに触れてしまった。
「まぁ成り行きで奴隷になったけど、今はなんだか脱せそうな感じだから、無事帰れたらまた頑張るさ」
前向き、前向きに考えよう。
「そうですか……」
マザーさんとまた視線がぶつかる。その目はとても心配そうだ。何を考えてそんなに心配そうなのか分からないけど、俺が貴族だったからと言って、マザーさん達に不利益は無いだろう。というか、無いようにするつもりだ。
流石にこれでもおじさんと呼ばれるくらいには大人だからな、子供が苦労してるのをそのままスルーする気はない。だんだん思考も晴れて来たし、少しは色々考えてみようと思う。それに、彼らだけではない。
「やる事も出来たし」
「なになに?」
「ひみつ」
興味深そうにしてますが、貴女たちの事ですよ? 家族が探しに来ているのなら、そこまで帰してあげるのが俺の仕事だろう。大人として、軍人として、貴族として、弱者なりに義務と言うものがあるのだ。
いや、義務と言うより仁義と言った方が良いだろう。俺だって、今の状況にはいろいろ思う所があるんだよ。
いかがでしたでしょうか?
貴族ヨーマ、そろそろ動くのか? 元気を取り戻し始めた彼の明日は如何に・
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




