第54話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……」
しんと静まり返る艦橋で、空調の音がやけに大きく聞こえる。
「……周囲にワープ反応なし」
「よかった、これからどうしよう」
数分ほど、示し合わせたわけでもなく全員無言で様子を窺っていたわけだけど、ワープ中に無理やりコンテナを廃棄した甲斐はあったようだ。発信機の場所が突然分かれてしまえば調べないわけにはいかない。
調査と追跡に部隊を分ける方法もあるけど、ああいう小型と中型の混成部隊は、魔素の消耗軽減のためにまとまって行動することが多い。特に海賊なんかは、複数の船のワープ装置を同期させることで、少ない魔素でも集団ワープを可能にする方法をとることが多い。
今回はそれがうまく嵌ったようだ。と言っても一時的、ほんの少しの猶予が出来ただけだろう。
「考えましょうね」
「う、うん……海賊宙域から出る最短ルートは?」
マザーの前では素直な良い子と言った感じのレクス君、俺の顔を見た瞬間目がつり上がるのはいかがなものか。
「ここからであれば、合流可能宙域へは10日を見積もる必要があります」
あの奴隷船はずいぶん奥まったところにあるようだ。もしくは古戦場に囲まれた地域の中か、いやそんな危なっかしいところに拠点を置くとも思えないな。みんなお化けは大っ嫌いだろうし、ワープ事故も怖いだろう。
古戦場の大半が、いまだに未開拓地と言うのも頷けるくらいに危ない場所だからな、誰があんな場所好き好んで近付くのやら。
「物資は?」
「何も無ければ問題ありません、しかしそれは少々甘い見積もりでしょうね」
それはそうだろう。10日もかかるくらいに深い海賊領域となれば、広い宇宙とは言え遭遇戦の一回や二回は有り得なくもない。いくら広い宇宙と言っても、どこでも好きに航行できると言うわけでもないのだ。
「海賊に遭遇したら?」
「足りませんね」
結構しんどいな、あれ? これってそんなに生存確率高くないぞ? 俺の顔を覗き込んでいるメテシュお嬢様も不安顔だ。不安だからっておじさんの頭を撫ですぎるのは良くないと思います。家系的に禿げないけどそんなに擦られたら毛根死んじゃうから、毛根再生治療って結構高いのよ。
「最後の発信機の除去できたよ!」
「よかった」
「ショートワープを推奨します」
みんな喜んでいるけど、発信機除去したらショートワープもセットである。ランダムショートワープがお勧めだし、なんだったらデコイも使った方が良いだろう。破壊しないのかって? トラップ入りの発信機もあるからね、下手に触ると危ないんだ。
何で詳しいかって? 軍はどっちかと言うと発信機使う側だから、納品時に間違わないよう仕様書はちゃんと読む派です。装弾間違ったら始末書だからね。
「え? あ! ショートワープして!」
「すぐ準備するね!」
お、ちゃんと理由にも気が付いたようだ。えらいね。言われたことに疑問を挟まず行動に移すのも大事だけど、その理由も理解して行動に移すのとではだいぶ違う。まぁここは軍ではないわけで、彼らにそれを求めるのもどうかと思うけど、教えてるのがもと軍属だろうから、マザーさん的にも今のは正解だろう。
視線を向ければ満足そうな微笑みと視線がぶつかる。だからなんで視線が合うんですかね。
「状況は、良くないな」
左耳に綺麗な声が入り込む。小さな声なのに不思議と聞き取りやすいロナさんの声だけど、そんな顔を寄せて囁かれたら新しい扉が開きそうでヨーマ困ります。
冗談はさておき、状況は良くないのは事実。
「そうだね、何か好転材料の一つでもないと……バッテリー残量はどのくらいあるかな」
「現在スーツバッテリーの魔素残量は30%です。デバイスの方はベースバッテリーしか残ってないです」
「それはまた、だいぶ減ったなぁ」
非常に心もとない。
普通の魔素バッテリーなんて目じゃないほどの容量だったデバイスの結晶バッテリーが空である。ベースバッテリーは魔法などには使えないので、今俺が使える魔法はスーツのベルトに格納された魔素バッテリー30%分だけとなる。
「治療用の魔法は燃費が悪いですからね、でも私が想定したよりもずっと残っています。私の予想ではすでに10%を切っているはずです」
「なんで? 何かした?」
なんでだ? すでに少しくらいの行動なら可能なくらいには体調も回復しているけど、ナンシュさんが予測を外すと言うのも不思議な話だ。なんせ彼女はISなのだから、その演算能力は人なんかとくらべものにならない。
そんな彼女が常にモニターしているはずの俺の体調管理で計算ミスをする? しかも予定よりバッテリーの減りが少ないと来た。いやまて、10%切ったら充填しないとほとんど何も出来なくなるぞ? そろそろ刻印術を入れ替えないと。
「悪いの?」
「むしろ良いのかな? 体調はずいぶんよくなったし、でも原因が分からないのはちょっと不安かな」
良いことでも悪いことでも想定違いは色々罠になるから、状況は正確に把握しておきたい。いわゆる心配性と言うやつであるが、弱い俺なんてそのくらいで十分だ。
「想定されるとしたらマスターの身体能力向上でしょうか、マスターはスキルがないとのことでしたが、何かしらスキルに目覚めたかもしれませんね」
「良かったねヨーマ!」
「スキル無いのとあるのとじゃだいぶぅ違うからな?」
我がことのように喜んでくれるメシュさんに優しい笑みを浮かべるケフさん、やめてよ涙腺おかしくなっちゃうから、視線を動かせばロナさんも微笑んでいらっしゃるし、なんだったらマザーさんとも視線がぶつかる。
確かにスキルが生えて来たとするなら嬉しいけど、若干の今更感はある。というかこんな年齢になって生えてくるスキルってなんだよ、お前今までどんだけ怠惰な生活してたんだって言われるよ。
スキルってそう言うものだから、もしくは何か致命的な欠陥が俺の遺伝子にあったかだ。それはそれで、父上と母上の精神に致命的なダメージを与えかねないので辞めてもらいたい。とりあえず、ちょっと希望を持ちつつ、無事帰れたらスキルを調べる為にも医療施設に行ってみようと思う。
「そうだと良いけど、でも状況的に目覚めるとしたら病気耐性とか熱耐性とか、もしくは寒冷耐性とか耐性系だろ?」
スキルは負荷によって目覚めるのが一般的だ。原初のスキルも、人類が生き延びようとする生存本能から生まれたと言われている。なので今目覚めたとするなら、この体調不良や環境に対する抵抗力と言う可能性が高い。しかしそれはかなり低い確率を引いたことになる。
「たしかにな、耐性系は早熟やからすぐに効果出てもおかしゅうはないな」
「詳しいな?」
「うち、スキルカウンセラー目指しとってん・・・・・・まぁ昔の話しやけど」
ネフの表情が寂しそうに下を向く、学習船ごと攫われたらしいからな、その頃からの夢なのだろう。思い出せばつらくもなるだろうが、今を無事に切り抜けられたなら、きっとその夢はかなうはずだ。俺も生き残れたら微力ながら応援しようと思う。
「大丈夫、何かあっても私が守ってあげる。ネフもついでになら守ってあげる」
突然頭を両手でつかんでくるメテシュお嬢様の宣言に、ネフさんも満更じゃない表情である。青い肌が少し紫がかって見えるので、多分恥ずかしがっているのであろう。じっと見てたらしっとりおててで目隠しされてしまった。
ところで、この話しの流れでなんで俺が先でネフさんはついでなんだろうか。
「なんで俺?」
「ヨーマが私を助けてくれたから」
助けた? うん、治療の事かな? 指の隙間から見えるメシュさんの表情はいたって真剣だ。先ほどからチラチラこちらを見ているレクス君は、ショックを受けた様に表情を崩している。
「そんなたいそうな事じゃないからほどほどに頼むよ」
「わかった、まかせて」
貴女まったくわかっていませんね? なんでほどほどに頼むと言っているのに真剣な表情で頭を掴む手に力を入れましたか? ちょっと痛いんですけど、ちからぬいてもろて? ロナさんもそんな笑いを押し殺してないで助けてください。
ほんと大したことないんです。医者の様に適切な治療とも言えない、割と力業な対応でしかなかったんだから。そんなに真剣に考える事でもないと思うよ? 一食奢ってくれるとか、スイーツの店に連れて行ってくれるとかで十分です。
おっさん一人でスイーツ食べに行くと、ものすごく視線が突き刺さって居心地悪くてね。
「ふふふ、なら私も守ってやろう。奴隷に落ちたとはいえ、これでもラロファだからな」
「えぇ?」
くそ、ここにも裏切り者が、ロナさんも治療したけど、それは軍人である俺にとっては義務みたいなものなので、それこそ気にしないでほしい。でもラロファの支援は心強くもある。状況が整っていれば駆逐艦くらい軽く落とせますからね、彼女達の魔法。
「ほなうちも」
ネフさん、顔色戻りましたね。そろそろ手を放してもらえません。ちょっと息苦しいです。
「だめ」
駄目らしいですよ? だめなの? なんでなのメシュさん。
「なんでや!?」
「なんでだろうなぁ?」
俺には解らんが、メテシュお嬢様的には決定事項らしい。
姦しくなって顔から手をどけて貰えたので起き上ると、レクス君と視線がぶつかる。瞬間目がつり上がるけど、なんだか羨ましそうな表情してましたね? 顔を赤くして怒った風しててもバレバレですよ? マザーさんも体をよじって肩を震わせてらっしゃる。
良い性格してるなぁ。
いかがでしたでしょうか?
ヨーマにスキルの目覚め! の可能性が微レ存らしいですよ。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




