第53話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
拝啓、父上様母上様、ワタシが居なくなったそちらはどうしてますでしょうか? 私のSOSは届いているでしょうか、でもそこに私はいません。またSOSを出したいところですが、それもままならない状況なので、変な事せずお待ちください。
艦隊を動かすなんてもってのほかです。
ところで艦隊と言えば、何の因果か懐かしい空気を感じる駆逐艦に乗っております。その艦橋の空気がすごく悪いんですが、どうにかならないでしょうか。
「くそ、くそくそくそ!! なんで毎回追い付かれるんだ」
「はぁぁ、もう何回目よ」
六回目ですねレディ、操舵手としては逃走の連続と言うのは神経をすり減らすと思いますが、頑張ってください。おじさんも昔は操船の実習を受けた身なので、大変さは解ります。立位操舵は全身が疲れるんだよね。腕で操舵しながら細かく足元のフットペダルを操作して、細かい設定を変える時は片手操作で体のバランスを取る必要がある。
あれは全身運動と言っても過言ではない。ハーネスに体重をあずけて休みたくなる気持ちも分かる。まったく嫌な思い出だ。
「6回目のワープ、ワープ装置は問題ないけどエネルギーがだいぶ減っちゃった」
「動力も大丈夫だけど、半分切っちゃったね。貯めるのに時間かかるよ?」
半分か、最大値も現在値も分からないけど、小休止を入れられればまだまだいけるだろう。連続ワープでワープ装置に問題が出てないと言うのは朗報である。ずいぶん質のいいワープ装置を使っているのだろうか、ここまで問題がないならたぶん、この後も連続使用で問題は出ないと思う。あれはそう言うものだ。
もっと朗報が聞きたいな、さっきから目を閉じて深呼吸しているのに眠れそうにないんだ。どうにもスイッチが入ってしまったようだ。とはいえ、ナンシュさんが帰って来るまで寝るわけにもいかないんだけどね。熟睡なんてしてたら叩き起こされかねない。
「バリアが結構食ってるからな、このうえ火器まで使えばすぐに空っぽだぞ?」
バリアかぁバリアは大事だよね。特に駆逐艦クラスなんてバリアがあってなんぼだし、船員の精神的負担の軽減にもなる。軽減になるからと全力運転なんて出来ないのがバリア、エネルギー食いまくるから細かい調整をしないと、動力にとっても大きな負担にもなるし、中々難しいところだろう。
「ヨーマ」
「ん?」
座席の背もたれを少し倒して目を瞑っていたのだが、メシュには寝てないのが分かったのかな? 目を開ければじっと三対の瞳がこっちを見ている。
普通に怖い。
敵意は無いとわかっていても、至近距離で蛇に睨まれたらネフじゃないけど心臓に悪い。チラリとネフに視線を向けたら首を振っている。救援は期待できない様だ。
「大丈夫だよね?」
「無責任なことは言えないな」
「くっ」
レクス君に睨まれている気がする。なんか苦悶の声が聞こえたもの。
でも俺には無責任なことは言えない。この艦橋で何も出来ない人代表みたいな俺に大丈夫なんて言えるわけがない。言える要素も無いしな、不安に押しつぶされそうな人間が目の前にいるとしても、それは誠実な言葉とは思えない。
一方で俺の判断できる範囲で変化もある。体が結構楽になって来た。回復重視で魔素をガンガン消費している甲斐があったようだ。
「魔法が効いてきたな、これなら「マスター!」うっさ」
耳無いなるが!? なんでそんな大声なんですかナンシュさん? ライブ配信の間に挟んでくる鬱陶しい宣伝並みにうるさいんですけど、ちゃんとボリューム調整してくれ高性能さん。
「うるさいとはまた辛辣ですね? まぁそれも愛ですよね、あ! あとマスターの予想通り発信機がコンテナにくっついてました。あとこの船のお尻にも発信機が付いてるみたいです。くっつき虫みたいに」
あらやだ。毎度のことながら嫌な予感だけは当たるんだから、本当に嫌になっちゃう。というか愛って何ですかね? 俺には解りません。
「やっぱそうか、やけにワープ予測が上手いと思った」
でもこれで妙に優秀な海賊の秘密が分かったわけだ。そりゃ船に発信機が付いてたらどんなにランダムワープを繰り返してもすぐについてくるわけだよ。流石におかしいと思ったんだ。
「な、なんでそれを教えないんだ!」
「えぇ? 予想だし?」
それにちゃんと教えたじゃないか、今この瞬間に? 予想の段階でいくら何か言ったところでこのレクス君が信じてくれるとは思えないからね。少なくとも確証がなければ聞いてもくれないだろう。
ちらりと左を見上げるとマザーさんと視線がぶつかる。困ったように微笑むけど、俺はそんなに気にしていない。子供なんてこんなものだ。むしろ女の子たちが大人びすぎているくらいじゃないだろうか、見た目通りの年齢だとしたらだけど……。
何か寒気がしたな? まだ本調子には遠そうだ。
「それでも普通教えるだろ!」
「うーん、でも俺って奴隷だし? 教える必要なくない?」
言ったってめんどくさいことにしかならないだろうに、そもそも俺って買われた奴隷だし? 反感を抱いていてもおかしくないと思うんですよ。なんだったら、さっきから俺の肩を握り始めたメテシュさんの方が反感強くないですか? 私の肩に不満をぶつけないでください。
はいなでなでー、そのおててから力抜いてくださいねーメテシュお嬢様? お? 何で首に手を回し始めたん? もしかしてやられるのか俺。
「奴隷ならむしろ教えろよ!」
あはは、まるでどこかの貴族みたいなことをおっしゃる。
「ちょっと! 私たちそんなつもりで購入してないのよ! ほんとだからね!」
どっちなんだろう。今の俺の立場って誰も明確にしてくれてないから、どの言葉を信じていいのやらわからない。メシュたち三人は救助と言うことらしいけど、俺はついでだからな。
メシュを見上げるとしょんぼりした顔で俺の頭を撫で始めた。ぬいぐるみ扱いか何かですかね? あとそのままレクス君を睨み始めたけど、その顔めっちゃ怖いです。ロナさんとか冷気が漏れてるんじゃないかってほど冷たい目だ。
「あ、いや違う。君たちは救助する為に買ったのであって」
「ふぅむ」
君たちは、か……なんで俺はこんなに刺々しく扱われているのか、いや恋するレクス君の事だから、俺に甘い三人の姿が気に喰わないってところなんだろうけど、離れません? ……視線で訴えたけど駄目そうです。蛇君も諦めろと言いたげに首を振っている。
味方だと思っていたのに、裏切るのか蛇君。
「レクス……」
「……マザー、手伝って」
「……レクス」
「俺には無理だ。いくら考えてもこの状況をどうにかする方法が思い浮かばない」
まぁ状況が悪すぎるよな。本職の軍人でも、この状況でどうにかしろとか無茶ぶりも良いところだ。割と良くある無茶ぶりな気もしないでもないけど、それはきっと俺の前職の環境が悪かっただけだと思う。普段から無茶ばかりやってない限り、普通はこんな状況で平静を保てたりしない。
「……了解しました。サポートを開始します」
マザーさんがそう告げた瞬間、明らかに艦橋の空気が変わる。ウォールディスプレイに映し出される映像の情報密度が上がり、艦橋の空調システムのレベルも変わる。マザーさんの周囲にも、今まで足下に小さく表示して隠していたモニターが大きく表示され始めた。
「よかった、それじゃどうしたらいい?」
うんうん、これで俺の生存確率も跳ね上がるだろう。
レクス君には悪いけど、経験の浅い君と歴戦の艦船ISであるマザーさんを比べること自体おかしいだろう。少しほっと息を吐いて視線を落とせば、ご不満顔のナンシュさん。何がそんなに不満なんですか? 貴女はとても役に立ってくれてますよって、考えた瞬間に貴女ニコニコ顔ってもう思考読んでるの隠す気ないでしょ。
「丸投げはいけませんよ? とりあえず、先ほどナンシュさんが調べてくれた通り、発信機が付いていたと言うコンテナを排出してください。船体の発信機はインテロで除去しましょう」
「位置データ要ります? 良いですよねマスター」
「いいよ」
あら優しい。ナンシュさん威嚇するわりにはそういうところあるなんて、そんないい子にはヨーマポイントを一点あげましょう。貯めても特になんの特典もないけどね。
「助かります。こちらで確認した物より3つ多いですね? ずいぶんたくさん撃ち込んでくれたようです」
「用心深いねー」
ニコニコしてるけどちょっとイラっとしてますねマザーさん、ナンシュさんもニヤニヤしてますけど、それ煽ってないですよね? どっちかと言うとどうでも良さそうな感じだろうか。マザーさんもそんな視線に気が付いたのか、ちょっと困り顔である。
それにしても、こんな大量に発信機が船体に張り付いているという事は、その何倍もばら撒いたと思うんだ。発信機と言ってもストーカー御用達の小型発信機なんかとは違って、広大な宇宙であっても、即座に位置を正確に割り出せる物となると、そんなに安くはない。なんだったらミサイルなんかよりよっぽど高い可能性も十分ある。
家ではそういう発信機系は作ってなかったと思うので、正確な価格は解らないけど、そんな高額商品を海賊がばら撒く様に使うかな? ケチらない海賊と言うのはいかにも怪しい。
「金持ちの匂いがするな……よっこいしょっと」
「ワープアウトまで30」
「ヨーマ大丈夫?」
ロナとメシュが体を支えてくれるので、座り直すのも楽である。なんという至れり尽くせり、不幸の前の幸せだと思うのは、俺の性根が腐っているからだろうか。
それにしても、体調の回復にはもっと時間がかかるものだとばかり思っていたんだけど、想定以上に調子の戻りが早い。
「ああ、魔法が効いてきたからな」
「無理したあかんよ?」
優しさが染み入る。体調不良になると余計にこう言う優しさが染みるよね。ナンシュさんはジト目ですけど、さっきみたいに威嚇はしてないし、少しは大人しくなってくれたかな。
「ワープアウトします」
あとは海賊が大人しくしていてくれたらいいんだけど、発信機の除去が済めば多少は息も付けるかな。それでも追ってこれたら、発信機は関係なということになって、非常に状況が悪くなるんだけど。
マザーさんは、変わらず微笑んでらっしゃるが、どうして顔を上げる度に目が合うんでしょうか。ヨーマにはわかりません。
いかがでしたでしょうか?
発信機が付いていたようですが、最近では発信機も随分と一般化してきましたよね。こわいですね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




