第52話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……」
三つあるシートベルトの内、二つまで付けていてよかったよ。
「いかがでしたか? あの子たちの作戦は」
「ん? んー……元気な作戦だね」
とっても元気な作戦だ。内容自体は簡単で、船首に集中させたバリアによるラムアタックで敵旗艦に強硬突撃を行い、そのまま敵後方に抜けながらのワープ。言うは簡単だけど、やるとなったら結構心臓に悪い。
制御された艦橋でこれだけ揺れたんだから、他の船内は大変なことになってたんじゃないかな、普通なら怪我人続出だろう。幸いなことに、この船にはいま艦橋に居るだけの人間しか乗って無いそうなので、怪我人が出ることはない。マザーさんの存在が無ければできない芸当だ。
マザーさんの足元でちらちら見える小さなウィンドウ、ここからならある程度内容が分かるけど、かなりの量のインテロを制御している。
「それは高評価と受けとても?」
「……」
それは何とも評価が難しい、一般的な軍での評価と言う意味であれば、作戦終了後にメンテナンスや負傷兵の治療、上からのお叱りに反省文の束の提出が求められ、それが終わったら船の階級上位者数人でお詫び行脚は確定だろう。
そうなると、先ずはどこからだろうか? やっぱり整備課とかになるのかな? いや、衛生局にお見舞いと一緒に天然物フルーツでも抱えて謝罪からかもしれない。地上産とまでは言わずとも、非合成品が必要になるかな、女性が多い場所は先に回らないと後が怖いのはどこも一緒だろう。
「そうですか……そうですよね」
俺の百面相で何となく察してくれたらしいマザーさん、ネフも何となく良くないことは理解しているのか苦笑いしているが、メシュとロナは首を傾げている。あとツンツンほっぺをつつかないでくれますかメテシュお嬢様。こそばゆいんですよ、あとナンシュも威嚇しないの。
「うるせえ! 俺たちはこれまでもこれでやって来たんだ! 俺達は宇宙一強い!」
まぁ、レクス君たちだけで船を運用している環境下であれば、そんなに間違った選択でもないだろう。マザーさんもいるし、大量の敵の奇襲を受けたようなもんだし、でもそうだな……確かにコスト管理の勉強はした方が良いだろうとは思うんだ。今後この仕事を続けていく上で、船は絶対的に必要だろうからね。
そうだ、軍なら主計課にもごめんなさいしとかないと駄目だな。あの人たちすぐ血管きれちゃうから。
「レクスうるさい」
「なんだよ!」
「はぁ、冷や冷やしたわぁ」
眉間にしわをよせた緑髪の子からこぼれた不満の声に、艦長席のデスク越しに睨み合うレクス君を見ていたら、右隣りからため息が聞こえて来た。こういうことには慣れてないのであろうネフの率直な感想だ。
そりゃまぁ、目の前に敵の艦首が迫って来たらそうもなるだろう。特にこの船みたいに、ウォールディスプレイで艦のほぼ全周囲を見渡せるこのタイプの艦橋なら、体感型シアターなんかよりド迫力だ。バリア抜かれたらそのまま船と一緒にぺちゃんこだからね。
多分、それを言ったらネフ泣くんじゃないかな、中身は大人な女性だけど、こんな環境は初めてだろうからね。
「怖かった」
それに比べてメテシュお嬢様とロナお嬢様は落ち着いている。ロナはどこか達観した感じだけど、メシュに関しては一種の慣れのような雰囲気を感じる。詮索しても仕方ないとは思うけど、どういう環境で育った子なのか。少なくとも座り込んだネフと違って、立ったままちゃんと体の保持が出来ているし、戦闘艦の艦橋が初めてと言った様子ではない。
「怖いならちゃんと椅子に座ってなよ、危ないぞ?」
「やだ」
嫌だそうです。
いくら慣れているとはいえ、立ったままというのが危ないのは事実なので、おじさんとしては座っていてほしい。なにせ、俺の肩を握っている手が度々首に回ってきそうになるので怖い。この子、身長が高いから手足も長いんだけど、何というか細くてしなやかな腕で首を絞められると、蛇に首を絞められているみたいな気持ちになるんだよ。
「わがままなんだから……それで、手伝わないの? この中で優秀なのは自我持ちISの君でしょ?」
「今回の依頼は手伝わない約束なので、それでも口が出てしまうのは我がことながらお恥ずかしく……」
「なるほど」
何ともお母さん然とした返答だ。何だかんだこっそり艦内の制御とかやっているのは手伝っていることにはならないのだろう。その上で更に指示や提案と言う所まではやらないと言うのが、彼女の線引き、というか今回の難易度設定ということか。
まるで幹部候補生の訓練課程を見学しているようだ。常に微笑まし気な表情でレクス君たちを見詰めている彼女は、過去にそういった仕事をしていたのかもしれない。この船で、同じ場所で、今とは違う誰かを見ていたのだろう。終わりのない命と言うのは、少し残酷だな。
「大丈夫かな?」
「わからん」
わかりません。やめなさいメシュさん、返答に不服だったからと髪先で頬をくすぐるのはやめなさい。蛇君も舌先で参戦するんじゃありません。
「軍人やったんやろ?」
「軍人だから何でもできるわけじゃないし、この子たちのスペックもわかんないからなぁ?」
軍人だったからって、何でもできると思われては困りますよネフさん。大体俺の総合能力なんて軍内部でも下から数えた方が早いんだから、そんな落第軍人にこの短時間で彼らを把握しきるなんて無理無理。最低限そのへんクリアして、現在宙域と艦の状況を確認しないと何もわかんないよ。
「ワープアウト」
「……ふう」
「詳しく説明をしま「後方にワープ反応!」あら」
マザーさんが何か言いかけたけど、どうやらまだ安心できる状況ではなさそうだ。俺もゆっくりマザーさんとはお話したいところだけど、こんなピッタリ追いかけてこられるとなると、あの海賊はずいぶんと腕がいいようだ。もしくは船の性能と言うことも考えられるけど、そうなるとちょっとまた話がややこしくなりそうである。
「ワープ準備! 後方のシールドにエネルギー集中! 全速で逃げるぞ」
にしてもえらくピッタリ張り付いてきたな、ギリギリとは言え交戦圏内にアウトしてきたとなると、強運スキルの重ね掛けか? いやもしかしたら……。
「ふーむ、ナンシュさんや」
「はいマスターお任せください! ちょっと散歩してきますね」
「理解が早くて助かり……理解してる?」
あの僕なにもまだ説明してないんですけど? やっぱり頭の中を読んでませんかね? その無言の笑顔が大変怖く見えるんですけど、もし頭の中読まれてたとしたら、俺の恥ずかしいあれやこれやもバレバレになってしまうんですが、精神干渉妨害魔法の刻印術開発が急務かもしれない。
「当然です! コンテナとお外を見てきますね」
あ、ちゃんと理解してるんですね。たいへんたすかるます。
「俺と違って優秀だなぁ」
「何かするのか?」
「いやぁ優秀な海賊だなぁと思って」
急に消えたナンシュを探して、きょろきょろしていたロナさんが顔を覗き込んでくる。でも教えてあげない、どこに耳や目があるか分からないから話さない。まだ俺はこの場にいる人間を心から信用なんてしてないからね。まぁ信用していても話さないとは思うけど、そんな可愛いジト目で見られても話しませんとも。
「ふざけるな! 俺の方が強い!」
「そう言う話じゃないんだけどね?」
レクス君は戦闘に集中してください。君の頑張りが俺の命に直結してるんだから。そもそも君が弱いとか、海賊が強いとか言う話をしてるわけじゃない。妙に優秀な海賊の行動が気になっているだけだ。
「随分と自由なISなのですね……しかしこれは、なるほど」
うむ、マザーには解るよね? でもそれなら俺達があの独房から逃げ出す前、ナンシュさんが暗躍していた時から、彼女は俺らを観察してたんじゃないだろうか、してないなんてありえない。
まるで彼女の手の平の上で踊っていたみたいで、俺の中にある残り少ないプライドがざわつきます。俺の子供心が、常にニコニコと温和な笑顔を浮かべる彼女を驚かしてみたいと囁く。
なるほど、マザーさんの雰囲気、家のナーナに似ているのか……そりゃこんな子供心が囁きもするわけだ。親しみが持てているのもその所為だろう。
「ごめんね自由な子で、悪い子じゃないと思うけど、ちょっと頭がおかしいんだ」
「聞こえてますからねマスター!」
「おっと?」
いかんいかん、姿が見えないから聞こえてないと思ったけど、耳はちゃんとデバイスに残していたようだ。
「ヨーマは意外と口が悪いんだな、少しは優しくしてあげた方が良いんじゃないか?」
いやいや、ああいうタイプはじゃれてる程度が良いんですよ。それに俺は結構口が悪い人間ですよ? 俺の事なんだと思ってるんでしょうか、レクス少年に不良軍人と言われるくらいに不良ですからね。心を許してはいけない人種なので、気を付けないと駄目ですよロナさん、なので肩に手を優しく置かないでください。
「良いこと言いますねそこのラロファ! ナンシュちゃんポイント1点を贈呈しましょう!」
「なんだそれ」
何のポイントだよ。ロナさんも苦笑いしてるぞナンシュ。
「出来れば名前で呼んでほしいのだが……」
「残念ですがポイント不足です。それではしばらくお話しできませんが、寂しがらないでくださいねマスター」
基本この子、俺以外にはツンツンよな、というか名前呼んで貰うのもポイントが必要なのか、他にどんな特典と交換可能なんだろうナンシュポイント。ちょっと気になるぞ、ナンシュさては意外と策士か。
「ワープ行けるよ!」
おっと、ワープがいけるようです。黒髪おさげの女の子はワープ管理担当かな? ほかのエネルギー管理もやってる感じだろうか? ここからではレクス君の立つ艦長席が邪魔で見えないな。ここから見えるのは総舵手の女の子とレーダー手の緑髪の子、あと暇そうにしている赤紫色の髪の子だ。赤紫の子は火器管制だと思うんだけど、まぁ逃げる時は暇かもな。
「ワープ!」
「ワープします」
「さてどうなるか」
うーん、ネフさんのしっとりした手が、肘置きにのせた俺の右腕を掴んでいる。危ないので俺の腕をポール替わりにするんじゃなくて着席してほしい。
三人とも、どこかしか俺の体を握っていますが、俺に頼られても何もできないですよ? なんせ体の力は今も抜けたまま、実は魔法の力で椅子に張り付いてるだけですからね。咄嗟に動けない状況なので、何かあった時に死ぬのは俺からだと思う。
いかがでしたでしょうか?
ナンシュちゃんポイント、気になりますね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




