第51話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……あいつら蹴散らしてワープだ! 準備しろ!」
マザーさんに怒られて不貞腐れたレクス君が元氣に指示を出す。彼らのリーダーはレクス君なのだろう。艦長席の前に立って指示を出している姿は中々様になっているけど、蹴散らせるのかな? いやいや、彼らが出来ると言うのなら何か方法があるんだろう。
大人として、子供たちを信じることは大事だな。
「無理です。戦術面戦略面の両面から推奨できません」
残念、無理らしいです。
マザーさんが言うならそれが正しいと思います。なんせ艦船IS、人間なんかよりもずっと船のことを理解しているだろう。乗組員のポテンシャルしだいで戦況が変わる事もあるけど、それもわかってそうだし、本当に無理なんだろう。
「でも、やらなきゃやられるだけだろ!」
「コスト面でも戦闘を行うのは推奨できません」
あーわかる、コストの事を考えると戦えなくなるから考えるなとよく言われたけど、実戦ではそうもいかないんだよね。特に安定した補給が望めない状況じゃコスト管理が重要になってくるので、なるべく戦闘を避けるというのは別に恥ずかしい選択ではない。
「どう考えてもアイツら悪い奴だろ! なら倒さないと!」
気持ちは分かる。俺も奴隷に落ちてから、海賊に対する考え方が昔と変わった気がするので、気持ちも分からないわけではないから、是非とも蹴散らしてもらいたいと思うけど、それで船の乗組員まで危険に晒すのは賛成できない。
俺が賛成するしないなんて彼には関係ないだろうけど、ほらなんか嫌われてるし? ……ちょっと切ない。
「……依頼達成確率が致命的に低下します」
「うっ……」
傭兵としてそれは致命傷だろうな。達成率は、そのままその傭兵の腕前と言うのが彼らの考え方だ。だから大抵の傭兵はむずかしい依頼なんて受けないし、戦争や小競り合いだと分の悪い方には加担しない。その見極めもまた、傭兵の腕である。
そういう意味では、彼らの傭兵としてのランクはそんなに高くはないだろう。自分の船も真面に維持できないとなれば、まだ駆け出しと言ったところだろうか。前職の関係で、傭兵とはそれなりに付き合いもあるけど、そのへんシビアな世界だからね。
「敵船前進」
緑髪の子がドームディスプレイに埋もれながら、淡々と状況を報告している。肝が据わっていると言うか、危機感が薄いと言うのか、レーダー手としては心強い性格のようだ。システムが自動でやってくれる範囲が広いとは言え、最終判断は人の手である。冷静に情報を上げてくれるレーダー手と言うのは実に心強い。
「どうするんだよ」
「今回の報酬貰わないと消耗品一つ買えないんだよ?」
「ぐぬぅ……」
釣り目がちの子は操舵手か、背部固定のハーネスシートにホイールコントロールとは、なかなかにレトロである。目の前の光景を教官の爺様方が見たら涙を流して喜ぶことだろう。最近の軍艦はスティック型が主流だし、シートに深く座るタイプが多い。
俺は断然立座ホイール派です。見た目が何よりかっこいいからね。それにしても、消耗品が買えなくなるほどとは、貧乏なのかな。
「貧乏なのか?」
「浪費が多くて……なかなか治りません」
『…………』
浪費家なのか、だれがと聞こうと思ったけど、全員が目を逸らしている辺り、全員浪費家なのだろう。それはもうどうしようもないな、全員浪費家なら、誰かが浪費したところで注意できる奴が居ねぇ。注意できる奴がいないと、みんなやってるからと際限なく暴走するのが浪費家だ。
浪費かだけではない、他の悪い癖もだいたいが周りの環境が悪いと治る事はないだろう。
「大変だな」
それを一人でか、大変である。
「何かアドバイスはありませんか中尉?」
「え? 浪費? うーん、失敗と経験?」
とことん落ちるところまで落ちれば、見直さざるを得なくなると思う。ただ、落ちた先が悪いともう登って来れなくなるけどね。それ以外となると、やっぱ仲間内で注意し合ったり、最悪普段から複数の目による監視体制の下、厳しく改善していくしか手はないだろう。
「そうですか、次があればもう少し建設的なアドバイスが欲しい所ですね」
「難しいこと言うなぁ」
無茶を言わないでくれ、欲望に忠実な連中の矯正なんて、そんなめんどくさいこともうやりたくないね。それに俺に任せるという事は、それなりに荒療治になるという事だ。俺より腕っぷしの強い相手にやれる気はしない。
当時はもっと腕っぷしの強いやつが手伝ってくれたから、なんとかなっただけだ。俺一人じゃ無理である。何せ俺は弱いのだから。
「うううぅぅ……っ! 撤退する! ワープ準備! 全速前進、艦種にバリアエネルギー集中!」
おいおい。
「無茶するなぁ? 後ろ盾とかないの?」
流石にこんな若い子ばかりで傭兵なんてやるからには、後ろ盾くらいあるんだと思うけど、今は頼れないのかな。
「傭兵ギルドくらいですね」
「それじゃ、あってないようなものだな」
後ろ盾なしか、それで傭兵業ってのは無理があるんじゃない? というか、よくまぁ傭兵になれたものだ。傭兵も人手不足が深刻なのか、そのギルドが相当良い人たちなのか。
いや、うーん……こんな糞みたいな依頼を駆け出しにやらせる辺り、ただの人手不足かな。それに資金不足も追加かもしれない。子供まで使って金稼ぎとは。傭兵という世界も世知辛いね。
「どういう事?」
「どっか大きな傭兵団の傘下にでも入ってれば救援も呼べるだろうけど、傭兵ギルドは基本的に依頼の仲介やるだけで助けちゃくれないから」
ギルドってのは、いくつかの傭兵団が集まって作られた互助組織、その互助組織同士が協力し合うことで完成した巨大な傭兵ネットワークである。所説はあるけど、元となったのは人類がまだ母星から宇宙に飛び出す前の時代からあった冒険者ギルドらしい。そこからいくつも派生した中の一つが傭兵ギルドの核になったそうだ。
そんなギルドと言うのは、基本的に依頼の仲介や斡旋、傭兵ローンとか傭兵の金銭補助に、傭兵業の登録や管理といった事務作業が仕事であって、物理的に助けてくれることはない。それは傭兵団の仕事になる。
「誰かの下につくなんてだせぇことはしねぇ!!」
「……子供だねぇ」
「子供ですから」
まぁ、子供と言ったけど彼のような傭兵は少なくない。大きな傘の下は安心できるのだが、そのぶんだけ縛りも多く、そもそも自由を求めるアウトローな傭兵たちが、一つにまとまると言う方が珍しいとも言える。そういった傭兵団と言うのは、トップや上層部に強力なカリスマがあるものだ。
時にカリスマは強ければ強いほど、カリスマを持つ者同士で反発を生むものだ。レクス君にもそんなカリスマが……あるかどうかわからないけど、プライドがあると人の下に着くのは難しいのだろう。
「俺も今は誰にも助けてもらえないから大して変わらないけどな」
なけなしのプライドで家族にいいかっこして見せたいと行動した結果が、これである。何とも情けなく、ままならないものだと思う。
「ヨーマには私たちが居る」
「……それはそれで、かっこ悪いなぁ」
突然優しい声で囁いて頭を撫でるのはやめてほしい。不意打ちすぎて涙腺が緩んでしまう。おじさんと言うのは老化と共に涙腺が弱くなるものなんだ。とは言え、寿命が飛躍的に伸びた現代においておじさんの定義は曖昧だけどね。
それにしてもなんで皆さん頭を一斉に撫で始めるんですかね? 妙に機嫌よさげなネフの顔をちらりと見て視線を前に戻す。視線を落とすと、手の中のナンシュがハイライトの消えた目で三人を睨んでいる。視線が合うとにっこり笑って手を撫で始めた。
女の子、怖い。
「高エネルギー反応! たぶん対艦レーザーだよどうする?」
「そのまま突っ切れ! 先頭のでかいのに一発当ててワープだ!」
「うんうん」
全面バリアに出力を集中させているなら正しい対応だ、この状態で下手に旋回したり避けたりすると、最悪の場合、側面をやられてしまいかねない。ダメコンで走り回る羽目になてしまう。死にたくないから率先して消火作業とか参加していた学生の頃を思い出す。
まぁ俺が前に出ると周りが慌てて引き留めに出て来るから、俺の班はいつも最前線で対応していたと高評価を貰ったのはいい思い出だ。あとで班のメンバーにすんごい怒られたけど、戦闘服着てるんだからそこまで心配しなくてもいいのにと、今でも思っている。
「だいじょうぶかな」
心配そうな声のメテシュが、頭を撫でていた手を俺の肩にのせて覗き込んでくる。少し見上げれば心配そうな顔が三つ、ネフは少し緊張した様に顔が強張ってすらいる。
「初手は威嚇だろ、海賊ならそうする」
なので射線に向かって突っ込まない限り当たる事はないだろう。奴隷としては新鮮な海賊との付き合いも、宇宙での出会いはまぁそれなりに経験があるので、あいつらのやり方は何となくわかる。特に頭っから命令してくる様なタイプは、この傾向が強い気がする。
「何故だ?」
「同数戦じゃないからな、海賊なら落としにかかるよりいたぶる」
他人が嫌がること大好きだからね海賊って、相手が嫌がったり痛がったり苦しんだり、そういうのが好きなことが、海賊になるための素養なのかもしれない。それだけでなれるとするなら、軍にもたくさん素養持ちが居たけどね。
「性格悪い」
「悪く無かったら今頃真っ当な仕事してるんじゃない?」
「たしかにな」
でしょ? 世の中大変なことが多いとはいえ、それが海賊になる理由になるとも思えない。結局居心地がいいからずるずるとそこに居続けるんだろうからな、ロナさんに性格が悪いと言われてもしょうがない。
「……」
「あたーっく!!」
「うっさい!!」
元気なことは良い事だけど、さてどうなるかな、とりあえずシートベルトをもう一本追加しておこうか。俺の体が椅子から落ちないように、何も言わずにメテシュが肩を掴んでくれているけど、どうしても力加減が怖いんだよ。
ちょっと力抜いてくださいと肩の手を軽く叩いてみても、反応は薄い。やはり命の危険を伴う脅威を前にして怖いのだろう。少し冷たくなった手をもう一度優しく叩いてあげると、少しだけ肩を握る力が緩む。これがたぶん普通の反応だ。慣れてしまうとわからなくなることを再認識させられるな。
いかがでしたでしょうか?
慣れとは自然と成功率を上げてくれるものですが、慣れすぎると危険の接近に気が付きにくくなるので、注意が必要です。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




