第50話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……ふぅ」
体全体がだるい所為で口から意図せずため息が漏れる。
目の前では、俺を抜きにしてこれからどうするか、少年少女達が話し合っているが、なんというか喧々囂々と言った感じだ。特に、レクス君と釣り目がちな薄茶ポニテ少女がいがみ合いの中心といったところか。釣り目がちな薄茶ポニテ少女というのも失礼な気がするけど、まだ名前はレクス君しか知らないんだよね。
「熱が上がってないか?」
おでこに当てられたロナの手が冷たくて気持ち良い。……大丈夫かな。今の発言変態っぽくなかった? ナンシュさんが対抗しておでこ触ってるみたいですけど、やっぱり心読んでません? 貴女。
「マスター、少し休みましょう。魔法の効きも悪くなります」
「そうだな」
そうしたいです。
目を閉じると、体が泥の様に溶けて椅子に沈み込むような感覚に襲われる。あぁ、このまま眠りにつける感覚、全身の疲れが流れ出す様な、気持ちいい感覚だ。
「休むのかよ!? こっちはいま死刑になるかならないかの瀬戸際なんだぞ!」
おはようございます。レクス君の怒声で意識が引き戻されたヨーマです。心臓がバクバクなっています。眠る瞬間の人間を叩き起こすのは、確実に寿命を縮めるのでやめましょう。
「レクス、無理を言ってはいけません。いま目の前にある状況はあなたの計画の結果なのですから、それも踏まえてどうにかしなくてはいけません」
「そりゃ、そうだけど……」
ナンシュさん、人のおでこの上で威嚇するのはやめてください。スカートの中が見え隠れしていて気が気じゃありません。何というか、フィギュアのスカートの中を覗くような背徳感を感じます。ちなみに俺の部屋に飾ってあるフィギュアは、全部兄さんたちからのプレゼントで、自分で購入したものはありません。なぜかみんな自分の性癖を押し付けて来るんですが、なんでなのでしょう。
「どうする? ここでじっとしてても報酬が下がるだけだぞ?」
「報酬がもらえなきゃ船も真面に動かないよ」
アウトローも色々大変そうですね。
宇宙船を動かすというのは中々にお金がかかるもので、駆逐艦サイズともなれば停泊する港の費用も馬鹿にならないし、各種燃料も結構な額になる。大昔のシステムと違って魔素を用いた安定かつ低燃費な動力があるからとは言え、その分ワープなんて言うエネルギーを馬鹿食いする航法が主流の現代。魔素の需要は高まるばかり、魔素収集技術の発展目まぐるしくも値段もそんなに下がらない。
魔素の豊富な新しい星系でも開拓できれば、少しは変わってくるんじゃないかな、あとは自前で収集して回るしかないけど、それも時間がかかるからね。収集場所を探すのも一苦労だし、その他の維持費とか経費とか考えると、現実的じゃない。
「もう色々足りないからねぇ?」
赤紫の髪の子が、話し合いに飽きた様に椅子を跨いで座っている。背凭れに顎を乗せて前後に揺れる向こうには、彼女の席に広げられた空中ディスプレイが数枚ほど浮かんでいた。どうやら彼女はこの船の火器管制担当らしいけど、ミサイル……しかもあれは大型対艦ミサイルか、所謂ロマン砲の類だ。なかなか当たらないんだよアレ、好きな人多いけど。
「そうよ! このままじゃ毎日のシャワーも浴びれないじゃない! 受け渡し予定宙域まで行かないと」
水まで厳しい状況は末期だな、おそらくフィルター資材が切れかかっているんだろう。使用後の水を綺麗にろ過して再利用することで、水は無限に使えるけど、ろ過したり処理したりする資材は有限だからね。あれもグレードによっては意外と高いし、低品質品だと水質に問題も生じかねない大事な消耗品だ。
消耗品要らずの魔素式もあるけど、そっちは魔素の補給に高くつくし、魔素切れイコール完全停止だからな。一長一短と言うやつだ。……視線を感じる。
「お父様に会えるの?」
「あ、うん。メテシュさんはそう言うことになるかな? とりあえず海賊宙域を抜けないといけないけど……燃料大丈夫だよな?」
メシュが見てたようだ。彼女の救出依頼を出したのは彼女の父親のようだ。まぁ良いとこのお嬢様っぽい気配もするし、探していても可笑しくはないだろう。
問題は海賊宙域を出ることだな。政府の管理外宙域である海賊宙域の中じゃ、とてもじゃないが危険すぎて合流なんて出来ないし、出来るコロニーや星も無い。そうなるとまずはこの宙域を脱出しなければいけないわけだけど、宙域と言ってもだだっ広いわけで、普通に飛んでいては一生出れない。そうなると必要なのがワープに使うエネルギーである。
某筋肉部の人が筋トレに使ってたような魔素セルが一番わかりやすいだろう。もしくは動力から直接チャージすることになる。
「うーん、何も無ければ十分余裕はあるよ」
「セルが無いからワープは早めに言ってね」
「お、おう」
どうやらセルは無いらしい。それは割と大丈夫じゃない状況だ。セルをワープ装置に装填することにより、短時間でワープを実行できるが、動力からのチャージだと即座にワープができないから、通常航行を挟む必要が出てくる。
ワープ中と違って通常航行中は海賊に狙われやすい。世の中にはワープ中にもかかわらず襲い掛かってくる頭のおかしい奴らも居るんだけどね。ベラタス宇宙軍って言う貴族の私設軍が一番身近かな、まったくどこかで聞いたような名だけど、本当に頭がおかしい集団である。そのくせ技術も練度もトップクラス、才能の使いどころを間違っているというほかない。
「ヨーマ、部屋に行く?」
「そうだな、ちゃんと休んだ方が良いだろう」
ぼーっとしていたようだ。見た目清楚な女性だったり、爽やかイケメンでぴっちり制服を着こなすどこかの船員の夢を見ていたようだ。そのくせ中身は修羅の国の理論で動くから訳が分からない。元氣にしてるだろうか? 下手すると今まさに俺を探して飛び回っていそうだけど、そんなことないよね。流石に……ははは。
あの、メシュさん、頭を揺らさないでください。起きてます。起きてますから、気持ち悪くなっちゃうから。ちゃんと部屋で寝るのでゆらさないでもろて……。
「……ちょっとまって、そいつをどこで寝かせるんだ?」
さぁ? どこで寝たらいいんでしょうか? 何だったらここで今から寝てもいいんですけど、寝たらレクス君がすぐ起こしにきそうだから、安全な場所が良いな。
「私のベッド」
それはどうなんだろう? 貴女絶対に一緒に寝ようとしますよね? そんな状態で俺が安心して眠れるわけないでしょう。これでもおじさんだって男の子なんだから、もう少し考えて行動してもらいたい。
「うちのベッドでもええで」
うん、それもダメだね。年齢的に多少近付いたとはいえ、見た目はどう見てもにアウト、そして俺は社会的に死ぬ。まだ死にたくない、まだまだ俺の冒険はこれからなんだ。どうにか二人を止めてよロナさん、最年長の良識を見せてやってくださいよ。
「私も構わんが、別の部屋と言うのは無しで頼む」
おまえもか……ここに俺の安眠を守る守護者はいない。頼むから俺にこれ以上体力を使わせないで、そしてナンシュさんは俺のおでこから降りてください。ワンピースなので、そんなに暴れるとそのつつましやかなものの向こうの顔まで見えてしまいますよ。
「だめだろ!」
ほらレクス君もダメだって言ってるんだから、降りましょうね。実態はないけど、何か感触は感じる不思議なナンシュさんを両手で包んで膝の上に置く。なんだか喜んでらっしゃるが、まぁ威嚇しないで貰えるならそれでいいや。
しかし、どんどん体がだるくなる。もう四肢に力が入らない。
「……ここでいいよ、体固定してたらいいだろ? というか歩く元氣もねぇ」
純然たる本音である。たぶん治療魔法の所為で体が休眠モードになってんだと思う。副交感神経優位と言うやつだな、そんな話を昔聞いた覚えがある。
「ええ、構いませんよ」
「マザー!?」
やったぜ! これで心置きなく休め……お嬢様がた何でそんなに不満そうな顔なんです? ナンシュさんは上機嫌そうですけど、見下ろしてくる三人の目には明らかな不満が見て取れる。
いや、俺は勘が悪い方だから気のせいかもしれない。こんなところで寝ようとする怠惰な俺に呆れているということかも? でも仕方ないんだよ、椅子からずり下がる体を起こすだけでも結構気合が必要なくらい体が怠いんだから。
「それより大変ですよ?」
そうなんですマザーさん、たいへんなんです……ん? これは警報だな。
「前方警戒ライン内にワープ反応!」
「なんだ?」
なんだろうね? 助けだと良いんだけど、それはちょっとご都合主義すぎるよね。
「通信来てる」
「なんなんだよ!」
「小僧共、お前たちが持って行った積み荷を寄こせ。これは命令だ」
開口一番ステレオタイプな悪人のセリフだな? 海賊? にしてはずいぶんと小綺麗な感じがするな。かと言って、一般人と言った感じの雰囲気でもない。
「ふざけんな! これは正規で購入したものだぞ!」
「言っただろ、これは命令だ」
命令ね? 確かに分が悪そうではあるけど、見た感じまともなのは中型の三隻だろうか? ほかは中型も小型も海賊らしい継ぎ接ぎな感じがする。ゴテゴテしたセンスの海賊船と違って明らかに三隻は雰囲気が違う。
「渡すわけないだろ!」
渡さないらしいですよ暫定海賊さん。俺としても渡さないで貰えると助かるけど、一方的に要求を押し付ける人間相手に真面な対話をするだけ無駄なので、さっさと逃げた方が良いと思います。
「そうか、なら面倒だがスクラップにして探すとしよう」
「前方の艦隊動き出した。小型14中型5」
多いな、小型だけならまぁ何とかなりそうだけど、ちょっとこれは戦うには無理だろう。早く逃げようぜレクス君、なんだかプルプル震えて顔が赤くなってるけど、そんなことしてる暇ないよ。
ほらマザーからも言って、くれない感じ? あぁまだ様子見ですか、その困ったような微笑みは何ですか? お付き合いくださいって感じですか? まぁ俺は何も出来ないからシートベルトでも締めてますね。……え、なんで少し残念そうなんです? あとメテシュお嬢様は首を絞めないでください。
「くそ! なんで、金も払ったのに」
「……海賊だからな」
海賊だからね、名乗ってないから海賊かどうかは知らんけど、通信いれて挨拶も無しにいきなり命令するような人が、そんなこと気にするわけないよね。というか、海賊との交渉なんてそんなものじゃないの? もしかして俺が知らないだけで、お行儀がいい海賊も入りんだろうか。
そんな世界があるなら、もう少し俺の運命もイージーモードだっただろうに……とりあえず俺を睨んでいないで逃げませんかレクス君? なんでそんな親の仇みたいに睨むんですかね。
ヨーマには解りません。なのでメテシュお嬢様はその腕を解いてくださる? あとロナさんは絶対そのお嬢様の腕を握った手の力を緩めないでくださいね? 緩めた瞬間に俺の首はへし折れます。
いかがでしたでしょうか?
優しい海賊で満たされた世界、そんな世界も書いてみたいけど、考えただけで破綻したのでやめておきます。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




