第56話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「航路の演算が完了しました。多少コストは改善しましたが、現状のリソースをフルに使っても宙域離脱は半々と言ったところです」
短距離ワープが完了してさらに息を潜めて今後の方針を話し合っていた艦橋内に、マザーさんの計算結果が報告される。たぶん一回ではなく何度も計算した結果なのだろう。彼女の表情は優れない。あれは色々最悪のケースを考えている軍人と同じ顔だ。
実習艦ではそんな顔をする軍人は見たことがないけど、研修のためにいくつか回った艦隊の中で見たことがある。切り捨てるものと生かすものを考え、葛藤していた上官もそんな感じだったと思う。
「海賊と鉢合わせしたら?」
「レッドラインと思ってください」
レッドライン、死を覚悟しろって事か……その時はその時、最期まで守るしかないな。今から死ぬこと考えてたら鬱になってしまうので、その事を考えるのはここまでにしておこう。
「……やるしかねぇ! ワープ準備!」
切り替えが早い、踏ん切りが良いのは若さの特権かな。いや、どっちかと言うと性格だろうか、俺にもこのくらいの気概があれば色々悩まないで済んだかもしれない。
ただそういう悩みとは別に、まだちょっと気になる事もある。
「ヨーマ、守るから」
「そうだね、白兵戦になった時は一緒に頑張ろう」
守られるだけというのは、昔から好きじゃないんだ。好きじゃないからと言って足手まといになるのも問題だけど、まぁまだ何とかなるでしょう。魔素の補充用に刻印術も入れ替え完了したし、ちょっと防護系は心もとないけど、体調も簡易治癒で十分なレベルまで回復してきている。
「はくへいせん?」
おや? メテシュお嬢様は、わからないかな。
「知ってますよマスター! そう言うのは船員から嫌われるフラグと言うやつなんですよね?」
「嫌う奴は多いし、わざと言って気持ちを盛り上げる奴もいたな」
君はどこからそんなネタを仕入れて来るんだいナンシュ。確かにちょっとフラグっぽかったけど、事実として海賊とやり合うなら考えておかないといけない選択肢だよ。別にフラグじゃないから、言ってて若干そんな気がしないでも無かったけど、普通の覚悟だから。
「昔と変わりませんね」
「やめろよな!」
そんな、マザーまで梯子を外してきただと? いや、元から梯子なんてかかってなかったかもしれないけど、レクス君なんか凄く嫌そうな顔をしている。さてはフラグ気にする方だな君? 割と君もフラグ建築家の才能ありそうだけど。
「でもね? 海賊と戦うならそんなに珍しい話じゃないんだよ」
よくある話なんです。
「ワープできるよ」
「よし、ワープだ!」
おっと、少し眩暈? 体調がまだ戻り切ってないのかな。もしくは、ワープ空間に乱れが出てる可能性もあるな。どっかで無理なワープ機動でもした奴がいるのかな。
「なんで珍しくないの?」
「え? まぁ海賊にとって戦闘は狩りだからね、なるべく相手の物資が無事な状態で鹵獲したいんだよ」
海賊が稼ぎを少しでも増やすなら、撃墜より鹵獲が基本である。だから海賊は白兵戦大好きな人種が多い、次に白兵戦好きが多いのは宇宙軍である。もしかしたら、軍人と海賊は意外と気が合うかもしれない。気が合うとか以前の間柄ではあるけど。
「……客船に乗り込んできたのもそうなの?」
「メシュ……」
「そうか、メシュは客船から攫われたんだったか」
そういえばそうだった。この話題はメシュの前でするべきではなかったかもしれない。俺の肩を掴む手もあまり力が入っていないあたり、トラウマになっているのだろうか。かといって、ここで話を急に変えてもわざとらしい。
それに、彼女が問いかけて来たという事は、そのトラウマと向き合っているということかもしれない。
「うん」
じっと俺の目を見詰めるメシュ、これは話を逸らすわけにもいかなそうだ。
「客船狙いなら尚の事、乗り込んで適当に奪ってすぐ脱出する。小物海賊がやる手法だな」
「小物なの?」
少し意外そうな顔だ。でも確かに警備もしっかりしているはずの客船を襲うような海賊は、一般人から見たら小物とは思えないかもな。でも実際に、客船を襲うのはちょっと頭の悪い小物海賊に多い傾向だ。
「大物なら船ごと奪うし、もっと美味しいものを狙う。人攫い以外で客船とか人がたくさん乗った船は狙われにくい」
大物海賊ならやる時は船ごと奪うし、彼らにとっては捌くのが面倒な人間より、資源や金品に魔素などを満載した貨物船や輸送船の方が美味しい獲物だろう。護衛艦が付いてるとリスクが跳ね上がるから、中々客船を船ごと持って帰るなんてことはしないし、客船から数人攫うなんてもってのほかだ。
小型船で突撃して数人攫ってすぐに離脱なんてことするのは、小物海賊以外だと依頼を受けた犯罪者くらいなものだろう。もしかしたら、彼女を攫ったのは海賊じゃないかもしれないな。
「この船もうちらが狙いだから白兵戦があるって事?」
「わからん、でもあの船は海賊と言うより」
そこがちょっと気になるところではある。ずーっと違和感がぬぐえない。もしかしたらあの船は、
「傭兵ですね」
「やっぱり?」
あ、もうわかってたんですね。それならそうと早く行ってくださいよマザーさん、恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。
「はい、映像から傭兵の登録がされていた船だと確認出来ました」
「……過去形?」
「最近になって取り消された形跡があります」
傭兵から海賊に転向と言うのは、まぁ無くはない。傭兵と言っても、アウトローが結構多い業界なので、順当に足を踏み外す人間と言うのはそれなりに居るものだ。だからレクス君たちが買い取った奴隷を横からかすめ取ろうとする海賊が、元傭兵であったとしてもおかしい話ではない。
おかしい話ではないのだが、彼らの話を聞けば聞くほどにどうにもタイミングが良すぎる。まるで最初からこうなることが分かっていたかのようなタイミングで、傭兵から海賊に転向しているような。そこまで行くと考えられるのは、まぁそう言う事だろう。
「…………貴族が後ろ盾になったかな?」
「私の所為か」
そんなことはない。そんなことはないのだが、ずいぶんと件の貴族はロナにご執心ではあるようだ。美人のしょぼくれた顔と言うのは、それでも美しいが、あまり見ていたいとも思わない。何か言って元気づけた方が良いと思うけど、何を言ったらいいやら。
「ワープアウトします」
そんな事を考えている間に通常ワープが終了する。これで何も無ければ、またゆっくりワープのエネルギーを充填してから、再度ワープを繰り返してこの宙域を脱出することになる。
しかし、流れるような模様が走るワープ空間から脱出した先で、警報が鳴り響く。
「前方に艦隊確認!」
中型1に小型が2か、ワープ先を予測して艦隊を分散させたか、一隻相手なら妥当な選択だな。状況は最悪である。マザーさんも少し焦り顔だ。待ち伏せだからまだ距離はあるので交戦圏外だけど、ワープアウト反応を検出してこちらの補足は完了していることだろう。
ギリ、イエローラインと言ったところか。
「なんで!? ……お前裏切ったな!」
「ん? おれ?」
なんでそうなるんですレクス君? 親の仇でも見るような目で睨まれてもおじさん困惑しか出来ませんが? ほらほら、後ろの女性陣も驚いてるじゃないか痛い痛い!? 肩、メテシュさんおちおちついてもろて。
「そうだよ!」
「なんで?」
肩に食い込んだおててをタップしたら気が付いてくれたようで、今度は肩を撫で始めるメテシュさん。なんだかレクス君の視線がより鋭くなった気がします。
しかし、ほんと何でそんな結論に至ったのか、そう思うという事はそこに至った何かしらの考えがあるはずだ。流石に気に喰わないから犯人に仕立て上げようなんて、緊急事態のこんな状況でやるような事ではない。よね? ちょっとマザーさん視線逸らさないでくださる? 貴女のとこのお子さんでしょうに。
「デバイス持ってるし! ……あと、あと……得するから?」
何をおっしゃってるんでしょうかこの子、何となくアホの子なんじゃないかなぁとか思っていたけど、本格的にアホの子なんじゃないだろうか。貴方、本当にフルカスタムベビーなんですか? ちょっと疑わしくなって来たぞ? どんなカスタム何ですか? マザーさんちょっと仕様書とかあります? てか得か。
得ってなんだ? …………うーん。
「しないな」
特に何も浮かばない。
俺の返事に静まり返る艦橋内が、真っ白に染まる。
いかがでしたでしょうか?
疑われるヨーマは疑われ過ぎて混乱しているのか、それとも本当に得するために裏切ったのか、そもそもそれは裏切りなのか。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




