第45話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
振り向き後退って見上げた先に浮かぶ場違いな服装の女性、重力とか無重力とかそう言ったものを一切無視して、たおやかな薄緑のワンピースが揺れる。
大抵の男は見惚れるであろう美しさと、どこか人間離れした雰囲気。実際人間ではないのだから、おかしくはないのだが、今の俺にとっては一番会いたくない相手だ。
最悪の想定はいつも当たる。
「か、艦船IS……」
艦船IS搭載艦を海賊が使ってるなんて世も末である。しかも船は軍用の駆逐艦と来たもんだ。参ったねこりゃ。
「ヤヴァイですね」
うん、すごくヤヴァイね! アンデットと遭遇するよりやばい。なんせここにISさんがいらっしゃるという事は、完全に詰みってやつだ。誰が海賊の船にISが住んでるなんて思うかよ、軍の駆逐艦にだってそんな船はないぞ。
ああ、終わった。これはもう捕縛されたも同義、そして俺は宇宙空間に排出されて終わり、だってっここは格納庫、ちょっと扉を開いてポイで簡単に清掃ができる場所だよ。そんなことしたらデブリ増やすなと怒られて始末書ものだけどね。
「それで、貴方はどちらの……いえ、所属を確認します」
「マスター……」
そんな不安そうにされても俺の方が不安なんですよナンシュさん。あなたポイされても死なないけど、俺は死んじゃうから。あと、後追いとか重いのはやめてほしい。
というか、お話しする気がある? 海賊だからすぐにポイかもっと残虐なのかと思ってたけど、以外と話せる? いやまぁ海賊やってるISなんて初めて見るけど、まだ活路はあるか? ここから入れる保険はあるということか。
……よし、落ち着け俺、いつも通りだ。焦ったら終わり、心はいつも海のように。
「……うん、こんな格好ですまない。退役済みなんで所属は無いけどヨーマ・ベラタス、最終階級は中尉だ」
久しぶりに階級なんて言葉を使ったな、ミニナンシュさんが驚いてこちらを見てらっしゃる。見えないでしょ? 俺も自分が軍人には見えないし、ましてや中尉になんて見えない。言ってて情けなくなるけど、仕方ない、見えないんだもの。
「まぁまぁ! 中尉殿でしたか、それは申し訳ありません。知っていればこんな不当な扱いはさせませんでしたのに」
「なに、懐かしい気持ちになれたしかまわないさ」
何か喜んでるし、不当? 海賊的にはどうなんだろうその評価。実際、実習艦と変わらない構造に設備、そしてよくサボ……休憩していたこの場所、懐かしくならないわけがない。風邪の気怠さも、どこか訓練後の疲れに似ている気がする。
それにしても随分表情豊かなISだ。ナンシュを見ていると感覚が狂うけど、ISはこんなに表情豊かというか、感情を前面に出すことはないと思う。俺が知っているISもそれほど多いわけではないけど、軍に居た頃に話したことがあるISは、もっとこう冷たい感じがしたんだけどな。
「そう言っていただけると幸いです」
「それで、この船は軍属じゃないよね?」
一縷の望みと言うやつだ。もしかしたら何か機密性の高い作戦中の軍艦かもしれない。いわゆる擬装艦の類であれば、内部構造はそのままに外観だけ海賊船に変える事も、無くもなくもないと思いたい。そういう噂はある。
「そうですね。軍としては無所属と言っていいでしょう。現在の所属となりますとパイオティア星系の民間船と言う事になりますね」
残念民間船でした。民間船? 民間船が駆逐艦? しかもパイオティアってどこかで聞いたことがあるぞ? 何か問題のある星系じゃなかったかな? 軍の駐留が出来ないから巡回艦隊で定期的に監視がされてたような。
理由は知らんけど、それが海賊? いや民間船とは言ってるけど、どういうことだろう。
それにしても、
「民間船が海賊から奴隷を購入かぁ」
「良いんですか?」
「グレーだな」
とってもグレーだと思います。
ほぼ全てが失われることになった戦後の傷が全く癒えてない宇宙時代、生きるために海賊と取引する者は少なくない。少なく無いとは言え相手は完全な犯罪者、軍がサーチ&デストロイしても怒られないくらいに犯罪を犯しているのが海賊だ。
まぁ、理由無くやっちゃうと反省文が必要になるけど、そんな犯罪者と関係があるとなれば民間とて要調査対象になり、そしてブラックリストに入り、最終的にはやり過ぎて民間とは認められなくなるだろう。奴隷取引とか下手すると一発アウトである。でもバレなきゃ犯罪じゃないのも事実。
「そうなんですよねぇ」
「……しかしここまで自我を持ったISなんて珍しいな」
ころころと表情が変わる。なんだったら人間でもこんなに表情が変わる人は珍しいかもしれない。何ともやり辛い相手である。
「何を言ってるんですか! ここに美人で器量よしな素晴らしいISが居るというのに!」
耳元で叫ばないで貰えますナンシュさん? 私の鼓膜は強化体のそれと違って天然物で弱いんですから。というか俺の中でナンシュはもう論外、考えるだけ無駄な存在として位置付けたので、無駄に張り合わないでほしい。
そもそも単純に感情が豊かなISと言うのは確認されているんだよ、長生きなISほどその傾向が強いと言われている。問題は軍艦の艦船ISはそういった感情を抑制していると言われているのに、目の前のISさんはそうじゃない。
「そう言う意味じゃない、軍の船でも強い自我持ちISなんてほとんどいないよ、大戦以降宇宙を漂っていた船から細々と回収されたISが居るくらいで、民間船にISが乗ってるなんて早々無いことだよ」
軍がどれだけ血眼になってISを探していることか、ISの存在だけで最新鋭のシステムを軽く凌駕するんだから、喉から手が出るほど欲しいと思う軍は多い。宇宙軍とは言っても、戦争終結後に集めて無理やり固めた人工岩石みたいなもんだ。中身は派閥争いで脆いもの、余計にISと言う存在は大きなものになる。
それが民間に存在するなんて……パイオティアはだから監視されていたのだろうか、きな臭くなってきたな。
「そうなんですか? 昔は宇宙船なら大体ISが一人は居たと思いますけど? まぁ私ほどの自我持ちとなると少なくはありましたけど!」
「ふふふ、あの大戦は酷いものでしたね。私はパイオティア星系の居住星に落ちていたのを星の民に回収されたんですよ」
「旅立たなかったのか?」
ナンシュさん、顔の真横で無い胸を張られても困ります。それよりこの人は旅立たなかったのだろうか? 大半のISは戦争終結による束縛の消失で宇宙に旅立ったものだと思っていたんだけど。ナンシュさんは寝坊組だろうし、落ちたって事は撃墜か何かだろうから、そこから眠りにつくとも思えない。
「ええ、まだ守るべき船員が居たので、旅立ち損ねました」
「そうか」
あぁ、この人は戦争時点で自分で生きる目的を手に入れていたのか。なら旅立たなかったのも分かる気はする。ISが宇宙に旅立ったのは生きる目的を探すため、所謂自分探しの旅だそうだからね。どっかの偉い学者が、若者特有の思考形態と似た感情を戦後のISが持ったのだろうとか言ってた気がする。
「この船に乗っている船員は皆その子孫なのです。どうか穏便に出来ればと」
子孫、なるほど、なんだかちょっと重い話になって来たぞ? 俺はそういうの苦手だからな、穏便に……いやいや穏便に済ませて欲しいのは俺だよオレオレ! 俺だってこれからまだまだ長く生きる予定で、親孝行もする予定なんだから、こんなところで殺されてやる気なんてないぞ。
いかん、興奮したら眩暈がしてきた。
「……そんなこと言っても、俺は殺される気なんて無いぞ?」
「その辺りに関しては私が全面的にお守りいたします。そもそもこちらの不手際ですから」
ふてぎわ? 不手際? 不手際で殺されそうな目に遭ってたってこと? いや割とある話ではあるけど、あるけども……不手際であの扱いは悪意を感じるんですが? どう思いますナンシュさん。
「不手際で殺すつもりだったんですかぁ? 随分と面白い不手際ですねぇ?」
そうだそうだ! 今だけは応援するぞナンシュさん! ……なんですかそのジトッとした視線は、もしかして心読んでません? あ、いやなんか別の感情っぽい? よくわからないけど、何かに割と怒ってらっしゃるようです。
「私も頭を抱えてしまいました。ただ、いろいろと抜けてる子たちで……反論のしようもありません」
「謝罪と賠償を要求する!」
攻め時と見てめっちゃ責めるけどナンシュさん、大きさ的にあまり迫力ないよね。とりあえずそろそろ落ち着こうか? 小型のペットが大型のペットに威嚇してるみたいで、ちょっとかわいいと思ったのは内緒です。
「落ち着け、詳しい状況が知りたいんだが?」
「それは……ここが見つかってしまったようですね」
む? 何やら騒がしい声が聞こえて来る。風邪の所為か変に反響するような感じで聞こえて来るけど、結構な人数でこっちに来ているな。どうするか、逃げるか? どこに? この先はもう逃げ場はないんだけど、少しでも音から距離を取るように後退ると、すぐに水タンクに背中がぶつかる。
顔を上げると、名前も知らない艦船ISさんが微笑んで俺の隣に近付いてきた。殺そうというわけではなさそうで、ナンシュさんが威嚇する姿に微笑んでらっしゃる。守るとは言われたが、状況が状況だからあまり信用もできない。
とはいえ、これ以上はもうどうしようもないので、なるようになれである。なのでナンシュさんそろそろ威嚇やめようか? そんな両手を上げて威嚇しても可愛いだけですよ。なんだっけ、なんかそんな動物がいたよね。忘れたけど。
いかがでしたでしょうか?
追い詰められるヨーマの命運は如何に。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




