第44話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
艦橋の大きなスクリーンに映るのは艦内を映す監視カメラの映像。いくつも並ぶ映像の中には個人携帯のボディカメラ映像も含まれているが、そのどれにもヨーマの姿は映し出されない。
「どこにも居ないよ」
「監視装置に不良が多いから」
「それにしてもどこにも映ってないなんておかしいでしょ」
どうやら艦内に設置されている監視カメラは、万全な状態ではない様で、宇宙船の船内全体を完全に掌握しているとは言えないようだ。しかし、だからと言ってログを辿ってもどこにもその姿が映っていないというのは、どう考えてもおかしい。
それでも彼女達は、それがヨーマによる電子妨害だとは考えない。彼女達にはそれが不可能だという自信を裏打ちするものがあるのだろう。
そもそも現代の宇宙船と言う物は非常に大きい。それは乗組員の精神的負担軽減のためにも余裕をもって設計されているからだ。それが戦える船ともなればさらに大きくなる。居住空間だけでも広く、本来人が入り込むために作られていない空間も含めれば、探す必要のある場所は無数にある。
「倉庫の中にも居ないぞ。もっと捜査範囲を広げるべきじゃないか?」
「そんな遠くに行けるわけないだろ!」
赤紫の髪を掻き上げながら話す女性は、遠隔操作できるインテロを使って映し出された倉庫の映像を確認しながら扱く真っ当な意見を述べるも、それに対してレクスは大きな声で反論をして見せた。
「いねえんだから範囲広げるしかねぇだろ!」
しかしその反論の声には、ただ範囲を広げると面倒になると言う感情しか乗っておらず、返す声で怒鳴られると舌打ち一つこぼして渋々捜査範囲を広げるように歩きだす。
「ヨーマ……」
「心配だな」
そんな様子を見詰めるのは、不穏な空気を察して与えられた部屋から出て来たメテシュ、ネフ、ロナの三人。三者三様の表情を浮かべるが、どれもその顔に不安がにじんで見える。会わせろと言っていた相手がまさかの脱走をしているなどと思わなかった彼女達は、状況が飲み込めずにただ映像を見詰める事しか出来ない。
「……そんな心配しなくても、船の中なら大丈夫よ」
「そうやろか」
心細そうにつぶやくナンシュの肩をそっと抱いて慰めるロナ、二人の声に操舵席に座ったまま振り返った少女は、なんと声を掛けたものか悩んで、当り障りのない言葉しか掛けられなかった。
何故ならまだ彼女達は、自分たちがヨーマにした仕打ちを話していない。むしろ詳しく知っているはずのレクスが何も知らないと言って語らないのだから、話せる内容もほとんどないのだ。それ故に気まずい表情を浮かべる彼女は、すぐにまたコンソールに手を置いて捜索のためカメラによる監視を再開する。
そんな気まずい表情を浮かべる少女がいる一方で、
「俺が探してやるから大丈夫だって!」
レクスは自信満々に声を上げ、わざわざカメラに自分の顔が映るように操作してウィンクを三人に投げかける。
「「「……」」」
三人の顔から表情が消え、メテシュの周囲で魔素の乱れによる蜃気楼のような揺らぎが現れる。詳しい話を聞いていなくても、明らかに悪いであろう相手の軽率な言葉を許せるほど、まだ三人は彼らに心を開いていない。
「リーダーが元凶だよね」
「うっ」
「私達も気が付かなかったから……」
元凶が誰かであるかは、状況からある程度察していた三人は、納得した様に頷く。
「そ、そうだぞ! 俺だけが悪いわけじゃないんだ!」
『…………』
そしてレクスが言い訳を口にするたびに、メテシュの機嫌はどんどん悪くなっていくのであった。
一番幼く見えるネフと、一番大人びて見えるロナが、メテシュを落ち着かせるように頭を撫でて慰め、蛇二匹が髪の中に隠れて目に臨戦態勢の光を宿している頃、ヨーマは広く大きな格納庫の中で大きく宙に舞い上がっていた。
「よっと」
床の窪みに指をかけて強く床を踏んで指を離す。すると立ち上がる勢いのままに真っ直ぐ上に飛び上がる。無重力で真っ直ぐ移動するコツである。たまに気流が乱れていると、掴む場所の無い空中で軌道が変えられてとんでもない場所に飛ばされることもあるので注意が必要だ。
「わわ、無茶しないでくださいよ?」
良い子は絶対に真似してはけない。初等部の子なんかは楽しくてやりがちなんだが、大抵力が足りずに失速、そのまま身動き出来なくなり泣く羽目になる。そして怒られて二度泣くのだ。俺はそういうことをやらないタイプの子供だったから、やらかす旧友の姿で学んだ覚えがある。
そして、真っ直ぐ打ち上げられた先にある壁の細長い窪みの端に指を入れて強く引っ張れば、
「大丈夫だ慣れてるから、ほらここに取っ掛かりがあってよっと」
「はぁ? それで移動できるんですねー」
空気圧式のスライダーが動いて、短い距離だけど体を強く引っ張ってくれる。格納庫である関係上でっぱりがあると事故の元になるのだが、かと言ってでっぱりがないと無重力の空間で方向転換に困る事が多い。そうした問題解消の一つがこの埋め込み型エアスライダー、採用されている船のほうが少ない豆知識だ。
そうなると完全にこの船は知ってる船と同型艦で間違いは無くなる。まぁここまで似てればそうなるんだが、あまり当たって欲しくないことはよく当たるものだ。
「緊急時用だけどな」
後は天井付近を横滑りして、ぶつかる壁に手を着き床に降りれば目的地に到着である。位置的には緊急着艦用のネットゲート近くの広場である。緊急時は損傷した艦載機から運び出されたパイロットの一時避難場所にもなるが、そいう用途では滅多に使われることはない。
「到着、さてさてこれが生きて無かったら本格的に積むんだが……」
そこには分厚い防護壁に守られるように大きなタンクが置かれている。
「チューブパックも入ってるな、水質はどうかな?」
胸くらいの高さにあるサービスハッチを開けば中に給水用の口とそれに合わせたチューブパックが入っている。使われてないのか少し匂うが、滅菌灯は生きてるから大丈夫だろう。
水質はハッチの中の確認用ディスプレイに表示される。簡素な物理スイッチを押して行けばそれぞれの項目ごとに色で判別できるんだが、全部グリーンで問題なし。
チューブパックの先端を給水口に差し込めば、即座にパックが水で満たされる。漏れも無くちゃんと飲めそうだ。
「問題なさそうですね? 綺麗すぎるくらいです」
「それでいいんだよ……ぷはぁ、あー何時間ぶりの水分だろう」
うまい! 大しておいしくない筈の水が極上の水に感じる。家を出てから一番うまい水だ。なんだったら家で飲んでいた水よりうまい気がしないでもない。空腹は最高のスパイスと言うが、渇きは全ての水を甘露に変える最高の甘みだな。うまい! うまい! はぁぁぁうまい。
「約40時間ぶりでしょうか?」
「そのくらいか、もっと長く感じたよ」
割とぎりぎりだったか、これ以上水分摂取が遅れていたらいくらシールドスーツの恩恵があってもきつかっただろうな。生物である以上は水分とは切っても切れない関係だ。だから、効率食はどれもドロドロのゲル状なのだ。
あれでそれなりに食べれるんだから、先人の知恵には感謝だよなぁ。
「それにしてもよくここまですんなり来れましたね。マスターも迷わないし」
「ああ、実習艦と構造が同じだったからね。初めて乗って3年ほどお世話になった駆逐艦だからよく覚えてるんだよ」
「マスターは軍人だったのですか?」
「あれ? 言ってなかったかな? もう退役して予備役だけどね」
あれ、話してなかったか。まぁ正直そんなに話したい話でもないから無意識に避けていたのかもしれない。そう言えばネズミおじさんともそんな話はしてないな、これは何だかんだちょっとしたトラウマになってるのかもしれない。
なんせ退役理由が能力不足だからな、これ以上の任務継続はその生命の維持を保証できないとかうんたらかんたら色々書かれた書類を渡されて、それでもまだ軍人を続けるかとか言われたら誰だって辞めるだろ。
貴族の義務も一応は達成していたわけで、辞めるのに何ら支障はなかったし。
「初耳ですよ、それにしてもよく今まで無事でしたね? スキルを持たない軍人なんて文官くらいなものでしょうに」
残念、その情報はもう古いんだぜナンシュさん。最近の軍人は最低一つはスキルを持っているものなんだよ? 毎日書類漬けの隊員であろうと、でっぷり太って禿げあがった頭に毎日最新の毛生え薬を塗るだけの仕事をしている後方の糞上司も、みんなスキル持ちなんだ。
その所為でスキル無しの安全は保証できないってわけなんだけど、なんかそのへんは中央議会の新しい法案が可決されたから、そういう風に変更になったとか聞いた。俺が軍学校に入る前から法案はあったらしく、その時期からスキル無しは軍に入る必要は無くなっていたらしい。
そんなこと言われても、義務がある貴族には関係ないんだけどね。
「貴族の子弟の義務ってやつだな、弱くて早期退役したわけだけどさ。昔はここでよく同期達と休憩したもんだよ」
そんな無駄な青春を浪費し……楽しいひと時を過ごしたのがここである。毎日とは言わないけど、艦載機実習がある時はよくここで休憩してたものである。タンクがでかいから設置場所も大きく設計されていて、緊急時の事も考えてあるので解放感もあるのだ。
友人たちとダラダラするにはもってこいのスポットと言うやつである。
「休憩ですか、その為の給水タンクなんですか?」
「これは艦載機の洗浄用水なんだけど、精密機器にも使うから飲めるんだよ。だから艦載機乗りの給水スポットになっていてね? 味付きチューブパックをよく差し入れしたな」
この大きなタンクは使用上の都合で浄化設備も一緒になっていて、常に純水に近い水が保管されているんだが、まぁ純水と言うのは美味しくない。いま俺が飲んでおいしいと感じるのは体調不良によるバフであって、普通に飲めば軽いようで重たく、まったく自己主張をしないのに存在感だけはあって変に不味い。
あの頃の俺たちにとって、味付きチューブは必需品と言える。むしろ純水だからこそ雑味も無く飲めて、艦載機やメカニックの学生の間ではお金の代わりにもなる素晴らしい製品だった。あれを作った人はきっと神である。百種類以上あるのに未だに種類が増え続けているとか、神と表現せずにはいられない。
何でも大昔の陸軍将校が考案したとかなんとか……いかん、テンションがおかしくなってきている。あぁでも、なかなか手に入らなかったあのケミカルドクター味が懐かしい。
「そうですね。昔からこの給水タンクエリアでは、艦載機乗りや整備兵が休憩をしていたいものです。褒められたことではありませんがね」
「そうそう、あんまり騒ぐと上官に怒られてな」
そうなんだよ、大体使うのは艦載機乗りと整備課のメカニックで、差し入れの味付きチューブをめぐってじゃんけん大会をしていたら教官に全員拳骨を貰ったものだ。そのあと教官も味付きチューブじゃんけん大会に参加するんだから理不尽極まりない話である。
「ええ、ええ、とても懐かしい」
うんうん、わかってくれる人がいるとなんだかうれしくなっちゃうなぁ。おしむらくはサービスハッチ内には衛生面から無菌チューブパックしか置いておけないことだろう。懐かしくて口寂しくなってきた。
「マスター?」
ナンシュさん、そんな神妙な顔でどうしたんだい? いやまてよ、どういうことだ。
「ん? ……んん?」
ここには俺とナンシュだけ、なら誰が俺の話に同意してくれたというんだろうか? おかしいな、おかしいな、なんだかぞくぞくして来たぞ。
「ふふふ、あまりに懐かしお話で、思わず声を出してしまいました」
顔を上げれば薄っすらと透けた人型のナニカが立っている。声がするのはそこから……俺、終わったかな。
いかがでしたでしょうか?
ヨーマの前にナニカが現れた!!
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




