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RETURNER ―帰還者たちは戻れない―  作者: れのん
第1章
22/57

第22話「七人で、一度だけ」

『RETURNER ―帰還者たちは戻れない―』


第22話「七人で、一度だけ」


【帰還から一年六ヶ月 山のキャンプ場】


七人が、同じ場所に立つのは、半年ぶりだった。


春の終わりの山は、夜になると、まだ冷えた。湿った土と、若い葉の匂いがした。恒一が、焚き火を起こす。火の粉が、夕暮れの空へ、細く立ちのぼった。


七人は、自然と、あの灯の並びで円を作った。朔は、一番、山道が見える位置。恒一は、火の前。


「来てくれて、ありがとな」


恒一は、枝で火をつつきながら言った。


「話したいことがある。それだけって言ったけど、本当は、少し長い」


「聞くよ」と朔が言った。


恒一は、ポケットから革紐を取り出した。小さな牙の欠片が、炎の色を映す。


「俺には、待たせてる奴がいる」


誰も、口を挟まなかった。


「狼みたいな女だ。口は悪い。喧嘩っ早い。でも、一度認めたやつは、絶対に見捨てない」


恒一の声が、少しだけ、やわらかくなった。


「セリナって、言うんだ」


火が、ぱち、と鳴った。


「俺は、戻る。お前らに、来いとは言わない。ただ」


恒一は、七人の顔を、ゆっくりと見渡した。


「行くなら、全員で、だ。一人でも欠けたら、俺は行けない。そういう決まりなんだろ」


来いとは言わない。そう言った口で、全員で、と言う。朔には、それが頼みではなく、条件に聞こえた。恒一を責める気にはなれなかった。ただ、胸の奥に、小さく引っかかった。


琴音は、何も言わなかった。笑っているように見えて、膝の上の指だけが、白かった。


「……恒一くん、ひどい」


莉子の声が、震えていた。


「そんな言い方したら、断れないじゃん」


「だから、言いたくなかった」恒一は、苦しそうに笑った。「でも、嘘はつきたくなかった」


しばらく、沈黙が続いた。それを破ったのは、伊織だった。


「断れないのは、朔の専売特許でしょ」


「……おい」


「事実じゃん」


誰かが、吹き出した。澪が、くすくすと笑う。琴音も、口元を押さえた。緊張が、ふっとほどけた。


【計測】


「玲奈」と朔が呼んだ。


「うん。測ってる」


玲奈の足元で、小さな計測器が、淡く光っていた。最初は、静かだった針が、ゆっくりと、揺れはじめる。


ざー、と音がした。


低くて細い、遠い波のような音。今度は、三秒では終わらなかった。五秒、十秒。山の木々が、風もないのに、ざわめく。


七人が、同時に顔を上げた。


焚き火の上の、何もない空間を、全員が見ていた。


「……玲奈」


「条件1は、合ってる」玲奈は、計測器から目を離さずに言った。「七人が同じ場所に集まると、反応が、前より強い」


朔は、立ち上がった。


「今夜は、ここまでにしよう」


「でも」と伊織。


「少しでも変なら、全員、切る。そう決めた」


朔の声は、静かだった。それでも、有無を言わせなかった。


七人が、順番に立ち上がる。焚き火から離れる。ノイズが、少しずつ、遠のいていった。


針が、ゆっくりと、元の位置に戻った。


誰かが、長い息を吐いた。


【夜更け 莉子と恒一】


みんなが寝袋に入ったあと、莉子は、焚き火の前に一人で座っていた。恒一が、隣に腰を下ろす。


「眠れないか」


「……うん」


莉子は、膝を抱えた。


「私、行きたくない」


「そうか」


「でも、みんなが行くなら、って思う自分も、いて」


恒一は、枝を一本、火にくべた。


「それは、選んでないな」


「え」


「選ぶってのはな、『行かない』って言えることだ」


莉子は、顔を上げた。


「……行かない、って、言っていいの」


「言っていい。でも、その代わり」恒一は、少しだけ、笑った。「俺たちは、お前を置いていけない。……だから、ちゃんと考えてくれ」


「ずるい」


「分かってる」


莉子は、小さく笑って、膝に顔をうずめた。星空の下で、火が、ぱちぱちと音を立てていた。

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