第11話「もう一度、同じ画面」
『RETURNER ―帰還者たちは戻れない―』
第11話「もう一度、同じ画面」
【帰還から五ヶ月 天音リナ】
通話の画面に、七つの顔が並んでいた。あの夜と同じ配置だった。
『配信を、もう一度やりたい』と、朔が言った。『ただ、俺たちだけだと、風当たりがきついと思う』
「分かってる。今日あたり連絡が来ると思ってた」
『……なんで』と伊織が目を丸くする。
「勘。でも、半年近く待ってたから、私の枠はずっと空けてあったの」
リナは笑った。七人が生きていると言い続けた責任が、自分にはあった。それだけのことだった。
『ありがとう!』と莉子が画面の中で身を乗り出す。
「いやいや、大げさ」
そのなかで玲奈だけが、画面越しに、リナの顔をじっと見ていた。観察するような視線だった。リナは、それに気づかないふりをした。
【打ち合わせ】
『やるなら、計測したい』
玲奈が、小さな機材を画面に掲げた。
『配信中の音、電波、電磁ノイズ。あの夜と、同じ形で。別々の部屋、同じ通話、同時に配信。何が起きるか確かめたい』
通話の空気が、一瞬で張りつめた。
『同じ形は、だめだ』と朔が言った。
『でも、同じじゃなきゃ意味ないんでしょ』と伊織。
『再現できなければ、条件が分からない』と玲奈が頷く。
朔は腕を組んだまま、しばらく動かなかった。
『危険があったら?』
『分からない』玲奈は静かに答えた。『でも、分からないまま放っておくほうが、危険』
朔は目を閉じた。そして、いつもの言葉を口にしかけて、止めた。
『……俺が』
『また背負う』と恒一が言った。
朔は、小さく息を吐いた。
『……全員で決めよう。少しでも変だと思ったら、全員、すぐに切る。それが条件だ』
画面の中で、手が挙がった。莉子。澪。琴音。伊織。玲奈。
最後に、恒一が、ほんの少し遅れて、手を挙げた。その視線は、画面の向こうの、どこか遠くを見ていた。
【配信当夜 白川玲奈】
玲奈は、自室の机に座っていた。足元には、小さな計測器。針は静かに動かない。
モニターには、七つの通話ウィンドウが並んでいる。朔の部屋。澪の白い壁。伊織のゲーム機の山。莉子のキッチン。琴音の練習室の扉。恒一の焚き火。それぞれが自分のチャンネルで、同時に配信を始めた。リナは自分の部屋から、七つの画面を見守ってくれている。
「……ただいま」
朔が、カメラに向かって言った。
コメント欄が弾けた。『おかえり』が、画面を埋め尽くす。普段は数百人が集まる程度の七人の枠に、七つ合わせて三十万を超える視聴者が詰めかけていた。あの事件の注目が、そのまま画面に流れ込んでいた。
『本当に、何も覚えてないの?』
『二週間、どこにいたの?』
「分からないんだ」朔は、ゆっくり答えた。「それしか、今は言えない」
誰かが小さく頷く。問い詰めるコメントは、あまり増えなかった。
流れていくコメントの中に、一つだけ、玲奈の目にとまったものがあった。アイコンが無地のアカウント。
『おかえりなさい』
ごく普通の、短い一言だった。玲奈は、それを視線で追って、すぐに画面から目を離した。
配信が始まって、十分ほど経ったときだった。
ざー、と音が鳴った。
低くて細い、遠い波のような音。三秒ほどの短いノイズが、七つの部屋のスピーカーを同時に揺らした。足元の計測器の針が、大きく振れる。
七つの画面で、七人が同時に顔を上げた。
別々の部屋にいるはずの七人が、同じ瞬間に、同じ仕草で、カメラの外の何もない空間を見ていた。
何も起きなかった。
ノイズは消えた。針は静かに戻った。誰かが息を吐いた。
『音割れ?』『今、みんな同時に上見なかった?』
『機材かな』朔が笑ってごまかした。
玲奈は、足元の計測器に目を落とした。ノートに、小さく書き留める。
『条件:不足』
【同じ頃 高城誠司】
自宅のソファで、高城は七つのアーカイブを並べて見ていた。
七人が同時に顔を上げる瞬間。何度か巻き戻して、同じ場所で、同じ動きを確かめる。
「……二度目か」
かつて、七つの画面で見た光景と、同じ仕草だった。
高城は、再生を止めた。




