7 旅立ち、そして初陣
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
――旧ベトナム領北部山中――
森深い山の中に、激しい銃声が途切れる事なく響き、爆発音が幾度も響いた。
角ばった宇宙服のような人造の巨人兵・FDが数機。どの機体も森で運用するため迷彩色に塗られ、マシンガンを撃ちながらじりじりと後退してゆく。
操縦者の一人が悲鳴をあげた。
『もうダメだ! 逃げよう!』
『チッ、戦利品の回収もしてないのによ……』
別機からの毒づく呻きが通信機ごしに漏れる。
操縦者達の年齢はまちまちだったが、生地の厚い服を着てヘルメットを被った、労働者風の東洋人達だった。本人達も衣服も、乗っている機体も武器も、薄汚れていて生活に余裕があるようには見えない。
そんな彼らの向かう先は、山中を抜ける大きな道路。既に舗装はボロボロだが、海から隣国まで抜けるかつての国道である。
しかし……
『しまった、先回りされたぞ!』
『しくじったかよ!』
一機が振り向いて悲鳴をあげ、別の機体から絶望の呻きが漏れる。
彼らの視線の先では――銀色に輝くサソリの群れが道路で蠢いていた。
FDの部隊が足を止めると、彼らを追っていた群れがすぐ視界に入ってくる。こちらも機械のサソリの群れ。
機械奇虫のサソリども。
『一点突破だ! 切り抜けるぞ!』
そう叫んだのは精悍な中年男。彼だけは迷彩の軍服を着ている。ファンという名の元軍人で、このチームのリーダーだ。
彼の機体が先頭を走った。大きな盾を前に、マシンガンを撃ちながら。他の者達もそれに続く。
するとサソリが尾を持ち上げた。先端が輝き、光線が撃たれる。それは木々の間を潜り抜け、FD達の足元に着弾した。
吹きあがる爆炎。それを合図にサソリの群れが光線を次々と撃ち込む。
FDが各部を貫かれ、操縦者達が悲鳴をあげた。
光線兵器が実用化されると、世界各国の軍はほとんどが採用した。
光線用エネルギーのバッテリーは、大量の弾丸より軽く、場所をとらない。一度に運搬・装填できる「弾」の数が爆発的に増える事になり、継戦能力に数倍~十数倍の差が出るのだ。
ただし実弾に比べて高価な装備なので、十分な数を配備できるのは正式な軍隊ぐらい。
買えないなら無いと同じ事……民間の傭兵や武装組織は実弾を使い続けるしかなかったので、実弾兵器は駆逐されなかった。
その光線兵器を機械奇虫どもが容赦なく撃つ。人間の住居を破壊し奪った資材や、地球の地下から掘り出した資源で生成して。
国家が崩壊し、小規模な集団で生き延びる人々は、それに実弾兵器で対抗するしかない。
必死で抵抗する人間達へ、人類の先端技術だった武器が雨あられと撃たれていた。
だがサソリどもの片方が急に動きを止めた。関節部から煙をあげると、くずおれて力尽きる。
当然、光線の雨も半減した。
「何がおこった……?」
ファンが戸惑いの声を漏らすと、コンテナを牽引する大型のトレーラーが道路に現れた。
それは止まった群れへ近づく。コンテナからFDが立ち上がった。
FDには様々な外装装備がある。それらを何も装備していない、素の姿の機体は、透明な球状の頭部にちなんで【オーブ】と呼ばれている。
砲撃用や近接戦闘用、飛行用や水中用の、様々な、鎧のような外装を装着した状態の機体は【ガンナー】や【ナイト】、【フライヤー】や【サブマリナー】等と呼ばれるのだ。
現れたFDも【オーブ】には違いないが、初めて見るモデルだった。
従来の物よりややスマートで、首回りや腰が細めに造られている。頭部も球状ではなく、人の頭に近い形をしていた。そのフォルムは、宇宙服というより白いジャケットを着ているかのようだ。
傷一つない新品で、武器を装備しているようには見えない。
そして白い胸部の中央には円形の結晶が赤く輝き、放射状に赤いラインが走っている。
「ヒノマル? いやキョクジツキ……?」
胸の模様が、ファンにはそう見えた。
そのFDが足元のサソリの頭を鷲掴みにした。
サソリはバラバラに分解されてゆき、その部品が浮遊して未知のFDの全身へ張り付いてゆく。
サソリの頭を兜のように被り、尾が後頭部へ辮髪のように付いた。ハサミは両腕の手甲となる。
サソリだった追加装甲は、装着されると紫色に染まった。
「なんだ、あの機体は……もしや日本製?」
先ほど見えた胸のマークからファンはそう思った。
だが残る半数の機械奇虫が光線を撃ち込んでくる。
未知のFDとトレーラーで通信が行われ、それが地元のFDの通信機にも漏れ聞こえた。
『消去装置の効果は確かだけど、範囲が狭すぎるかな』
『ごめんなさい……』
『いや、いいよ。機能停止した機械奇虫を再構成して武装を手に入れたし……敵の中へ切り込んでからもう一度消去装置を使おう』
そして、未知のFDは森へ駆け込んできた。
無数に飛んでくる光線を、木々の間を抜けながら機敏に掻い潜る。運動性の高さはファンが正規軍でも見た事のないレベルだ。
そして走りながらも後頭部のサソリの尾が動き、反撃の光線を撃ち込む。動きながらだというのに精度が高く、一撃ごとに敵を一機捉えていた。
『FD流に名付けるなら【スコーピオン】かな……調子は上々だ』
呟くジョウ。だがこの能力の高さを生むのは武装や機体の性能だけではない。
操縦席にて、ジョウの人造ボディは座席にベルトで固定されているものの、眠ったように動かない。ジョウ本体であるメカ甲虫は人造体から抜け出て、座席前面にあるパネルに嵌め込まれているのだ。
ジョウは神経の一部を接続するどころか、機体の部品として自分を組み込んでいるのである。
FDの操縦方法は機体を自分の体とする事。機体そのものと化しているジョウは、標準の接続法で出せる運動性・精密性を遥かに凌駕する性能を引き出していた。
それでも敵の攻撃が多すぎるので時々は被弾もしたが、堅牢な装甲で弾き、ダメージはほぼ無く、動きは全く衰えない。
そして接近するや、手甲についたハサミを敵へと打ち込む。
打撃の瞬間に閉じる鋭利なハサミが機械奇虫どもを斬り裂いていった。
圧倒的な戦闘力でサソリの群れの中へ突き進む未知のFD。
それが群れの中央に達した時、全ての動きが止まった。
サソリどもは不可視の力で無力化され、煙をあげて地に伏せる。
未知のFDは防御態勢のまま、それを確認していた。
機械奇虫の群れを一方的に全滅させ、未知のFDがファン達の機体へ通信を送ってきた。
『こちらは村雨ジョウ。人里に案内してもらえないでしょうか?』
ファン達は戸惑うが、助けてもらったのは確かだ。
「あ、ああ、かまわないが……その機体は一体? 名は何という?」
『機体ですか? 【ライズィンザン】ですけど……』
ファンの問いにジョウはそう答えた。
合点がいくファン。
「ライジングサン! そしてジョウ=ムラサメ、その名からして君は日本人では? ならその機体はやはり日本製の新型!」
『そこらへんはちょっと、機密という事で……』
うやむやに誤魔化すジョウ。
機体名はアラマーマ族の言葉で「他の星の剣」ぐらいの意味なのだが、本当の事を話すと長くなるし……受け入れられないかもしれないのだから。
なんとか10話以内に主役ロボを描写できた。
なおトレーラーは旅立ち直前に廃品を拾ってきて改造した物。




