4 朗報と凶報
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
村雨丈は、己を改造蘇生させた少女へ、面と向かって断言した。
少女によって造られた体で。
「はっきり言わせてもらう。俺は地球への侵略に手を貸さない」
リンナは「え?」と、大きな目を丸くする。
彼女にとっては意外だったのだ。
だがジョウは強い口調で続けた。
「血族を大切にしろと言うなら、俺にはまだ姉弟や親戚がいるからな。故郷への攻撃に協力はしない」
「そ、そんな……」
衝撃を受けるリンナ。
それを見ながら、ジョウは覚悟を決めた。
少女によって造られた体だ。生殺与奪の権も握られているはず。
(せっかく生き返ったのに、ここで終わりか)
恐怖はあったが、せいせいもしていた。
協力するふりをして騙す事も考えはしたが、慣れぬ芝居を超能力者相手に成功させる自身も無い。
それに……この少女は彼女なりに必死なのだ。敵ではあるが犠牲者でもある。
味方になれないからと、騙して裏切る真似もしたくなかった。
開き直り、二度目の死を待つジョウ。
その前で、リンナは――
ジョウの側によろよろと近づいてきて、がっくり膝をついた。
そしてぼろぼろと泣きながら、ジョウの膝にすがりついてくる。
「助けてください……お願いです、私にできる事なら何でもしますからぁ……」
仰天するジョウ。
「えっ? 無理矢理命令する事とかできないの!?」
「そんな機能、ありません……」
「なんでつけないの!?」
「要ると思わなくて……」
「超能力で叩きのめそうとか思わないの!?」
「私のESPは攻撃用じゃありません……」
「俺が逆らう可能性をなんで考えないの!?」
「この人なら同じ血族を助けてくれると思ったから……」
リンナが泣きながら返す言葉の一つ一つがジョウを驚かせる。
しまいにジョウも脱力のあまり膝をついた。
その首に手を回して抱き着き、リンナはしゃくりあげて泣いた。
とりあえず文化の隔たりだ。
しかしいつまでも抱き合っていたら話が進まない。
改造されたという脳味噌を機械甲虫の中で必死に働かせ、ジョウはリンナに問いかける。
「何でもするって言ったな?」
「はい、はい!」
必死にしがみつき必死に頷くリンナ。
その背を、ジョウは優しく叩く。
「……地球人になってくれ。この星を……この地を助けてくれ」
それは事の発端、謎の強大な種族を敵に回す事になるかもしれない。
しかしジョウは地球を攻撃する気にはなれないし、リンナを見捨てたくもないのだ。ならば少女の方が地球の味方に鞍替えしてくれないかと、そう考えたのである。
訊かれたリンナは――
バッ、と大急ぎでジョウから離れた。
(受け入れられない提案か……?)
残念な予感。
だがリンナは、緊張した顔を真っ赤に紅潮させ、どぎまぎしながら恥ずかしそうに、必死に叫んだのだ。
「わ、私は未熟でふつつか者ですが……よ、よろしくお願いします!」
そして頬に両手をあてて、恥じらいながらイヤイヤと身を捩る。
真っ赤な顔がちょっとニヤけていた。
「!?!?」
混乱するジョウ。まさか愛の告白かプロポーズにでも受け取られたか。
声を絞り出してリンナに確認する。
「地球に移民してくれよ、というぐらいの意味なんだが……」
ジョウが念を押すと、リンナは首を千切れそうな勢いでブンンブンと縦にふる。
「はい、はい! 私がこの星の人に迎えてもらえるなんて、こんな異郷の地で、こんな事があるなんて……え、えへへ……」
もうニヤけるのを隠しきれず、照れ笑いを漏らしながら、リンナはジョウの片掌を握り、ぐにぐにぐにぐにと揉み始める。
とりあえずアラマーマ族も肯定の意は首を縦に振るのだという事はわかった。
なぜ掌を揉まれているのかはわからない。あちらの慣習なのだろう。ちょっと気持ちいい。この改造体もアラマーマ族も、ツボの位置は地球人と同じという事か。
しかし少女の感情はまるで推し量れなかった。
とりあえず文化の隔たりなのだ。
「えへへへへへへへへへへへ……」
紅潮した顔でニヤけ掌を揉み続けて幸せなリンナを前に、ジョウは果てしない不安を覚える。
(異様な物を感じるというか……俺の要求は何か間違っていたのかもしれない)
まぁ文化の隔たりだ。
「とりあえず機械奇虫どもを止めてくれ。君が地球で生きるためにも」
ジョウが頼むと、リンナは元気に「はい!」と頷いた。
壁のモニターを操作するリンナ。
表示される文字をジョウはだいたい理解できた。脳味噌をいじられた際にアラマーマの言語データも入れられたのだろう。不安になるが便利でもある。
そんなジョウには、リンナが地球の全立方体へ停止用のパスワードを入力している事がわかった。
警告音とともに、パスワードが弾かれた事も。
パスワードが既に更新されている事も。
首を傾げて「あれ?」と呟き、リンナは操作を切り替えた。
どうやら更新されたのがどこでいつなのかを調べているようだ。
そして彼女は驚きの声をあげる。
「立方体が自ら更新するなんて!」
何が何やらジョウにはわからず、ただ呆然と見守るのみ。
リンナはしばらく操作を続けていたが、やがて合点がいったようだ。
「そうかぁ……再生産機能の副産物みたいですね。機能を阻害する外部からの接触方法がある事を、起動からの15年で、どこかの拠点――立方体が認識したようです。それで機能防衛のために書き換えたのかぁ……」
自分達の造った兵器の性能に感心するリンナ。
愕然とするジョウ。
「勝手にパスワードを変更するプログラムなんて有りか!?……そ、それなら指示を出すのはどうだ? 今まで指揮は受け付けていたんだよな?『攻撃しない』という命令は出せないのか?」
「や、やってみます」
再び操作するリンナ。
警告音とともに、命令の入力が弾かれる。
なぜなのかしばらく調べて……
「ジョウさんの改造のため、10年ぐらい完全オートで動かしている間に、完全オート以外の指示を受け付けないよう自分達で変更したみたいです。メンテナンスはしてたけど操作はノータッチだったので気づきませんでした……」
ちょっと言い難そうに告げてくるリンナ、
愕然とするジョウ。
「制御不能じゃねぇか、この兵器! なんでこれで運用したんだよ……」
「その、実用するのは初めてなんで、予想外が今見つかったというか……」
かなり言い難そうに告げてくるリンナ、
愕然とするジョウ。
「故郷を侵略された時に使わなかったのか……?」
「だって敵地壊滅用に造った兵器で、自分達の居住地では使えませんし……」
気まずく目を逸らして告げてくるリンナ。
愕然とするジョウ。
つまり機械奇虫どもとの戦いは、まだ終わらないという事なのだ。
アラマーマ族最後の一人は既に地球人の味方になったというのに、アラマーマ族から地球への攻撃はまだまだ続くのである。
これもまた文化の隔たりという事だ。
敵は暴走した自律兵器だった。造った種族も既に滅んでいるのかもしれない……というパターンがSFにはあるようなので、まさにその現場を目撃するという話にしてみた。
リアルタイムで目の当たりにするのはおそらく珍しいと思うので、まぁ独自性にはなったのではないかと思う。
あと「試運転してみないと欠陥に気づかない」というのも一応リアルリアリティ。




