30 誰かが君を、いつでも、どこかで
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
怜美:ジョウの姪っ子。
――パラオ・コロール島――
「うわぁ、綺麗だなぁ……」
どこまでも広がる南国の海をベランダから眺め、怜美は感激していた。
その背にジョウが――少年の姿の人造ボディで――微笑みながら声をかける。
「日本も完全に安全とは言い難いからな。すまんがしばらくここで暮らしてくれ」
「いいよ! 地元にはあんまいい思い出ないし。うん、ここでイチからやり直す!」
ジョウへと振り返り、怜美は満面の、屈託のない笑顔で元気に頷いた。
これまでの戦いの報酬を貰い、ジョウは小さな家を購入した。日本ではなく、大陸から離れた南国に。
こんなロクでもない世界でも、以前より良い点が少しはある。翻訳機がイヤホン1つで済むので海外への移住がし易い事もその一つだ。
「二人はまだ出稼ぎに行くの?」
輝く海に元気づけられた怜美だが、ジョウとリンナへそう訊くその時には、顔に僅かに翳りがさしていた。
生活費だけなら当面心配は無い。
中枢断裂弾の使用料を大東亜共栄圏が払い続けてくれる事になっているからだ。
その額たるや、兵器の相場からすればケタ外れ――安い捨て値も良い所である。
しかし人類全体がまだまだ追い詰められている状況で、大東亜共栄圏の財政も余裕が無い事はわかっていたし、今三人の家族皆がある程度のゆとりをもって暮らしていければそれでいい。そう考えたジョウの方からかなりの低額でもちかけてやったのだ。
それでも申し訳なさそうにリンナが頷く。
ジョウもだ。
今後も大東亜共栄圏の連合軍に参加するが、それは稼ぎのためではない。
「立方体はまだ世界中にあるからな」
「それをどうにかするには、まだまだ二人がいないと……か」
溜息まじりの怜美。
ジョウは自分とリンナの身の上を正直に教えた。何もかも、本当の事を。
自分の本体、メカ甲虫の姿も見せた。
信じるか否か、どう受け止めるかは怜美に任せ、ただ真実を伝えた。
人間としては既に死んでいる男と、異星から来て人類に甚大な被害を与えた種族の少女だという事も。
「どう思われようと、話した事が全てだ」
海の見えるベランダで、ジョウはあくまでそう告げる。
例え信じてもらえなくても、拒絶されても、この子に嘘だけはつきたくなかったのだ。
怜美は……くすりと笑った。
「やだな、別に文句は無いって。叔父さんはちゃんと迎えに来てくれたもんね」
不遇な環境の怜美に、口先で知ったような事を言う者はいくらでもいた。役にも立たないご高説を垂れ流して本人自身が良い気分になりたい者など、うんざりするほど。
負けるな、くじけるな、恨むな、がんばれ。それら素晴らしい筈の言葉が、いつしか嫌いになるぐらい。
そして差し伸べられた手の数は、言葉に比べてなんと少ない事か。
自ら約束し、それを果たした者は、ジョウしかいない。
そんなジョウに怜美は興味深そうに訊く。
「でもさ、ジョウ叔父さんはなんでこんな大変な事してるの? 私にもリンナさんにも世界の平和とかにも、別に義務は無いよね? なんで?」
ジョウは迷った。さて、どう言ったものか。
口にするのは簡単だ。
だが……これほど使い古された言葉、これほど安易に使われすぎた言葉は無いだろう。
口から出た途端に嘘になる。
たった一つのこの命をかけるには、それだけでいい……それは確かではあるのだが。
でもこの子に嘘はつきたくないので、結局――
「好きでやっている。それは確かだ」
こんな言い方になった。
「ふーん……まぁいいか」
怜美はちょっぴり不満そうではあったが、それ以上詮索はしてこなかった。
代わりにジョウとリンナの腕をとり、自分に引き寄せ、抱きしめる。
「次の仕事までお休みでしょ? それまでは一緒にいよう!」
笑顔で甘えてくる怜美に、リンナの顔がぱあっと明るく輝いた。
「あ、は、はい、はい!」
何度も何度も頷くリンナ。
くすくすと怜美が笑う。
ジョウも自然と笑っていた。
短い休暇が過ぎるのは早い。
必要な作業もたくさん有った。
家具を揃え、お手伝いさんを探し、学校の転入手続きも行い、etc、etc……
それでもまぁ、そんな作業はささいな事だ。
本当に必要な物は、もう有るのだから。
いつもこの胸に永遠に消える事は無い。




