八 君ト共ニ千代ニ八千代ニ
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
山和望斗:大東亜共栄圏連合軍長官。元日本の自衛官。
――大東亜共栄圏軍部・日本・本州基地――
会議室で、山和長官は部下から受け取った書類を苛立ちまぎれに握りつぶした。
以前提出した、大東亜共栄圏の活動に反対する物達の言論を取り締まる法案と罰則の草稿。それをボツにするという、日本の首相からの連絡だった。
これで3回目のボツである。
「ええい、また却下か。まさか首相の近辺に敵宇宙人のスパイが潜り込んでいるのではなかろうな?」
敵宇宙人を見た事は無いが、機械奇虫が出てくる以上、どこかの立方体に潜んでいるはず。これまで制圧した3つのどれにも居なかったが、それが「既に地球人に化けて社会に潜り込んでいるかもしれない」という懸念を長官に抱かせていた。
会議室には部下が数人いたが、その一人が進言する。
「いっそ他国の支部で現地法として採用しますか? 複数の国で既成事実を積めば……」
「逆に日本にも通せるかもしれん。うむ、手配してみようか。いつまでもこんな事に足を引っ張られているわけにはいかんしな」
ちょっと強引な方法だとわかってはいたが、魅力的な案でもあった。
こんな事に時間をかけたくはない。次の立方体制圧作戦を進めなければならないのだから。
それは周囲の部下もわかっていること。
周囲の部下達が進言する。
「では次こそ福建省から北上するルートを!」
中華民国人の側近が、台湾島の対岸を制圧するルートを勧めた。
すると別の部下が口を挟む。
「旧中国領の北上は海南省からも要請が出ていますね」
最初に制圧した立方体があった縁で、正統中華人民共和国政府海南支部から頻繁に催促が届いていた。
正直うるさい。
だが無碍にもできなかった――同組織からごく少数とはいえ協力者がこれまで参戦してくれたし、この案に乗るなら現地で支援を受ける事もできるからだ。どうせやるなら成功率の高いルートを取りたいのは当然の事。
「お待ちください。旧ベトナム領が先では?」
そう言う部下もいる。
そこから参戦してくれた傭兵達もいたし、大東亜共栄圏の勢力圏に直に面しているので軍を送り易い地でもある。
「マレーシアとしては、タイ方面への案を進言します」
マレーシア人の部下から。
同国としては隣接する地が敵勢力では心穏やかではいられない。
せっかく取り戻した地から地続きに攻めていくのも理に適った話だ。
「インドネシアやパプアニューギニアはオーストラリア大陸へ進軍する事を望んでいますね」
そう告げる部下もいた。
まぁどの国も最寄りの地から攻略し、自国の安全を確保して欲しいのだ。そのために大東亜共栄圏という連合に参加しているのだから。
そうした各国の期待に、長官は応えねばならない立場である。日本最寄りの立方体を最近の制圧作戦に選んだ以上、余計に。
「ぐぬう……いざ大陸に足場ができると、どこから手をつけた物かわからなくなるな」
長官は頭を抱えた。
すると書類をもって慌ただしく入って来る部下が現れた。
「長官! アメリカのハワイ州が接触を求めています! 合衆国の解放・再建ができるなら、現地の軍も全面的に協力すると!」
アメリカ合衆国も機械奇虫のせいで国家としての機能を維持できなくなり、自称正統政府が5~6ほど、各地で奮闘している状況だった。
ハワイの部隊は正式な司令塔がどこかわからず動けない状態だったが、立方体を制圧できるならとりあえずそうしてもらおうと考えたのだ。敵を減らしていけば、いずれ自称正統政府のどれかが合衆国を再建するだろう……と。
「ぬうう! また選択肢が増えたか!」
長官は歯軋りした。
距離とかかる時間を考えれば黙殺したい所だが、もしアメリカが復活すればそれ以降の戦闘で強力な味方になる事を期待できる。なんとも悩ましい選択肢だ。
長官が悩んでいると、会議室にジョウとリンナが入って来た。
ジョウはバイオ技術で造った、リンナと兄妹のようなボディを使っている。
「ここで次の計画を詰めていると聞きましたので」
そう言って部屋を見渡すジョウに、部下の一人が現状を説明し始めた。
ふんふんと頷く二人……それを眺める長官の頭に、ふと、以前から漠然と浮かんでいる疑問がよぎった。
(この二人、本当に地球人なのだろうな? 特にリンナの方は何一つ証明する物が無い……)
トレーラーの中身はわからない物だらけだし、そこから地球の技術では作れない物をしょっちゅう出して来る。
二人を造った組織とやらの痕跡は、現地に派遣した調査員の誰も何一つ見つけられない。
どうにも怪しい。長官には不安がある。もしやどちらか、あるいは両方、敵異星人の一員ではないのか……と。
しかし圧倒的優勢な敵が、拠点を減らしてまで地球人側に潜り込む理由があるか? そう考えると、いくら不自然でもやはりこの二人の氏素性は本人達の言う通りなのか……とも思うのだ。
そんな悩める長官をよそに、ジョウは説明してくれた部下へ答えた。
「俺達ならどこへでも行きます。二人で、どこにでも」
見ればジョウはリンナの手を握っている。
リンナもジョウの手を握り、その言葉に頷いていた。
二人の顔には、不安も恐れも全く無い。
有るのは、自信――いや、信頼か。
手を握っている人がいれば大丈夫だ、と。
特別な強気ではない。ごく自然に、当たり前に。
(まぁ、まだ当分はこの二人と一緒に戦う必要があるし……)
山和長官は考えた。
邪悪な敵は断固殲滅。この方針に変わりはない。
だがこの二人は……
(何をしてきたのか、どんな連中なのか。私自身がこの目で見てきたのだからな)
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。だがそれは己の経験から目を逸らせという意味では無い。
繋がれた手を眺める長官からも、いつのまにやら不安が薄れて消えていた。
(第一部・完)
当面書きたい内容が一区切りついたので第一部完。




