六 黒イ体ニ光が走ル
登場人物
山和望斗:大東亜共栄圏連合軍長官。元日本の自衛官。
――大東亜共栄圏軍部・インドネシア・スマトラ島基地・長官室――
立方体攻撃作戦成功から数日。山和長官はその日も副官とともに悩んでいた。
ライズィンザンに乗る隊員を考えているのである。
ジョウは重傷のまま寝たきり、意識を失ったまま。
リンナは彼をトレーラーに移すと、工場の一画を立ち入り禁止にし、資材を勝手に持って行ってはその一画で極秘に何かを造っている。
何を聞いても「新しい装備です、完成したらお見せしますから待っていてください」と頭を下げるだけだ。
長官は苛立っていた。今が肝心な時なのだ。
立方体制圧を計画し、成功させた大東亜共栄圏。その成果により世界は連合軍の実力を認めた。
結成から今まで「ほとんどの国が対応できないからと支配欲を露わにしている!」と批判する者達が大勢いた。まず大陸各国政府の後継組織に。そいつらがそんな妄想をするのはまぁ仕方が無いかもしれない。
だが腹立たしい事に、祖国日本にも、共栄圏に参加している各国にも、なぜかそんな頭の悪い愚衆どもがいたのだ。
しかし立方体制圧を有言実行した事により、そ奴ら無知蒙昧な三等人民どもは世論に反発され少数となっている。それはとてもとても喜ばしい事だ。
だが実力を見せたからこそ、次の作戦はまだかと尻をつつかれてもいる。
ジョウが回復しないなら、第二・第三のライズィンザン操縦者を選抜し、機体もジョウ以外の者が操縦できるよう改造させる必要があった。
「これが現時点の最有力候補ですかね」
副官が数枚の書類を差し出す。一枚に一人ずつ、FDでの戦闘において高い戦果をあげた共栄圏連合軍兵士のデータが記されていた。
それらを見比べる山和長官。
「ふーむ……さて、搭乗の優先順位はどう付けたものか」
「やはり日本人優先ですか?」
窺うように、疑うように。副官は訊いた。
大東亜共栄圏の設立は日本主導で始まった事であり、資本の割合も日本が最大であり、長官も日本人だ。
主力として絶対に外せない最強の機体も日本人から選ばれるのではないかと、中華民国人の副官は疑っていた。
すると長官は頷いてみせたではないか。
しかし書類を眺めながら呟いた言葉は――
「ふむ。貴官もそう判断するか。次の攻撃目標を考慮すればな……」
「え?」
すぐには理解できず戸惑う副官。
この時、長官は何を考えていたか。
次の目標として最有力の立方体は、元韓国領江原道の山中にある。朝鮮半島全域に機械奇虫を放つ中枢であり、ここを破壊できれば日本の北海道以南から機械奇虫の脅威は大きく遠ざかる。
祖国を守るためならより必死に戦うだろう、ならば今回は重要項目として日本人である事を重視すべきか――それが長官の考えだった。
その時。
カシャン、カシャン……と金属の足音が廊下に響き、部屋に近づいてきた。
「「?」」
顔を見合わせる長官と副官。
ノックも無しに戸が勢いよく開けられる。そこには一つの人影が――
「なんじゃー!?!?!?」
驚き叫ぶ長官が見た者は、黒い金属の塊だった。
黒いボディに銀の肩当てと脛当て。
赤く鋭い目が、ブゥン……と低い音を唸らせ光る。
屈強な男の体格でありながら、生身の肌などどこにも一片たりとも覗いていなかった。冷たい金属の、剣呑な塊である。
「パワード……スーツ?」
呆然と呟く長官。
副官は驚きのあまり阿呆の子みたいに口をぱくぱくさせるだけだ。
その黒い鎧が、金属音の足音とともに部屋に入ってきた。
『待たせたな長官。ジョウ=ムラサメはここに目覚めた』
(声も体格も違うんだが!?)
身長自体が全く違う。
長官は驚愕するが、それを全く意に介さず、ジョウは低い声で告げる。
『突然で悪いが、金が要る。金銭の交渉をしてもらいたい』
「えっ?」
長官は驚くだけで精一杯だ。
蘇るなり金。今さらなぜ? もっと他に言う事があるのではないか。
しかしジョウの赤い目が明滅する。
『俺が死ぬまでタダ働きをさせる気だったか?』
「そ、そうではないが……」
長官が応答してしまったので報酬の交渉が続く事になった。
『ならば決めてもらいたい。立方体1個撃破でいくら貰えるのか。そしてこれの値段をな』
ジョウはどこからか砲弾を掴み出すと、部屋に入ってきて机の上に置く。
『消去装置の応用で造った中枢断裂弾だ。巣や立方体に撃ち込む事で機能停止に追い込める。これは試作品で1個しか無いが、人類の技術で口径の調整と生産が可能だ。これを説明書つきで渡すので特許料を認めてもらおう』
「「な、なんだってー!?」」
予想外の物しか出ない状況に、長官も副官も混乱の極みにあった。
そんな二人にやはり一方的にジョウは言った。
『交渉は手早くまとめたい。俺は今から日本に行くのだ』
前進のために変わる心……人それを成長という。
これまでメンタル弱めだった主人公でしたが、ここから不屈の戦士に生まれ変わります。




