21 理解と納得と、そして決心と
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
トレーラーに戻り、ジョウは本体の甲虫メカの姿で、リンナに惑星シデタルの記録映像を見せてもらった。
故郷から去る時にできうる限りの情報を持ち出してきたので、全てを見る事など到底できない膨大な情報量がある。その一部を見ただけでも、なかなか興味深い物だった。
大小様々な花が一年中大量に咲き乱れ、多様な生物のニッチをだいたい節足動物が埋めている、ちょっと偏り気味で綺麗とも奇怪とも言える自然。
壺型や球状の集合住宅内を角ばった小部屋で分け、一族で固まって住む街並み。
生産・製造・サービス・社会管理などの各種職業から、持って産まれた超能力ありきで選ぶ就業。
そして何かと一族・血族にこだわる理由も知る事ができた。
皆が何か超能力を持って生まれてくる子供達……しかし持って生まれる能力に法則らしき物が見当たらない。同じ親の兄弟姉妹でもバラバラな別種で、何を発現するか本当にランダムなのだ。
そして他人がどんな超能力を持っているか、実際に使う所を見るまで知る方法は少ない。透視や念聴など、発動していても見た目だけでは他者に判別できない超能力も多い。
かと思えば周辺で発動している超能力を察知・鑑定する『能力探査能力』、特定種類の超能力を妨害する『能力阻害能力』などもあり、力関係は複雑に入り乱れていた。
不思議な事に、そうした超能力へ抵抗する際、同じ血を引く者同士なら抵抗し易くなるのだ。
同じ遺伝子を持つ事で、相手の力への耐性が生じるのかもしれない。
読心や幻覚、精神干渉などを使える者が多数いるが、どこにいるかはわからない。
同族ならもし何か仕掛けられても抵抗できる。
多様な能力を揃えたければ、とにかく頭数が必要。
ジョウは納得した。
(なるほどなぁ……そりゃ一族で結束するのが社会の基本になるわ)
だから結婚に関しても、従兄妹婚が地球人より頻繁に行われるようだった。人生のパートナーは安心できる相手の方が好ましいに決まっている。
それゆえ、別の一族に移るような形での、地球人なら普通の結婚は、より情熱的な物と捉えられていた。
ましてや関係の悪かった一族に入る事など通常は考えないし、そんな相手を求める事も無い。
だからこそ、敵対する一族の異性に結婚を――自分達の一族入りを求める事には「一族の者達に疎まれ、自身の生存が危うくなろうと、それでも私はあなたが欲しい」という激しい意思があるのだと、暗黙の了解が生まれていた……そこまでの想いが無いとやらない事だ、という前提で。
(あー……やっぱり。アラマーマにとっては思った以上に熱烈な意思表示だったんだな)
リンナもジョウを……地球人を自分達側に引き込もうとしたが、養父同然の人の遺言があってこそで、同族全てを失ってからであり、改造して自種族の細胞を混ぜまでした。
彼女にとってはそうでなければ存在しない選択肢なのである。
だがジョウにはまだ地球人が億単位で残っている。そして実際、リンナの真の素性を知れば決して許さない者など数えきれないだろう。というか味方になる者が何人いるのやら、という状況だ。
そのジョウがリンナに、自分達の一員になってくれと頼んだのだ。
リンナが感激していた理由が、ようやくジョウに飲み込めた。
しかしここまで血族を重視する事がわかると疑問も生じる。それをジョウはリンナに訊いた。
『どれだけ大切にしあっても、一族から離れる人はいるよな?』
「はい。少数ですけど、やはり世代ごとに1人や2人は……」
リンナの答えは予想しうる物だった。
各人に自我がある以上、どんな集団であろうと合わない者などいて当然である。
無論、合わない者同士、親しくできない者同士も……。
姪っ子の事が頭に浮かんでいた。
10年ぶりに顔を合わせた、赤子の頃しか知らない、今や会うなり白けた拒否を前面に出してくる少女の事が。
今急に浮かんだわけではない……日本を離れる前からずっと引っかかっている。
『なぜなのか、自分でもはっきりしない。けれど気にかかる』
もうあの子ぐらいしか10年前の自分に関する物が残っていないからだろうか。
人間だった頃の、ほとんど最後の思い出だからだろうか。
それとも脳味噌に混じったアラマーマ族の細胞が影響しているのか。
なぜなのかわからない。
ジョウ本人にもわからないのに、あの子の存在がひっかかっていた。
そんなジョウを見て、リンナは感づいた。
今のジョウはメカ甲虫の姿なのに、それでも。
「怜美ちゃんですね? 一族の子を大切にしたい……それで十分な理由に、私達ならなります。ジョウさんの姪っ子さんですし、私も仲良くしたいです」
そう言ってリンナは微笑んでいた。
ジョウの身内というだけで、まず「好」に立って見る。
正直、ありがたかった。そういう社会で暮らしてきたから……であっても。
『何か手を差し伸べたい。でも要らぬお節介で、相手に迷惑かもしれない』
そんな疑問も言葉にしてみたが。
「一度だけ。一度だけ、試してみるのはどうでしょうか。ダメなら仕方ありません。けど、一度だけ」
リンナにそう促された。
正直、ありがたかった。本心では望んでいた事への賛同だったからである。
遠いどこかよくわからない場所の、全く違う世界から来たこの娘の想いは、ジョウと同じ方向を向いてくれていた。
『大切な事ならはっきり言え。聞け。口に出せ。それは地球でも同じだな』
そう呟いて、ジョウはメカ甲虫の中で考えをまとめた。
己が望む事をどうすれば為せるのか。
『リンナにお願いがある』
「はい! なんでもしますから!」
明るく朗らかなリンナの満面の笑み。
ありがたかった。
救われた、と感じた。
姪っ子も。
自分も。
『もう一つ体を造ってくれ。ただ戦うための、戦闘のためだけのボディを』
それがどんな物か、何を注文するか――ジョウの中で急速に出来上がっていた。
ようやく脳味噌分離式の機能を活かし、第二の新ボディを造る時が来た。
正直、ちょっと長引かせたか。




