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20 勝利の末に得た物は

登場人物

ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。

リンナ:異星種族アラマーマの少女。

 ――大東亜共栄圏軍部・インドネシア・スマトラ島基地・医務室――



 若き青年兵士二人が医務室を訪れた。

 褐色肌の陽気な青年が笑顔で声を上げる。


「よう! ありがとうな、ヒーロー! マレーシアの半身が戻って来たぜ!」


 マレー半島の立方体(キューブ)破壊作戦が成功した今。異星の兵器から故郷の半分を取り戻した青年は、この勝利を心から喜んでいた。

 しかし……


「……!」


 ベッドの上を見て絶句する。

 大東亜共栄圏軍部が極秘で開発していた新型機体ライズィンザンの操縦者、謎のエース・ジョウ=ムラサメ。その少年が全身包帯でぐるぐる巻きにされ、焦点の合わない虚ろな目で横たわっていたからだ。

 共に訪れたもう一人の青年兵士が、金属の義眼でジョウを見つめる。


「生きてはいるのだな?」

「はい。それは大丈夫です」


 世話役だという少女リンナが、無表情な顔をうつむき加減にして淡々と答えた。

 医務室には先に山和(さんわ)長官が入っていたが、彼がリンナへ訊く。


「今後はどうなる? これで戦線に復帰できるのか?」

「はい。治せます」


 リンナは無表情なまま淡々と答えた。


 その時、ジョウの虚ろな目が動いた。

 焦点は不確かながら、訪問客達へ目を向けたのだ。少なくとも、そうしようとした。


 ぐっと唇を噛んでから、陽気に入ってきた青年、【アンブッシャー】でジョウとともに戦った兵士はベッドへ声をかけた。


「俺はラビ。また一緒に戦える日を楽しみに待ってるぜ」


【スナイパー】で戦っていた義眼の青年・エロールもジョウへ語りかける。


「今回、2つの国が救われた。俺の故国シンガポールが人間の手に戻って来たのだ。この感謝は言葉で表せる物ではない。いずれ借りを返させてくれ」


 ジョウからの返事は無い。

 二人の青年は名残惜しそうに医務室を去った。



 溜息をつく山和(さんわ)長官。


「会話ができんでは仕方がない。また明日来る。しかし回復に時間がかかるようなら、ライズィンザンに別の操縦者を用意する事も考慮してもらいたい。いいな?」

「はい」


 リンナは無表情なまま静かに頷いた。

 長官はもう一度溜息をつくと、背を向けて医務室から出て行った。



 見舞客達が消えてから、ジョウの後頭部からもぞもぞと本体のメカ甲虫が出てくる。

 脳が収納されているのでこちらは対衝撃や防電措置等を強固にしてあり、機体がダメージを受けても極力無事で済むよう設計されている。

 しかしクローニングされた細胞でできた「生身」の人造ボディは、カブトムシからの電撃で全身を焼かれ、重傷を負ったのだ。

 脳が独立したブロックになっている事はまだ秘密にしてあるので、ジョウはボディの見かけにあわせて廃人寸前のフリをしていた。


 ベッドの脇からボロボロのボディを眺める、メカ甲虫本体のジョウ。


『会話もできないとは、こっぴどくやられたもんだ』


 そこでがばりと、リンナがジョウの本体を拾い、胸に抱きかかえた。


『え、え!?』


 面食らうジョウ本体。

 そして気付く。


 リンナが泣いている事に。


「助かったけど、帰ってきてくれたけど……逃げて欲しかったんですよ、本当に」


 か細い声で訴え、鼻をすすって、リンナは堪えきれなくなって泣いていた。

 ジョウは気まずく沈黙し、しばしリンナがしゃくりあげる声が医務室に響く。



 結果的には生還したが、大きな危険を冒して際どい所だったのは事実。

 リンナにとって、勝利などという結果論は何の慰めにもならないのだ。



『訊きたい事があるんだけど』


 しばらくしてそう切り出すジョウ。


「なんでしょう?」


 ぐずりながらそう促すリンナに、ジョウはちょっとの間、言葉を探して……やがて、どこか躊躇(ためら)いがちに……


『俺が死んだら、代わりの、次の誰かを選んで俺と同じように蘇らせる。それじゃあダメなのか?』


 意外な内容にリンナの目が丸くなる。

 いよいよとめどなく涙と鼻水を流しながら彼女は混乱の中で悲痛な声をあげた。


「じょ、ジョウさん!? なんで? なんでそんな事言うんです!? 私、何かいけませんでした? なんでもしますから、だからそんな事……!」

『いやいやいや! そこまで言ってもらえるのがなんでなのか、正直わからなくて……』


 大慌てで声をあげ、その声をどんどんトーンダウンさせていくジョウ。

 一応、自分を蘇生させた経緯(いきさつ)を聞いてはいる。

 しかし思うのだ。



 どうしても村雨(むらさめ)(じょう)でなければならない条件は無いじゃないか……と。

 自分の都合で心を乱し、苦戦して、この()の頼みを(ないがし)ろにする男より、もっと頼れる奴がどこかにいるのではないか、と。



 けれどリンナは。

 さらにぎゅっと、とても大切に、本体のジョウを抱きしめるのだ。


「ジョウさんが、私を迎え入れてくれたんじゃないですかぁ……もう同じ一族の、同じ血族の、同じ……一緒の……」

『あ、うん、そ、それはそうなんだが。それだけで?』


 切ないリンナの声にまたも慌てるジョウ。


(俺が引っ越しぐらいのつもりで頼んだ事で、そこまで一生懸命にさせているなら、これは騙しているような物じゃないのか……)


 罪悪感を覚えてそんな事を考える。

 けれどリンナは本体のジョウを、泣きながら決して放そうとしない。


「それだけって、それが一番大切なのに……アラマーマ族はそうなんですけど、地球人はダメなんですか?」


 ジョウは薄々感じた。


(俺とリンナは、お互いどこかでまだよくわかってないんだな……)


 だからさらに質問を重ねた。

 今この時、ここではっきりする必要がある。


『アラマーマ族の記録……今、どのぐらい見る事ができる?』


 学術的な事に興味は無い。

 だがリンナの生まれ育ちに無知では話にならない。共にあるつもりならば。

別の地で別の集団で別の物食って生きてきた者同士が、そんな簡単に理解しあえると思う方がおかしいのだ。

無関係な他人を理解するために生きてきた奴なんていやしねーだろ。

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