五 アゝ尊キ団結精神
登場人物
山和望斗:大東亜共栄圏連合軍長官。元日本の自衛官。
――大東亜共栄圏軍部・台湾島基地――
山和望斗長官は苛立っていた。
ジョウ達から預かったトレーラーとその中の設備、謎の多いFDを日本最寄りの基地まで運び、そこで持ち主達がいない間に可能なあらゆる角度からの解析作業を行っていたのだが、日本から友星党の幹部が面談を求めてやって来たのである。
(ええい、こんな時に何だというのだ。解析は遅々として進まんというのに!)
立方体を攻略・無力化できる戦力を生産できるようになるか否か。その境界線上にいると考えている長官には、1秒が惜しかったのだ。
それでも世に出る世話になった政党である。一室を借り、長官は政党幹部と対面した。
しかし不機嫌なのは幹部も同じだった。開口一番に長官を責める。
「山和長官、日本に呼んでいるのになぜ来ない。国境を越えて君に会いに来るのも楽ではないのだぞ」
確かに日本の政党本部に呼ばれてはいた。
だが長官にとってはこんなタイミングで解析作業中の工場を離れろなど、妨害以外の何物でもなかったので黙殺していたのだ。
この賢明な判断に怒る短慮な幹部に、長官はしかめ面で告げる。
「楽をしたければどうぞ日本にいてください。現場は常に動いているのです。必要な事は報告しているはず」
「しておらんじゃないか」
政党幹部は露骨に苛ついていた。
「立方体制圧作戦に成功しただと!? 日本政府にはいつ始まったのか、連絡はいっさい無かったぞ! まさか結果オーライのスタンドプレーが許されるなどと考えてはおるまいな!」
そんな事を怒られても、長官とて作戦成功後に報告されたのでどうしようもない。
「我々としても予想外でした。調査に向かった班が、たまたま制圧の機会を見出したのです。悠長な事をしていては機会を失うと判断したが故の事。これは報告してある筈ですが?」
長官が正直にそう言うと、わからず屋の政党幹部は額に青筋を浮かべた。
「人類が一度も攻略に成功しなかった目標が、調査でたまたま制圧できる機会とは何なんだ! 肝心な所をボカすな!」
そんな事を怒られても、長官とて予想外にも程がある展開だったのでどうしようもない。
どこの誰ともわからん連中がピラミッドから未知の技術を発掘していて、それで造られた超兵器や異星人クローンと現地でたまたま遭遇するなど、歴史上の天才軍師が勢ぞろいしても予想不可能だ。
「そこも報告した筈。軍部が実験中の、試作段階の兵器です。制圧に成功はしたが問題が見つかったために再試験中、よってまだ公表はできない。詳細は実用化の折に……と」
まぁ長官は真実を全て告げはしていなかったが。
ただライズィンザン=軍が入手した新兵器、問題=解析できていない事……そう解釈すれば、嘘はついていない筈である。
長官の理論では。
「それを何も伝えておらんと指摘しておるのだ! 具体的な所を全部伏せおって! 日本国民の不安を少しは解消せんか!」
なのに政党幹部はついに怒鳴りだした。そしてモバイルを取り出すと、そこに動画を映した。
日本の街角で大勢の市民が集まり、横断幕と旗を見せつけて叫んでいる。大東亜共栄圏軍部の不透明性と、暴走の兆しと、権力を増すために情勢を利用している姿勢……それらを糾弾しているのだ。
その映像に長官は「ふん」と鼻を鳴らす。
軍のやる事なす事全てが気にいらずに文句ありきで声をあげる能無しどもがいるからこそ、新技術をモノにするまで伏せるしかないのだ。
(小賢しい……馴れ合い先の新聞社にでも都合の良い映像作成を依頼したな。こいつらのいつもの手口よ)
長官もモバイルを取り出すと、そこに動画を映した。
アジアの島国諸国の街角で大勢の市民が集まり、旗をふって喝采をあげている。大東亜共栄圏軍部が公表した人類初の立方体破壊成功。それに狂喜乱舞している光景だ。
「真の同胞は勝利の報に喜んでいるようですがな。共栄圏の勝利を祝えない国民など国の恥! 低劣な三等人民、いや非地球人! 八紘一宇の協調精神の元、連合のさらなる躍進を願ってこそ国民でしょうが!」
いきり立つ長官に、政党幹部がますます眉間に皺を寄せる。
(おのれ……戦勝プロガンダ用に映像を用意しておったな。小細工をしおって)
二人が睨み合っていると、部屋に数人の来訪者が現れた。
大東亜共栄圏政治部に籍を置く、各国からの代表者達である。
「やあやあ山和長官、お取込み中だったかね?」
「いえ、大した話でもないので。何かあればお聞きしますぞ」
長官は「フッ」と笑うと代表者達と笑顔で握手を交わした。
「立方体に初勝利した偉大な軍部の司令官殿にそう言っていただけると光栄だ」
各国代表者達もにこやかだ。
友星党幹部は「チッ」と小さく舌打ちしていたが。
そんな代表者達の一人が笑顔で長官に訊ねる。
「偉大な司令官殿、次の立方体攻撃作戦はいつかね?」
「えっ」
目を丸くする長官に、別の代表者が訊いてきた。
「勝利を掴んだ新兵器とやら、次の現地試験ができるようになったらまた立方体へ向かうのだろう? 凡その目途ぐらいは聞かせてくれたまえ」
「げ……現在、調整中ですので。すぐに予定をまとめましょう」
長官が焦りを押し隠した声で告げる。
戦勝を喜んでいる者達は、当然、次の勝利を期待する。長官の時間を削るのは彼らとて同じ……というかなまじ友好な相手だけに、余計に無碍にできないのだ。
結局、秘密裏の解析などやり遂げられる暇は無かった。
組織という物はしがらみがある物。
だが人間、一人でできる事などたかが知れているのだ。
と、万能無敵があふれる現在のネット無料小説でたれる能書きでもなかったか。
まぁ長官は準レギュラーだが脇役なので。




