一 雌伏ノ時
実在する国名・地名も出る。
――西暦2025年――
いつか来ると皆が思っていた日。
恐れていた情報が入り、日本中が騒然とした。
>韓国も潰れたぜ。いよいよ目の前もガラ空きだ……
>マジか? 誤報じゃないのか?
>諦めろ。複数のソースからだ。
ネットの書き込みを見た者達は皆が青い顔をした。
TVでも、新聞でも、その情報は人々に伝えられ、国民を一人残らず恐怖と焦燥に陥らせた。
機械奇虫の繁殖と攻撃に、次々と壊滅してゆく大陸の国家群。もう残っている国などいくつも無い。
苦戦に陥っていた隣国もついに崩壊し、日本は怪物どもの闊歩する地と隣合わせとなったのだ。
『派兵するしかないでしょう。今までも武器弾薬の支援はしていましたが、そのレベルではなく、戦闘のための部隊を直接送るのです。幸い……と言っていいかどうかわかりませんが、国家がなくなった以上、了承を得る必要はありません』
『それは現地での助力も得られないという事ですよね? 勝算はあるのですか?』
『では海岸線で食い止める事だけに専念するんですか? それこそ勝算があるんでしょうね?』
TVで、ネットの動画で、議論をかわすコメンテーター達。
光明の見えない状況に日本中が不安の底に叩き込まれた。
そんな中。
海上自衛隊のある基地内で、上官に大声を張り上げる男がいた。
「攻撃です! 攻撃でしょう! 虫どもが立方体から湧き出ている以上、あそこに邪悪な宇宙人どもがいる事は明白! 奴らは我々からのいかなる呼びかけにも、応じようとさえしませんでした! あれを叩き潰すために決死隊を送り込むべきです! 私もぜひそこに加えていただきたい!」
がなり立てる中年男は、逆立つ髪に太い眉、鷲鼻に厳つい口髭をたくわえた、いかにも気の強そうな男だ。
対して上官はくたびれた老人で、男へ疎ましそうに言葉を返す。
「あのな、山和君。そんな事は壊滅前の現地の軍もやって、失敗していたじゃないか」
「あの時は現地の軍だけで慣行したからです! 我が日本が協力を申し出てやったのに、三流国人どもは昔の事を引っ張りだしていつまでもグダグダとゴネおって……結局は一国単独で実行、そして失敗! あの無能どもの無様な敗北から学び、我々は集められるだけの全戦力をもって半島にある最寄りの立方体へ一点狙いの電撃作戦を行うべきなのです!」
息巻く中年男に溜息をつく老上官。
「潰れた国の人々をよくそこまで悪し様に言うね、君は……。ともかく、直属の上官だからと言って私にそんな事を言われても困る。明らかにもっと上の決定が必要な事だ」
「ですから、上層部へ進言を!」
中年男に詰め寄られ、老上官はますますげんなりした。
「わかった、わかった。伝えてはおく。しかしね……アメリカもズタズタに分裂して崩壊、その協力は望めない。そんな今、日本単独でやって成功するとは思えないぞ。上も多分そう考えるだろう」
逃げるように去って行く老上官。
その背を睨みながら、中年男は歯軋りしていた。
(大陸の国々がことごとく崩壊させられた敵を相手に、日本単独では攻める事ができんか。しかし防衛にまわり続けていてもいつかは突破され、敗れる。少なくとも最寄りの立方体だけでも破壊せねば。そのために手を組める所といえば……近くの島国か)
大陸を隔てていない島国が、幸い、日本近海や太平洋にはいくつもあった。
そしてそれらの国々も、大陸にある自国対岸の国が崩壊するのを目の当たりにしていたし、次は自分達の番かと震えあがっていたのも同じだった。
よってこの山和という男と似たような事を考える者が、それら各島国にいたのである。
そのために同盟が組まれていったのは、別におかしな事ではないだろう。
それが『大東亜共栄圏』などと大昔の名前で呼ばれるようになるなど、この時、予想している者はいなかったが。
「なぜ核使わないのか」
この世界の回答:自国内(領土が広い国はあちこち)でわいて出る敵相手には使えないだろ多分。




