1 死亡
これは我々と異なる時を進んだ地球の物語。
西暦2020年。一人の日本人男性が死んだ。
名は村雨丈。
職業は傭兵。
とてもありふれた職業。
死因は怪物相手の戦死。
とてもありふれた死因。
戦死した地はユーラシア大陸、南東の片隅。
――西暦2010年――
前触れは無かった。
ある日、空飛ぶ円盤が飛来した。宇宙から。
オーストラリア大陸とほぼ同じ大きさの円盤が。
あらゆるレーダー網に引っかかる事なく。
地上に影を落とせる高度に。
世界中の人々が仰天し、恐慌する中、円盤は無数の三角錐を世界中に降らせた。
1辺が1kmになる三角錐を、地球の各大陸のあちこちに。
それらは人里の近く、けれど誰も住んでいない場所を選んで降下し、大地にゆっくりと降り立った。
世界中に巨大なピラミッドを降らせると、円盤は去った。
ピラミッドが倉庫であり、地球人が初めて知る技術と素材の宝庫である事は、調査してすぐにわかった。
――西暦2015年――
宇宙や海中の居住空間、会話同期型の翻訳機、改造人間手術、光線兵器、人型の搭乗式ロボット……空想SFの世界にしか無かった物がいくつも実用化され、自ら生産できるようになった地球に、再び円盤が飛来した。
人類は皆が期待した。
今度はどんな贈り物があるのだろう?
偉大な宇宙の先輩は、その姿を現してくれるだろうか?
地球人類が見守る中、円盤は無数の立方体を世界中に降らせた。
1辺が1kmになる立方体を、地球の各大陸のあちこちに。
それらは人里の近く、けれど誰も住んでいない場所を選んで降下し、大地にゆっくりと降り立った。
世界中に巨大な立方体を降らせると、円盤は去った。
そして人類は、立方体から湧きだし続ける怪物どもと戦わねばならなくなった。
――西暦2020年――
5年も経てば、各大陸にある国家は半数が壊滅した。
人々は大小の集落に身を寄せ、日夜怪物相手に生き残るための戦いを強いられる時代の到来。
島国はまだ国家を維持していたが、それらも大陸の国々と人口が激減した影響から逃れられるわけもなかった。
大陸との貿易が次々に絶える影響で、いくつもの企業が潰れた。
それと取引していた会社もまた、大量に潰れた。
そして大陸からの難民が島国へも、死にもの狂いで潜り込む。
当然発生する、数えきれない失業者。
受け皿が無いわけではない。
製造業の、兵器産業は伸びた。そうならざるを得なかった。
各地の工場はフル回転、それでも足りぬと潰れた会社の跡地をさらに工場へ建て替える。
だがそれでも限度という物があった。
よってもう一つの受け皿へも大量に人が入った。
造った兵器を使う、傭兵という職業へ。
もはやこの職業で人手が余るなどという事は無い。怪物相手の防衛や救助のため、各大陸で常に必要とされていた。
村雨丈という男もその一人だった。
連鎖的にいくつもの会社が潰れるのに巻き込まれ、地元での生活基盤を無くし、親に頼る事もできず出稼ぎに出る……そこらにありふれた不運な男の一人。
翻訳機能を入れたイヤホンとスマートフォンを持って、怪物の徘徊する大陸へ渡り、現地で戦闘用のロボットに乗る……そこらにありふれた不運な男の一人。
最期の日も彼は身長18メートルのロボットに乗り、怪物と戦った。
FD――『フォーリンドール』と呼ばれるロボットは、宇宙服や潜水服が多少角ばってそのまま巨大化したような外見である。
宇宙からの技術で実用化されたこの乗り物は、操縦者と神経を接続する事で、自分が巨大化したのとほぼ同じ感覚で運転する事ができた。
そのために手か首にコネクタ設置の改造手術が必要だったが、サイボーグ手術も実用化された世界では簡単で安価な処置だ。
FDは実用化されると、すぐに兵器として台頭していった。
実は戦車や戦闘機に比べ、特別強いわけではない。
しかし互角に戦えるようになると、あっという間に普及したのだ。
自分の体を巨大化させるのと同じ操縦方法――これにより必要な訓練期間を非常に短くできたのである。感と運動神経の良い者なら、乗った翌日には戦場へ出る事が可能だった。
そして装備の変更……手に持つ武器を変えれば攻撃手段を変更できる。また防具を装着するのと同じ感覚で、水中用や雪中用などの環境対応ができた。
それら武具もまた、宇宙からの遺跡があればこそ開発できた物だが。
戦車を運転するには数週間から数カ月かかる。戦闘機なら数年。
そして戦闘になれば死者はほぼ確実に出る。
これらに対し「簡単」と「汎用」は明確な強みとなったのだ。
だからそのFDで戦い続けた。
円盤の降らせた立方体から湧き続ける怪物……機械奇虫と。
金属でできた巨大な節足動物型の機械兵器ども。立方体ごとに形状は異なったが、大群で現れる事と、明確に人間を狙い、襲う事は共通していた。
しかも奇怪な特性があった――機械なのに他の物を「食う」のである。
地球の機械や建造物を「食い」、立方体へ引き返す。すると次に出現する群れには「食った」物を取り込んだ個体が混じるのだ。
機械奇虫どもは、すぐに銃火器を備え、火炎放射や電撃を使い、毒物を散布するようになった。
それら人工の殺戮者どもから、東南アジアのある町を守るため、最期の日も村雨丈という男は戦っていた。
山中を埋め尽くさんばかりの、刃輝く大顎をもつ金属のクワガタムシを相手に。
FDに乗り、巨人サイズのマシンガンを撃ち続けていた。
隣で戦っていたFDが武器を破壊されて逃げ出そうとした。
通信機ごしに聞こえた悲鳴で、それの操縦者が昨夜一緒に飯を食っていた男だと知る。
そいつは日本人ではなかったが、言語翻訳機能が安価なイヤホンに搭載された世界なので、飯時にそいつが語っていた話を理解はできた。
(「帰ったら子供が生まれてるはずなんだ……って、これはヤベぇフラグって奴かな」)
特に仲良くもない、名前も知らないそいつの話をなぜ思い出してしまったのか。
そいつの機体の背中へ金属クワガタが跳びかかったので、丈は機体にダガーを抜かせ、横から跳びついて叩き落した。
変な角度と勢いのせいで、山中を転がり――立ち上がった時には敵群のド真ん中。
刃の大顎を食らい、マシンガンを持つ腕が切り落とされてしまっていた。
(ここまでか……死にたくなかったな)
そう思いながら、友軍への最後の援護を行った。
FD用の手榴弾をあるだけ足元にばら撒き、踏みつけ、自爆したのである。
この状況、どうせ生きては帰れない。
だから周囲の機械奇虫をまとめて道連れにした。
西暦2020年。村雨丈という男が死んだ。
巨大ロボ物に必ずつきまとう疑問。
「なぜ人型の乗り物に乗るのか」
この世界の回答:既に実用化していた文明から得た。
「なぜ人間型の兵器なんて使うのか」
この世界の回答:これならすぐ戦場に出られるから。




