13 手探り
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
トレーラーを収容したフェリーで海上を運ばれるジョウとリンナ。二人はデッキに出ず、トレーラーの中、小声で話していた。
車から出ると常に監視下に置かれるからである。
「打ち合わせ通り、リンナは身元不明で故郷の記憶は無い。異星の知識はあるけどなぜかはわからない。そういう事にしてくれ、いいね?」
念をおすジョウ。
リンナが惑星シデタル生まれのアラマーマ族であり、地球人を攻撃していた敵だった事はまだ秘密だ。今知られたらどんな目にあわされるかわからない。いずれ知られるにしても、今がその時だとは思えなかった.。
リンナも真剣な顔で頷いた。
「この星の人間社会は知識でしか知りませんから、ジョウさんに従います」
――大東亜共栄圏軍部・フィリピン・ルソン島基地――
「私が大東亜共栄圏軍部長官、山和望斗である!」
基地の一室で、数人の部下を後ろにつけ、山和長官は腕組みしてテーブル対面にいる二人へ名乗った。
その二人は神妙に軽く頭を下げる。
「初めまして。村雨丈です」
「リンナです」
そんな二人をまじまじと見つめる長官。
外見では十代の中頃にしか見えない、兄妹のように似通った少年少女だ。長官の目には隠しようもなく疑いと警戒が浮かぶ。
そんな長官が二人に告げた。
「さっそくだが、君達には身体検査を受けてもらいたい。また君達のFDライズィンザンは今から我が軍の基地で調査したい。いいかね?」
「こちらからもお願いがあります」
ジョウの要求に「ふむ」と呟く長官。
要求の内容は――
「身体検査は一人ずつ、片方を検査している時にはもう一人が立ち会う事を許可してください。また髪の毛や爪、血液の採取には協力しますが、薬物の投与や外科手術はお断りします」
一人で隔離されたり、行動できない状態にされる事を警戒しているのだ。
長官は「ふむ……」と考えた。ジョウは続ける。
「ライズィンザンも分解はしないでください。調査には俺達二人も立ち合います。先に設計図は提供します……今すぐでも」
そう言ってジョウがテーブルに置いたのは、ハイフォンで購入した捨て値のスマートフォン。トレーラーの中に転がっていたという設定で、ライズィンザンの設計図データだけを入れてある。
要求の最後にこれを渡す事で、自分達には協力の意思ありと強調しているのだ。
それを察して「なるほどな」と呟く長官。
「よかろう。要求は承知した」
「ありがとうございます」
再び一礼するジョウ。
そんな彼に長官は訊く。
「1つ聞きたい。君はこの10年で自分達がどんな処置を受けたと思っているのかな?」
そう問われた時にどう返すか、あらかじめ決めてあったが、ジョウは少し逡巡するフリをした。それから答える。
「どこかのピラミッドから異星人の細胞が見つかって、それをクローン培養したか何かが俺達の体なんじゃないでしょうか。俺は戦死する筈だった地球人を拾って混ぜ合わされて、リンナは……多分、そのものというか……」
「機体は?」
「よほど特別な技術が発掘できて、それをFDに組み込んだのでは? 設計図のデータは、トレーラーの中にある端末に入っていました」
そう言って、設計図データの入ったスマホを長官の方へ押しやった。
それを受け取り、頷く長官。
「ではその前提で考えてみよう」
――医務室――
ジョウとリンナの身体検査が終わり、着替える二人とは別室で、山和長官は医師から結果を聞いた。
「リンナという少女の体は、確かに地球人ではないでしょう。基本的には人間と大差ありませんが、DNA情報はどの地域の人種とも一致しません」
遺伝子情報で系譜を探ろうにも、異星人のリンナでは「該当なし」になるのは当然だ。
さらに医師は体内スキャンの写真を見せる。
「触覚と複眼が頭にありますが、神経で脳と繋がっている正真正銘の本人の器官です。これを人間に後付けする技術が地球にあるとは思えません。生まれつきだと考えた方がよほど腑に落ちます」
改造人間技術が確立された世の中とはいえ、全く違う生物の器官を、サイズを変えて移植するなどという事はまだできない。
ここまでの検査の全てが、リンナが異星人だと診断していた。
「村雨丈はどうだ?」
長官が訊くと、意思は一際難しい顔をした。
「リンナを別種族だと仮定すると、その種族と人間が混血したと考えれば納得できる遺伝子情報です。ただ頭部に異星人の器官は全くありません……それで、その……」
「どうした?」
険しい顔で訊く長官に、医師はまた別のスキャン写真を出した。
「彼は改造人間です。脳が頭部の金属箱の中に隔離されています。金属箱の中身はスキャンできませんでした」
「脳だけを保護しているのか!? 他には?」
「他の改造は全くありません。FD操縦用の神経接続処置も、です」
「じゃあどうやってあの新型を操縦しているんだ!?」
意味不明なジョウの体に、長官は思わず大声をあげた。
それを聞かれても医師は下を向くしかない。
「それは別班が調べる事なので……」
「そうだな。ぬう……」
唸る長官。
脳だけが別の小型メカに移植されており、体と分離して機体と合体するなど、彼にはちょっと想像できなかった。
――整備工場――
ライズィザンの調査が終わり、ジョウ達二人とは少し離れた所で、山和長官は技師から結果を聞いた。
「どうだった?」
「……わからない事の塊です。解析なんていつできるかわかりませんよ、こいつは」
「設計図があってもか!」
「未知の装置が詰まっている図を渡されましても。神経接続するためのケーブルがどこにもないとか、わからない事だらけです。エネルギーの補給と装甲の修理なら地球のFDと同じ方法でやれますが、中が壊れたらお手上げですね」
なお戦闘中に鎧として纏っている追加装甲2組は、サソリ型とトンボ型に合体して工場内で大人しくしている。
途方にくれる技師の言葉に、長官は「ぐぬう……」と唸った。
技師は溜息混じりに弱音を吐いた。
「造った人を質問責めにして教えてもらいたい。それが本音です」
重苦しい雰囲気を漂わせる中年二人。
そこへ横からおずおずと少女の声がかかる。
「ニホンという土地には、行っていいんでしょうか?」
驚いて振り向く山和長官に、いつのまにか近寄っていたリンナが訊いていた。
「ジョウさんの故郷で、帰ってみたいと……」
「後で、後で俺が自分で訊くから!」
ジョウが慌ててリンナを止める。
(まぁ当分無理なんだろうな)
そう思うジョウへ、長官が何やら考えながら告げた。
「よかろう」
「えっ!?」
喜ばしい事だが驚くジョウ。
まぁこの場で即などと普通は思うまい。
無論、長官には彼なりの考えがあった。
未知との遭遇編。
全てを話せないとはもどかしいものである。




