11 女兵士
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
――旧中国領・崇左近郊山中道路――
山中を走るジョウ達のトレーラー。
突然、通信機に声が飛び込んできた。
『アイヤーッ! 救ってー!』
リンナは緊張した顔でメカ甲虫状態のジョウを見る。
「誰か襲われていますね?」
『プレデターだろうな。現地人からの情報は欲しい、助けよう』
ジョウ本体は座席後ろの開口部からトレーラーの中へ飛んだ。自機・ライズィンザンに乗るために。
――近くの山中――
道路を逸れるとすぐにアリのような機械奇虫の群れが現れる。
それらを破壊しながら山中を進むライズィンザン。少し離れてトレーラーも続く。
ほどなく、山中に金属の網の塊が見えた。
クモの巣が集まり、絡まりあったような塊――その中では触手めいた無数のマニュピレーターが機械奇虫を製造し、外へと送り出していた。
その側では1機のFDが必死に応戦している。長い槍を装備した【ランサー】と呼ばれる、近接戦用の装備タイプだ。だが敵の数に圧されて風前の灯。
『巣が新しくできています!』
「ああ、潰そう」
リンナに応えてジョウは機体を走らせる。光線を撃ち込みながら突撃するライズィンザン。マシンガンのような弾を口から撃ち出す機械アリどもを蹴散らし、巣の中へと踏み込んだ。
未完成ながら動ける機械奇虫がグロテスクな姿で襲いかかろうとする。
四方を囲まれ退路もない敵地の只中で、ジョウは機体に積まれた消去装置を起動させた。
途端に周囲の機械奇虫全てが煙を吹いて動きを止める。
触手も同様、巣の中は煙が充満し、動く物の無い死の世界となった。
完全に機能が停止したのだ。
(この消去装置、範囲は限られているし連続使用もできないけど、効果は確かだ。なんとか量産できないか……)
操縦席にセットされた状態で、ジョウはそう考えていた。
戦闘が終わり、ジョウは人造ボディに入った。リンナと共に、救助を求めていたFDの操縦者と対面する。
相手は軍服を着た若い女性だった。歳は20になるかどうか。髪を頭の左右で束ねており、気の強そうな吊り目で二人をじろじろと観察する。
「なんだ? まだ子供じゃないか! それが二人で!」
礼も言わずにぶしつけな女性の言葉に、ジョウとリンナは小声で話し合った。
「もうちょっと強そうな見た目のボディが必要かなぁ」
「その体も性能は低くないんですよ?」
一生懸命訴えるリンナ。
自分の細胞も混ざった体をできるだけ使って欲しいというのが彼女の希望なのだ。
なお外見は中性的な少年だが、そこは人造のボディ。身体能力は体格が許すほぼ上限が出せるようにしてある。ただのチンピラぐらいが相手なら殴り合いをしても正面から確実に勝てるぐらいには、筋力も敏捷性も高い。
逆に言えばそこ止まりで、あくまで人間の範疇内だが。
「何をこそこそ話しているか? 私は正統中華人民共和国政府海南支部の馮萌萌大校アル。お前達は?」
女性が名乗った。
彼女が名乗った所属は旧中国領内に10以上ある後継組織の1つで、海南島を拠点としている。この地方の権力者と軍の一部が機械奇虫との戦いに敗れて海南島に逃げ込んだのが前身であり「本土の政府だが今は島に支部を作って立て籠っているだけ」というのが建前だ。
「村雨丈とリンナ。訳あってプレデターをやっている」
ジョウは建前として考えていた設定を告げた。
それを聞いた萌萌の目じりが吊り上がった。
「日本人か!? 訳あってとは……大東亜共栄圏軍部が中国を侵略しに来たんだな!」
「違うって。こりゃ助けたのは失敗かな」
げんなりするジョウ。
己が救助された事をやっと思い出し、萌萌は「ぐぬう……!」と唸る。
そんな彼女にリンナが訊いた。
「あの、萌萌さんはなぜこんな所に一人で?」
すると力なく目を逸らす萌萌。
「機械奇虫が増えたから調査アル。こんな所に巣が新しくできていた。おかげで部下達もやられて私一人だ……」
「町まで送った方がいいでしょうか?」
なおも訊くリンナに、萌萌は訊き返す。
「そういうお前達はこれからどうするんだ?」
「巣を潰しながら立方体へ向かうけど」
ジョウが答えるや、萌萌の目がまた吊り上がった。
「大東亜共栄圏の立方体破壊作戦! 宣言はしていたが、水面下で始めていたのか! おのれ日本め、我ら正統中華人民共和国政府に断りなく領土侵犯を……! 許さんアル!」
「許さんと言われても……ここで帰れと?」
そう言われたらジョウは喜んで今すぐ彼女と別れるつもりだったのだが、萌萌は偉そうに腕組みする。
「勘違いするな! 私の監視下におく。大東亜共栄圏には公式に抗議するが、それは後の話アル。以後は私の指示に従え!」
「ええ……指示って……」
「まずは立方体への攻撃を予定通り続けてみろ。大東亜共栄圏の戦力や作戦を直に確認する必要があるアル」
一人「うむうむ」と頷く萌萌。
「はぁ、予定どおりに、か……」
ジョウは深い深い溜息をついた。
(それは結局、俺達の後についてくるというだけじゃないのか)
こうして予定外に変な同行者を連れ、予定通りに立方体へ向かう事になってしまった。
全ての人間が主人公に好意的なら都合が良いのだが、この作品はそうもいかなかったりする。




