10 波乱の兆し
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
――旧ハイフォン市郊外――
朝。ジョウは人造体に入り、リンナと二人で近くの屋台街に出かけた。
目を輝かせて「現地の市場」を見渡すリンナを連れ、できるだけ無難そうな食べ物を探した。
(あ……色々具材の入ったホットドッグがある。これなら大丈夫だろう)
バインミーとかいう聞きなれない食べ物だったが、それを2つ注文。
食べてみると、ソースがスパイシーだったが想像の範疇にある味だった。
それでもリンナは感激している。
「美味しいです! アラマーマ族も似たような物は食べますけど甘く味付けします。こっちは刺激的ですね」
新鮮な味を上機嫌で楽しむリンナを見ていると、ジョウの気持ちも上向いてきた。
しかしその矢先……
「野盗だ! 野盗の群れの襲撃だ!」
叫ぶ男が市場に飛び込んできた。
――旧ランソン市郊外――
山間の道路跡を、10機を超えるFDが南東へ向けて進む。
斧や鈍器で武装し、頭部にはモヒカンのようなトサカ状パーツが付いており、極彩色の毒々しいカラーリングが各部に施されていた。
操縦者達もモヒカンやトゲヘルメットを被り、肩当や体に巻き付けた鎖で武装した凶悪なならず者達ばかり。
法も秩序も無くなった世界では、無法を働く者達が激増する。
まともな産業活動が困難になった大陸中に、他者から奪う事で物を得ようとする者達が蔓延っていた。
これら野盗は群れを作り、人里を襲って略奪に及ぶのだ。
プレデター達の仕事には、こうした野盗達から人里を守るため傭兵として雇われる事も含まれている。
そんな野盗達は、前方にFDが数機待ち受けているのをレーダーで知る。
少し進めば、果たして、何機かのFDが武器を構えて待っていた。しかし数は野盗側が倍以上。
『ヒャッハー! 数を揃える暇が無かったらしいな!』
『あいつらも獲物だぜぇ! 乗ってる奴らも含めてよぉ!』
法無き世界では盗品だろうが人間だろうがおおっぴらに売買できる場所などいくらでもある。
欲に目をギラつかせ、野盗のFDが走り出した。
傭兵側の先頭にいるのは――紫の装甲【スコーピオン】装備のライズィンザンだった。
ライズィンザンは野盗どもの機体へ走る。
たった1機だ。野盗どもは喜び勇んで迎え撃とうとした。山道なので周りを囲む事はできないが、正面から圧殺せんとする。
激突!
ライズィンザンの両のハサミが先頭の敵機を容易く両断し、後頭部のテールから撃つ光線が後続の敵機を貫く。
野盗どもも反撃はするが、ライズィンザンの装甲にはまともに痛手を与えられない。いや、そもそもほとんど命中しないのだ。振り回す斧も、撃つ銃も。
一方的に蹴散らされ、野盗どもが操縦席で悲鳴をあげる。
半数をきった所で、動ける者は逃走しようと背を向けた。だが山道の悲しさ、逃げるにも一方向。その背にライズィンザンの光線が容赦なく見舞われる。
撃破された機体からは脱出装置――操縦ブロックがそのまま排出される機構――が飛び出し、それが地を転がると、中から野盗がよろめきながら出てきた。
当然、脱出した野盗どもは逃げようとするが、衝撃で足取りが覚束ない者も多く、半数以上はプレデター達の捕虜となった。
戦いが終わり、プレデター達は敵機の残骸をかき集めた。これは貴重な副収入だ。
そして機体を降りて皆が顔を合わせる。
「いや、凄いな。先鋒は任せてくれというから頼んでみたが、一機でカタをつけちまうとは!」
「見た事ない機体だが、何ていうんだ?」
「ライズィンザンだ」
口々に褒め称える現地のプレデター達にジョウが機体の名を告げると……
「ライジングサン? 日本製か?」
ここでも誤解が生じた。
しかし本当の事は言い難いので「はは、まぁ……」と笑って言葉を濁す。
「それよりこいつらをどうするんだ?」
話を逸らすためにもジョウが野盗の処遇を訊く。
捕まった野盗どもは武器を取り上げられて正座させられていた。
彼らにプレデター達が険しい目を向ける。
「処刑だな」
法も秩序も無い世界、無法者がその場で即処分されるのは珍しい事ではない。
野盗どもは必死に命乞いを始める。
「た、助けてくれ! 俺達だってこんな事はしたくなかったんだ!」
「機械奇虫がまた大量発生しやがったんで追いやられて来たんだよ! また巣も増えやがった!」
「本当なら広西の辺りで平和に略奪してたのに……全部世の中が悪いんだ!」
「旧中国領から来たのか……そこで機械奇虫が大量発生……」
考えるジョウ。
立方体の機械奇虫生産ペースは一定ではなく、波がある。時にかなりの数を短期間に生み出す事もある。
当然、そんな時は周辺地域に「巣」が増え易い。
「リンナ、北東の方にある立方体や巣の位置はわかる? できるだけ多くの巣を潰しながら立方体に向かいたいんだが」
「新しく増えた巣は現地に行かないと把握できませんが、旧来の物はわかりますよ」
ジョウの質問に、リンナはスマートフォンそっくりの端末を操作しながら答えた。
「ええと……多少蛇行しながらになりますが、河池市とかいう所の近くですね」
「よし、報酬を貰いに町へ戻ろう。その後は立方体に向かう」
「わかりました!」
ジョウとリンナはトレーラーに戻り、急いで町へと引き返していった。
それを見送るプレデター達が呟く。
「立方体に向かうって……戦いにか? じゃあ彼の機体は大東亜共栄圏の新型って事か」
「そうか、あそこが立方体を攻撃するって話がいよいよ実行に移ったんだな」
野盗の一人が呟いた。
「で、俺らはどうなんのよ?」
まぁ予定通りという事だろう。
荒廃した世界で皆がお行儀良くしているわけもない……という話。
ついでに場所移動。




