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9 故郷は遠し

登場人物

ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。

リンナ:異星種族アラマーマの少女。

 ファン達とはその日のうちに別れ、ジョウ達は町を出た。南東へ向かってトレーラーを走らせる。


 運転席で車を動かすのはリンナだ。

 その横にはジョウの姿……が、あるにはあるが本体であるメカ甲虫の姿。


 リンナがハンドルの横にあるモニターを操作し、地図を出した。


「この先で東へ向かうんですね?」

『ああ。ハノイからハイフォンへ向かって欲しい。地名、わかるかな?』

「はい。地球の市街名ですね。データもとってありますよ」


 地図を操作し、予定ルートを赤く着色するリンナ。

 ジョウもこの10年の情勢を学習済みだ。大東亜共栄圏などという同盟がアジアの島国でできていた事には驚いたが、それなら海路で日本へ向かう事もできる筈である。

 立方体(キューブ)を潰して回る前に、ジョウは故国・日本で確認したい事があったのだ。



 ――ハイフォン――



 かつての大きな港湾都市も、やはり半分ほどは破壊されて廃墟となっていた。

 しかし今でも港はあり、プレデター達と取引するためにアジアの島国から何隻もの船が来る。

 もちろん、日本と行き来する船もあった。

 ジョウは改めて人造ボディに入り、トレーラーで港へ向かう。


 そして……肩を落として港からすごすごと引き返す事になった。


「そりゃ渡航制限もあるよな、こんなご時世……」

「ジョウさんの身分証は保管していたのに…‥」


 運転しながら困った顔のリンナ。

 ジョウの免許証やマイナンバーカードが身元を表す物だと見当をつけた彼女は、10年前に体を回収した時からずっと保管していた。

 しかし半分以上焼け焦げ、写真は今の顔と全くの別物。日本人・村雨(むらさめ)(じょう)の証明には全く役に立たなかった。

 避難したい人間が溢れる現状、無制限に入国を受け付けている島国など無く、日本も例外ではない。

 また港へ来てから知った事だが、もしジョウの身元証明ができてもリンナは置いていかねばならなかった。同行者として短期間認めてもらう方法ぐらいあるだろう、というジョウの考えが通るような時期ではなくなっていたのだ。


 哀れジョウは日本への海路を前に立ち往生となった。



 ――夜――



 日が暮れたので、郊外に車を停めて宿泊する事にした。

 積んである食料を古い物から出して簡単な調理をリンナがする。リンナが食べるために。


 ジョウは再びメカ甲虫。

 この体は電力を供給すれば動けるので、充電バッテリーとケーブルで繋ぐ。


「あの……やっぱりジョウさんも何か食べませんか? 私が作りますから」

『ありがとう。でも食料は高価だし、積める量にも限りがあるからな……』


 ちょっぴり悲しそうなリンナに、ケーブルを脇腹のコネクタに差しながら答えるジョウ。

 人造ボディは保存カプセルで凍結状態。動かさない間は食事は要らない。



 一応、住んでいた立方体(キューブ)にあった食料はできる限りは積んだ。しかしコンテナにはFDやその整備道具も積むし、居住用の道具も要る。

 積める量に限りがあれば、消費量を減らすよう工夫するのも当然の事である。


 なおジョウが目覚めた立方体(キューブ)……リンナが地球に来てからずっと住んでいた基地は、ラオスの山中、森の中にあった。

 人間など何年・何十年も来ないような所に、何の動きも表には見せない立方体(キューブ)がぽつんと有っても、機械奇虫(マシンバグ)を吐き出し続ける立方体(キューブ)がより人里近くに有るうちは後回しにされる。

 そうしてずっと隠れ住んでいたのだ。

 数々の食材は空や地下から機械奇虫(マシンバグ)と同じ外見の採集用マシンを向かわせて手に入れた物だった。


(小型メカに脳を移植して現場指揮をする戦闘方法といい、やたらと隠れながら戦うよな。敵がどんな超能力を持っているかわからない者達同士だとそうなるのかも……)


 ジョウには理解し難い点もあったが、まぁ文化の隔たりというヤツだ。



 けれどやっぱりリンナは寂しそうだ。食事を二人でとりたいのだろう。

 ちょっと考えてジョウは声をかけた。


『明日は一緒に何か食べようか。せっかく人里にいるんだからね』

「そうですね、はい! 地球人の文化もよく知らないといけないし、次の町では現地で直に触れてみたいです」


 一転、明るくなるリンナの表情。

 それを嬉しく思いつつも、いつまでこの町にいるんだろう……とジョウは心配もしていた。



 ――就寝――



 移動生活をするようになってから、ジョウはリンナと一緒に寝ている。

 立方体(キューブ)にいた時から同じ寝台で寝てはいたが、今は本当に体を重ね合わせて寝ているのだ。


「ジョウさん、おやすみなさい」

『うん、おやすみ』


 二人優しく声をかけあい、枕元の照明を落とす。

 リンナはアラマーマ族特有の掛布団にくるまり、寝台に体を横たえた。


 ジョウはその頭の下である。つまり枕だ。


(金属の枕でよく寝れるなぁ……)


 ジョウは密かに感心するが、このポジションはリンナの望みでもあるし、薄くても柔らかな布団に幾重にもくるまっているので大丈夫なのかもしれない。

 本体単独だと数種のセンサー類を通してしか外殻の外を感じる事はできないジョウだが、そのセンサーが、リンナの体温や呼吸を捉え、彼女が安眠している事を知らせていた。


(俺も寝るか。これからの事は明日考えよう)


 不本意ながら先はまだ長そうだ。ジョウもセンサー類からの情報を音声以外は一時的に遮断して、脳を休める事にした。

 音声だけは遮断していないので、リンナの寝息だけは聞こえていた。


 その方がよく眠れるのだ。

崩壊した世界をすんなり旅できるわけもなく、もう少し面倒事に巻き込まれるのだ。

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