第四話:修羅場の病室
第四話:修羅場の病室
根古の病室は、異様な熱気に包まれていた。
大学生の結衣、絢香、沙織、真央が揃って睨み合っている。
「……何よ、おばさんたち。誰?」
結衣が刺々しい声を上げる。
「誰って、こっちのセリフよ。私は輝昭くんと結婚の約束をしてるの」
真央がスマホの画面を突きつける。
そこには『結婚しよう』『指輪を見に行こう』という甘いメッセージが並んでいた。
「はあ? 私だって、将来の話をしてたわよ!」
「小娘の分際で、生意気な! 黙りなさいよ!」
絢香と沙織も加わり、狭い病室は金切り声の応酬と化した。
看護師の雅美が、冷ややかな視線で四人を一瞥し、根古のベッドサイドに悠然と腰を下ろした。
「……お引き取りいただけるかしら。根古さんは安静が必要なの。それに──」
雅美はわざとらしく根古の頬に左手を添え、四人に向かって勝ち誇ったように微笑んだ。
「彼が本当に心を開いているのは、私だけよ。昨夜、ここで何をしていたか、教えてあげましょうか?」
四人の女たちの顔から、一気に血の気が引いた。
裏切り。嘲笑。
そして、自分たちが持っていない「既婚者」という余裕。左手の薬指で、結婚指輪がキラリと光る。
その時、沈黙を守っていた根古が、面倒そうに鼻を鳴らした。
「……あー、うるせぇ。ったく、どいつもこいつも」
根古は、縋るような視線を向ける女たちを、ゴミを見るような目で見据えた。
「勘違いするなよ。俺は、誰かを特別に好きなんて、一度も言った覚えはねぇぞ」
「でも、LINEで……あんなに優しい言葉を……!」
沙織が泣き叫ぶが、根古は冷たく言い放つ。
「LINE? なんの事か分かんねぇけど、多分適当に送ったやつだろ。あんなメッセージに意味なんかねぇよ。最近、結衣の部屋に入り浸ってたのも同じ、意味なんてねぇ、単に新しい玩具を手に入れたガキと同じだよ。飽きたら次に行くだけ。お前ら全員と付き合い続けてもいいし、今ここで全員と別れたっていい。代わりの女なんて、いくらでも補充できるんだよ、な? 雅美」
根古は雅美の肩を抱き寄せ、口付けた。真っ赤な口紅がべっとりと根古の唇に移った。
「俺は寝るから、お前らさっさと帰れよ。邪魔だ」と吐き捨てた。
追い出された四人は、口を開くこともできず薄暗い非常階段に腰を下ろした。
悔しさと屈辱で、肩を震わせて泣いていると、
その時、彼女たちのポケットの中やカバンの中で、スマホが一斉に震えた。
『ユルセナイヨネ、アノオトコ』
『シネバイイ』
『アノオンナモ、ユルセナイ』
かつて信じていた男に裏切られた二十八歳の女性の「怨念」が、直接彼女たちの脳を支配するように流れ込んできた。
沙織が、虚ろな目でスマホの画面を見つめる。
そこには、雅美がはめているのと同じような「結婚指輪」をつけた、別の女の幸せそうなインスタ写真が次々に映し出された。
『イッソノコト、アノオトコヲコロシテ……』
『アノオンナヲ、ハンニンニシタテテ……』
四人の視線が、スマホの上で交差した。
言葉は必要なかった。
亡くなった女の「復讐心」と、四人の女たちの「絶望」が完全に一つに溶け合った。
「……やりましょう」
沙織が静かに呟いた。その顔には、もう涙はなかった。
ただ、暗いスマホの光に照らされた、能面のような笑みが浮かんでいた。




