section.55_ギガントマキア4
「カルコサ都市軍の中継キャンプを破壊。大型機動兵器ブリッツァーの予備機を確認し排除⋯⋯。衛星軌道上にまだ実験部隊アルケミストが予備戦力として残留。内容は上々ですが作戦完了が早すぎますね」
「それでも、時間稼ぎにはなりました」
「全長100mに及ぶ機体の方向転換には、いささか以上の時間がかかりますからね」
実験部隊アバランチが作戦行動に入ったタイミングで、こちらに砲撃した大型機動兵器が方向転換を始めたのを確認している。
総崩れのアイアス城壁前よりも作戦上の優先度が高かったのだろう。
しかし、衛星軌道上から落とされた爆薬が積まれた降下ポッドによる空爆と、後詰として降りてきた実験部隊アバランチの面々によって30分もかからずに殲滅されてしまった。
要塞型と呼ばれる全長50mを超えるような巨体を持つ大型機動兵器は、多少の制動でも大幅に時間を食われる。城塞都市アイアスに向き直るためには、一度機体の動きを止めてから再度方向転換する必要がある。
おかげで、損傷したMⅢアルテミスのシステム復旧と状態確認が完了できた。
「MⅢアルテミスの自動診断と、システム復旧完了しました。レーザー砲直結ラジエーターが停止。衛星通信アンテナが破損。ドローンポッド脱落。右肩追加装甲脱落。姿勢制御システム、メインシステムは生きています。一発だけならレーザー砲は発射可能です」
「レーザー砲の使用後、即座にパージして下さい。現状での発射がそもそも推奨できません。照射時間も5秒までです」
「了解しました」
「⋯⋯では、いったん通信を切ります」
アリスとの通信を終え、ニコルは嘆息をつく。
「この機体周囲の熱気はラジエーターが止まっているせいだったのか」
後ろで通信を聞いていたジャックが汗を拭いながら確認する。MⅢアルテミスの周囲は熱と湿度でまるでサウナのような状態となっていた。
風で熱気が流されてもなお暑い。
「正確には戻りの冷却配管が破損し、熱気が漏れています。この暑さはその所為ですね」
「⋯⋯報告と違わないか」
「問答している時間が惜しいですからね」
淡々と返す少年に、ジャックは怪訝な顔をする。
「話を聞く限り、レーザー兵器を撃った瞬間に危険な熱量の排熱が吹き出すように聞こえるんだが」
「なので、ローレンス少尉もストロース中尉と同じように機体内へ退避して下さい。電力は繋いでいましたよね?」
「⋯⋯君はどうする」
「僕のパイロットスーツは耐熱仕様、全身火傷の心配はありません。MⅢアルテミスには安全装置も付いています。問題ないです」
「それは本当か?先程のオペレーターに告げたような嘘ではなく?」
やたらと気にかけてくる義肢の軍人に、ニコルは半分振り返る。
目を向けるとジャックと目が合った。
この男とはまだ数回顔を合わせただけだ。
過去に顔を合わせた覚えもない⋯⋯はずだ。
「何故そこまで気にするんですか?そんな義理もないでしょう」
「義理ならある。義理の弟になるんだからな」
「⋯⋯はい?」
何を言っているのかすぐに理解できず、ニコルはほうけた返事を返してしまった。義理の弟、ということはこの義肢の軍人が少年の親族と籍を入れるということだ。
そして、身に覚えのある親族となると、ニコルには1人しかいない。
「今言いますか?それ⋯⋯。縁起の悪い⋯⋯」
「君が自身を顧みないのが悪い」
理解を終えて、ニコルは長いため息をついた。ジャックはジャックで、バツが悪そうに顔を逸らしている。
やたらと世話を焼いてくるなと思っていたが⋯⋯つまりこの義肢の軍人は、行方知れずの弟を探し続ける姉を近くで見てきた訳か。
「⋯⋯僕だって死にたい訳じゃないです。100%ではないですが、今できる最善の安全牌をとってます」
「⋯⋯そうか」
「そうですね。甘えるなら、もし脱出装置が作動しなかったら機体から引き摺り出して下さい。耐熱仕様といっても身体を冷やしてくれるわけでは無いので」
「そうしよう」
そう言って、ようやくジャックは引き下がってくれた。
おかしな話のように感じた。幼少期の記憶も家族の事も覚えていないのに、ここ数ヶ月で急に家族が増えてしまった。
自分で探しに行ったわけでもないというのに。
「義兄さんとの話は済みましたか?」
「⋯⋯どこから聞いてました?」
「ニコルさんが何故気にかけるのか聞いたあたりからでしょうか。まもなくセレスさんの大型機動兵器が出撃します。観測に集中して下さい」
「了解です」
盗み聞きを棚に上げて釘を差さしてくるアリスに物申したいところだが、今はその時ではない。
間もなくして、爆音と共に城壁の解放された隔壁から加速したセレスの大型機動兵器フリューゲルが飛び出してきた。背面には格納された砲身だけでなく追加の燃料タンクを4本生やしている。200km以上の距離を補給無しで走り切るための装備だ。
大型機動兵器の初速の速度ではない。おそらく城塞都市アイアス第一層の道路を滑走路代わりにして加速したのだろう。
第一層の建物のガラスが悲惨な状態になっているだろうことは想像に容易い。
後を追うように双子のMⅢファング2機も追随するように飛び出した。
ブリッツァーとビーハイヴと比べると小型に見えるフリューゲルだが、脅威的な兵器であることには変わりない。
化物のような加速で現れた巨体へ、カルコサ都市軍からの砲撃とミサイルが雨のように放たれた。
「MⅢファング1番機、2番機。援護を頼む」
大型機動兵器は城壁前に展開したカルコサ都市軍を完全に無視。相手左翼側をさらに迂回するように進路を2時の方向に取り加速していく。
砲弾は演算が追い付かず、大型機動兵器の後方に着弾するものの、ミサイルはそうもいかない。
ミサイルは追い縋るように方向を調整し大型機動兵器へ迫っていく。
「頼まれました!」
「ここは通行止め!」
それを赤い可視光の光線が撃ち落とした。双子のMⅢファングには攻撃用の武器が何一つ積まれていない。
その代わりに対誘導兵器用の低出力レーザーのみを腕部と両肩に積載していた。
ミサイルのバーニア内部にある燃焼機構がレーザーで焼かれ暴発し、撃ち落とされていく。
双子はミサイルだけは1つも残さない。
追い縋ろうとするMⅢもいるにはいるが、まだアイアスの都市軍の地上部隊は生きている。戦車の火砲が待ち伏せていたように離脱しようとするMⅢを砲撃で牽制、または破壊する。
流石にここまで露骨であれば、大型機動兵器フリューゲルの目標が何かは一目瞭然だ。
「大型機動兵器ブリッツァーの主砲が間もなく城塞都市アイアスを射線に捕らえます」
アリスからの報告が耳に入る。ここで、相手の大型機動兵器が想定通りに動いてくれるか⋯⋯いや、動くしかないはずだ。
以前に大部隊を大型機動兵器フリューゲルに蹂躙された以上、この高速機動を強みとする大型機動兵器を無視はできない。
「砲撃⋯⋯ありません!ブリッツァーは旋回運動を継続。これ以上、こちらからの援護射撃は不可能となります。フリューゲルは2時の方向に進路を取り、敵主砲の射線を避けつつ進んでください」
「了解した」
「ニコルさん!」
「了解しました」
カルコサ都市軍はもはや城壁前の戦力差は決したと考えている。
火力の要である戦車部隊、城壁上のMⅢ部隊は全滅。時間稼ぎを行った突破力に優れるアイアスの都市外活動専任特殊部隊も同様だ。
その後、アイアスの都市防衛隊のMⅢが展開たものの、なんとか前線を押し留めているに過ぎない。
教科書通りの現場認識なら間違っていないだろう。
「警告は全て無視します。ラジエーター停止によるシステムロックを解除。専用電源強制接続」
エラーと警告表示のため、もはやセミオートでは操作できない。事前に確認していたセキュリティのプログラムを直接書き換えエラーを無効化していく。
「レーザー砲の安全弁解除。集束砲身接続。冷却状態から長距離掃射形態に切り替え。レーザー砲望遠カメラ破損のため頭部望遠カメラと接続。」
MⅢアルテミスの操縦画面は警告表示だらけだ。それをそのままに、力業で砲身を発射状態へと切り替えていく。
「砲身固定。照準用可視光レーザーを照射」
空を赤い可視光が走った。的は大きい。赤い光が大型機動兵器ビーハイヴの胴に赤い点を描いた。
気付いた所で、もう遅い。
「トリガーのロック解除」
引き金を引いた。照射時間は5秒までだったか。
発射する分には問題が無かった。
万全の状態でも最大照射時間は数秒だ。
残り4秒。レーザーが到達した大型機動兵器ビーハイヴの装甲が一瞬で真っ赤に赤熱する。
残り3秒。複合装甲はセラミックと金属の複数の材質を組み合わせた装甲だ。混入したわずかな水分と空気、装甲材質の膨張率の違いから、液状化した金属とセラミックが弾けた。
残り2秒。大型機動兵器ビーハイヴの装甲の内側から白い煙が噴き出した。対空レーザーの冷却剤だ。一瞬で気化したそれが空中で液体に戻り煙となったのだ
残り1秒。冷却剤に被弾したことで、想定より損傷が少ないようだ。被弾地点をずらそうと、大型機動兵器動き始めた。
「まだ⋯⋯!!」
「駄目です!脱出して下さい!」
残り0秒。
無理をする以前に、操縦桿が熱した鉄のように熱く持っていられなかった。手を話すも熱と痛みが離れてくれない。見ると、溶けた樹脂が耐熱グローブに張り付いていた。
所詮は最低限の耐熱性能だ。製鉄作業用ほどの分厚さでは操縦ができなくなってしまうためだ。
グローブに付着した溶けた樹脂をコクピットの壁面にこすり付ける。
オーバーヒートの警告表示。
「⋯⋯まだです。まだ、保ちますよね」
警告を消して武装の状況を確認しようとするが、新たな警告表示に邪魔されてしまう。
胴体の損傷部から白い湯気が吐き出されていた。
気付けば異様に汗をかいている。フルフェイスの操縦用ヘルメットが湿気で息苦しい。サウナに入っているように思えたが、その程度で済んでいるのは耐熱スーツを着ているからである。
温度計も見る気が起きない。
「⋯…目標、は?」
肩で息をしながら確認する。
「⋯⋯目標健在」
アリスの報告が耳に入った。
まだ動かせる武装。肩関節部のレールガンは独立した兵装で動かせるはずだ。
「では、美味しい中身はこちらでいただきましょう」
突然、女性の声が通信に割って入ってきた。
たしか、アイアスの女性尉官。
特殊な改造をされたMⅢレックスのパイロットだ。
「メイア、ジャック。狙えますよね?」
「容易い」
「電力供給完了。座標誤差修正。いける」
MⅢアルテミスの前で屈んでいたMⅢレックスが立ち上がり、上半身の装甲、顎を上下に開いた。
「君は脱出しろ」
ジャックのMⅢレックスがプラズマを吐き出した。電磁力で加速された金属の塊は、吸い込まれるように大型機動兵器ビーハイヴの溶解、破損した装甲の穴に至る。
わずかに遅れて、城壁下からも砲弾が飛んできた。同じく、綺麗に破損した装甲の内部へ吸い込まれていった。
くぐ持った爆発音と共に、大型機動兵器ビーハイヴの外殻の隙間から炎が吹き出した。
蟹のような四肢が力を失い、巨体がゆっくりと地に伏していく。
「⋯⋯大人って、ズルいですね」
「大人の特権ですから」
ニコルはため息をつき、安全装置への干渉を止めた。
メインモニターに警告とともに強制射出のカウントが表示された。
コクピットブロックの装甲が炸薬によってパージされる。
ニコルの座る操縦席、ブラックボックス、サバイバルキットだけを携え、MⅢアルテミスのコクピットブロックが後方に射出された。
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「大型機動兵器ビーハイヴ沈黙!」
「やっとか!」
最高速度で走り続けるフリューゲルはミサイルの雨を対空レーザーでしのぎ続けていた。
破壊したミサイルの破片の所為で装甲はボコボコに凹んでいる。
だが、ミサイルの迎撃が止んだ。
こちらを観測できなくなったのだ。
「射程距離到達まで後30分か⋯⋯」
双子のMⅢファング2機はすでに大型機動兵器フリューゲルに距離が離れ過ぎたため離脱した。高出力型といっても、機動力に特化した大型機動兵器と比べるとエンジンの大きさが違い過ぎる。
「こちらはまだ長丁場になりそうだ」
「だから、もう終わらせて帰ろう」
突如通信が繋がり、セレスは思わず周囲を見渡す。
だが、通信の主がいるのは空の上だった。
丁度、黒い飛行型のMⅢイカロスが空中で降下ポッドを脱ぎ捨てた所だった。
敵もこちらも地上の相手に集中していて気付いていなかった。
シーラのMⅢイカロスが真下の節足動物モドキに砲身の長い重機関砲を構える。
「実験部隊アバランチのおかげで、上部装甲が脆く、直上が死角なのは確認済みですからね」
「つまり僕は」
「黙っていましたが、陽動ですね」
アリスから通信で説明が入った。
重機関砲たったの5射。
セレスの姉であるシーラ・キースはそれだけで大型機動兵器ブリッツァーを沈黙させてみせた。
まだまだ射程外のセレスは呆然と遠方で煙が上がるのを眺めることしかできなかった。
「あんまりだろ⋯⋯」
「陽動も立派なやくわりです。それにセレスさんにはまだ仕事が残っています」
アリスから合流座標が送られて来た。
「⋯⋯迎えに来て」
MⅢイカロスは高度を維持したまま、戦闘速度でセレスに送られてきた指定座標と同じ座標に向かって移動を開始する。
「シーラ・キースとMⅢイカロスを回収し、帰還してください。あとはアイアス都市軍の仕事です」
「⋯⋯了解」
黒髪の少女は長いため息と共に返答した。
ルージュ「私達、出番無しか」
ラルス「予備戦力なんだ。無いに越したことはないさ」
ルージュ「だけどさー!」
一部エピソードのタイトル変更しました。
このあとはエピローグになります。




