section.54_ギガントマキア3
アイアスの城壁前で巨大な爆炎が上がった。遠方に隠れていた件の大型機動兵器の大口径レールガンによる超長距離射撃である。
規格外の爆風によりMⅢも風圧で横滑りしてしまう。
「ハウンズリーダーより全機へ!誰が死んだ!?」
「こちらウィペット1!戦車が1小隊食われた!」
ハロルドの物言いに苦言を零しつつもメイアは管制室からの情報を報告する。ハロルドはもはや目の前の獲物しか見ていない。
ハロルドの黒いMⅢは炎上したトラックを巨大な右腕で掴むと、すり抜けざまに敵戦車に叩き付け重機関砲を撃ち込む。
隊列の内側に入られたカルコサ都市軍のMⅢは同士討ちを防ぐ安全装置の所為で射撃武装が使えず止められない。
無謀なMⅢパイロットが盾で突貫してくるが、盾ごと鷲掴みにされて黒いMⅢの肉壁と成り果てる。不要になれば側面から重機関砲でコクピットブロックを撃ち抜いて捨てられていた。
「ブル1よりハウンズリーダーへ。前に出過ぎじゃないっすか!?」
「シェパード1よりハウンズリーダーへ!シェパード隊もブル隊も隊長機のみです!ハウンズ3も脚部損傷で脱出!燃料残り半分!」
報告の声は悲鳴に近かった。
ただ、余裕の無さそうな声を上げるクレアも、すり抜けざまに重機関砲の砲弾で敵戦車の側面を撃ち抜くことは忘れない。盾で突貫してくるMⅢはMⅢレプスの俊敏性を活かしたステップで避けると、そのまま機体をドリフトで急旋回させ、目についた脚部と腕部にもう片腕部の機関砲を叩き込んだ。
「⋯⋯クレアちゃん割と余裕あるね!?」
「シェパード1よりブル1!口より機体を動かしませんか!?」
「余裕あるね!?」
「センスはあるよね。ただ、確かに潮時か」
ハロルドも自身のMⅢの燃料計を確認する。すでに3割を切っていた。
ハロルドの黒い機体、MⅢガルムの機動力はホバーエンジン出力に頼ったものだ。そのため、重装備と機動力を両立できるが、燃費が良いとは言えない。
機種としても古く、胴と脚部はMⅢガルムを元に設計量産されたMⅢジャガーのフレームに交換し多少燃費は改善したが、クレアのMⅢレプスとの燃費の差は明らかだった。
「ハウンズリーダーよりウィペット1へ。支援要請。補給に戻る」
「ウィペット1!了解!各機、後退する隊長機を支援しろ!」
「俺が殿だ。下がる際に相手の尻を掘るのは任せるよ」
「もう少しマシな言い方ありませんか?」
ハロルドは下がる際に、敵MⅢを1機捕まえるのを忘れない。ハロルドの経験上、MⅢでのゼロ距離戦闘はいかにMⅢの虚弱性を突くかである。
こうして敵機体を盾にするだけで照準レーダーでのロックオンはできなくなり命中精度は大幅に減衰するのだ。
「ん?あれは⋯⋯」
後退中、朝焼けの空を眩い光が流れていくのが目に入った。
天文学では火球と呼ばれるものだ。
ただ、あれが残念ながら流れ星や隕石といった浪漫溢れる代物ではないことをハロルドは知っていた。
「バルドゥルもやっと次の手を打ったか」
さて、この貸しは何で返してもらおうか。ハロルドはそんな事を考えつつ、重機関砲の引き金を引いた。
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「降下ポッド、惑星自転速度と同期」
暗いコクピットの中で、管制官のクリスの声が耳に入った。
「大気圏突入。衛星砲の索敵範囲内に入ります」
「ひいっ」
降下ポッドの内壁が振動でガタガタと音を立て始めた。振動よりも、衛星砲の射程と聞き、トリアが思わず悲鳴を漏らす。
「降下ポッドは惑星自転速度との同期を維持。軌道エレベーター衛星砲、反応ありません」
「衛星軌道降下やっぱり慣れない⋯⋯」
「トリアうるさい。クリスさんの声が聞こえない」
「うう⋯⋯」
エナに苦言を呈されトリアは閉口する。
「降下座標の誤差、許容範囲内。間もなく、先行したダミーが地表に到達します。3⋯⋯2⋯⋯着弾」
苦言というより私的な不満のように聞こえなくもないが、他の姉妹は自分が刺されないために何も言わない。
「光学迷彩を無効化。大型機動兵器を確認しました!フェデラル・エンジニアリングのブリッツァー!」
クリスの報告に部隊全体の緊張が高まった。
「大型機動兵器の予備機⋯⋯」
「予想通りだねぇ。悪い方の」
テセラが固唾を飲み、ディオが軽口を叩く。
「聞いた通りだよ。作戦目標はプランBに変更。各員、ホバーエンジンを戦闘出力へ。武装の最終確認」
エナの指示に従い姉妹たちは機体の設定を切り替えていく。密閉空間でホバーエンジンの稼働音が響き渡った。
同時期に製造された9人姉妹だが、長女としての役割を与えられたエナはこの部隊の隊長でもあった。
「敵支援車両、戦車隊は全滅。MⅢ10機残存。機種特定。MⅢクーガー。降下ポッドの破片を上手く使って下さい」
大型機動兵器ブリッツァーとMⅢクーガーの配置が隊員に共有された。
MⅢは大型機動兵器後方に3機。
両翼に4機。大型機動兵器の直衛機。
前方は3機。
本来の前方に車両を守るMⅢがいたのだろう。大型機動兵器の前方にクレーターが出来上がり、車両、戦車、MⅢが破損、転倒した状態で転がっていた。
「高度5000mを切りました。降下ポッドの外装をパージ後、減速します。3⋯⋯2⋯⋯パージ!」
クリスのカウントに合わせて姉妹達は目を閉じる。炸裂音と共に瞼の上から外部カメラの映像を映す全天モニターの光が感じ取れた。
同時に、降下ポッドの逆噴射によるGが体を襲った。
ゆっくり目を開くと、姉妹の操るMⅢの姿が目に入る。
姉妹皆同じ機体だ。周囲にパージした降下ポッドの外装は無く、はるか下に散らばっていた。
白の塗装で統一された試作量産機MⅢリンクス。
胴はMⅢジャガーと変わらないが、四肢がMⅢアルテミスを元にしたフレームに変更されている。
武装も姉妹揃って共通だ。
右腕部に機関砲。
左腕部にハンドミサイルとそれを守る追加装甲。
肩関節部は右翼側にドローンポッド。左翼側の砲身の長い重機関砲は本来腕部に装備するそれと共通の口径のものだ。
「これより現場指揮権を実験部隊アバランチのエナ・キースに一任します。幸運を」
「任されました!」
「エナ姉。集中」
「わ、分かってるわ」
姉がこのオペレーターにご執心な理由はこのやり取りにある。
おそらく、クリスからすると業務的な気遣いであるはずだが、エナはこのやり取りをかなり気に入っているようだった。
「全機、降下ポッドの底面を盾に位置調整。大型機動兵器の後方に展開する」
「エナ姉、腕部機関砲なら敵斥候のMⅢに対して射角が取れるよ」
最も後方にいる3姉妹の内、末妹のエネアからの報告にエナは足場扱いしている降下ポッドの下を確認する。確かに射角の自由度が高い腕部の武器なら射角はとれそうだ。
相手がこちらに向かって機関砲を撃っているのは破片の迎撃だろうか。散らばった降下ポッドの外装に阻まれて、こちらへはまともに届いていない。
こちらからの照準レーダーは届いた。
地上まで後1分もない。
「⋯⋯いけるね。7、8、9番機。機関砲フルオート射撃。マガジン2つまで。3カウントでやるよ」
「やった」
「「了解」」
提案が採用され末妹が感嘆の声を上げる。だが、攻撃できる時間などほんの数秒だ。
1から6番機が着陸準備も兼ねてホバーエンジンを吹かせて減速し、3機に射線を開けた。
第一掃射。50発の砲弾が空中の瓦礫を弾いて目標までの道を確保した。数発が敵MⅢクーガーの足元に着弾するが、機関砲は正面装甲を抜ける威力ではない。
第二掃射。着弾位置から射角を修正。1機の不運なMⅢクーガーの頭部ユニットが吹き飛び、上面装甲が蜂の巣となった。
「1機撃破!⋯⋯1機か」
「露払いご苦労さま」
「ディオ!?」
突如、次女の2番機が先んじて降下ポッドの足場を捨て前に出た。
身を守る盾であったが、射角を取るのに邪魔だった足場を捨て、単体で降下体制に入ると、機関砲をセミオートで2連射する。
ディオの放った10数発の砲弾は、3機の機関砲掃射が作り出した瓦礫のない空間に滑り込み、撃ち漏らしたMⅢクーガー2機の頭部を吹き飛ばした。
「横取り!?」
「言ってる場合じゃない!もう地面は眼の前!ホバーエンジン最大出力!回避行動!」
2番機以外のMⅢリンクスも降下ポッドの足場を捨てて空中で最大出力のホバーエンジンのバーニアを吹かして減速。着陸態勢に入った。
そして、間もなく相手の射角にも入る。後ろを取ったとはいえ、大型機動兵器には後ろにも機関砲など補助兵装は搭載されている。
「2番機!⋯⋯ディオ!何処に行くの!?」
「気になるなら着いてきたら?」
MⅢリンクス2番機は大型機動兵器の邪魔な機関砲を破壊しつつ降下位置を調整していく。
「全く!勝手して!」
「エナ姉どうするの!?」
次女が何をしようとしているかを理解し、エナは敵MⅢの状況を確認する。幸い、敵MⅢは衛生軌道から落ちてきた金属の塊を避けるために散開していた。
対して、大型機動兵器は避けることなど到底不可能で、上面装甲に凹みや大穴を空けている。レールガンの砲身は密度が高いため外見上は無事に見えるが、エナ達またはディオの2番機に向けて射角の取れる武装ではない。
「私達は後方のMⅢを優先して潰す。いい?」
「ディオ姉は!?」
「⋯⋯フォローする必要すらないと思うわ」
ディオのMⅢリンクスはホバーエンジンの噴射を弱めて真っ先に地に⋯⋯否、大型機動兵器の上に脚をついた。
大型機動兵器ブリッツァーの備える超長距離砲のレールガンは全長100mに及ぶ。前方に伸ばす際に課題となった砲身の保護と自重による形状変形を解決するため、後方に伸ばすという設計に至った超大型の自走砲だ。
長大なレールガンの重量と衝撃を支えるだけでなく砲身を保護する直径50mの円形の台座部分、ここに砲弾から動力、人員まで全てが詰まっていると言っても過言ではない。当然ながら重厚な装甲に加え、対誘導兵器用の低出力対空レーザー、機関砲、小型ミサイルが全方位をカバーしている。
機体直上を除いて。
機体真上に乗られる状況など、想定されていない。
ミサイルはレーザーで、ヘリはミサイル、MⅢなどの地上兵器や歩兵は装甲と機関砲、ミサイルで対処できるためだ。
「一度やってみたかったのよね」
あまりに荒唐無稽な行為に、カルコサ都市軍の護衛MⅢ部隊ですら呆気に取られている。
そんな周囲を他所に、ディオのMⅢリンクス2番機は真下、すでにボロボロの大型機動兵器上面装甲に機関砲の砲口を向けた。
その様子にようやく護衛部隊のMⅢが武装を構える。
「ディオ姉!!」
「撃てない。私達も大型機動兵器を撃てないけど」
安全装置が同士討ちを防ぐために武装をロックした。
ハイテク兵器故のセキュリティホール。
旧式の戦車や車両を除き、デジタル化された兵器に付き纏う欠点。
対して、次女のMⅢリンクス2番機の背負う重機関砲を遮るものは何もない。
「撃てないよね。私は撃てるけど」
右翼側の直衛2機に向け、肩関節部積載の重機関砲が火を吹いた。
「ポールダンサーに釘付けになるのもいいけど、降りて来たのは私だけじゃない」
殿の部隊の後方。すでに2番機以外のMⅢリンクスが展開している。
「まっ、待ってくれ!我々は投降⋯⋯」
「撃て。重機関砲。フルオート」
エナの号令で8機が合わせて重機関砲を掃射する。後方の残存部隊が蜂の巣となる。
残る左翼の2機も、ディオのMⅢリンクスの餌食となった。
「さて、なかなか良い舞台だった⋯⋯けど、名残惜しくはないかな」
足下、大型機動兵器の上面装甲にMⅢリンクス2番機が機関砲を掃射、空いた穴にハンドミサイルを全弾撃ち込み後方へ離脱する。
間髪を置いて、大型機動兵器内に搭載された砲弾に誘爆した。強固なフレームと装甲は爆発を内部に閉じ込め、薄い上面装甲と下部から爆炎が噴き出した。
「今作戦のMVPは私で決まり」
「MVPには帰ったら私からの説教」
「えー」
ディオは唇を尖らせて講義するが、エナは聞く耳を持たない。結果を認めない訳では無いが、命令無視という過程を度外視する行為を許容してはならない。
「大型機動兵器の排除を確認」
目標の排除を観測衛星から確認したのだろう。クリスから衛星通信が入ってきた。
「実験部隊アルケミストを予備戦力として残せました。流石ですね」
「ありがとうございます!」
「実験部隊アバランチ、作戦終了。お疲れ様です。迎えの輸送ヘリが向かっています。合流予定地の座標を送りますので、移動してください」
「はいっ。了解しました!」
「ちっ⋯⋯」
クリスからの通信で声色の変える長女を見て、次女は舌打ちを零した。
ディオ・キース → エナ・キース → クリス・ブラウン
エネア「テセラ姉。この落書きと矢印は何?」
テセラ「見てて悲しい不毛な矢印」
トリア「⋯⋯ディオ姉に見られる前に消しなよ?」
アルビオン・バイオニクス
実験部隊 アバランチ
配属機体 試作量産型MⅢリンクス
ホムンクルスのみの試験運用部隊
所属ホムンクルス
1番機: エナ
2番機: ディオ
3番機: トリア
4番機: テセラ
5番機: ペンデ
6番機: エクシ
7番機: エフタ
8番機: オクト
9番機: エネア




