section.53_ギガントマキア2
時間は少し遡る。
「ハウンズリーダーよりハンドラー1、ドーベル1へ。生きてるかい?」
「ハンドラー1です⋯⋯機体は健在ですが、衝撃にやられましたかね⋯⋯。私が無理です」
「ドーベル1。自分は問題ない⋯⋯が、MⅢのホバーエンジンが止まっている。機体が無理だ」
「ハウンズリーダー了解。2人とも下がるといい。喜べ。1抜け組だよ。だがウィペット隊。君達は地上部隊と合流だ」
「ウィペット1。了解。ウィペット2、ウィペット3。行くぞ。地上で戦車隊を援護する」
ハロルドは指示を終えると通信を切った。
城壁上の部隊でメイアの小隊だけ健在なのだ。当然といえば当然の指示だ。
「ウィペット2。了解しました⋯⋯マジですか」
「ウィペット3。了解です!私は死なない!私は最強!死なない!!」
予想よりも動揺している部下に眉根を寄せるが贅沢は言えなかった。代わりにジャックかレヴィナスを引っ張って行くわけにもいかない。
「⋯⋯いつも通りやれ。私達がやる事は変わらない。足を止めるなよ」
ウィペット隊のMⅢクーガー3機が内側の第五層から助走をつけ、内側からも10mはある城壁を飛び越え地上へと降りていく。
ジャックは彼らを見送ると、周辺状況を確認した。
大型機動兵器からの照準レーダーのアラートが止まっている。
おそらく、ハロルドが動いたためか。
敵の注意が地上のMⅢ部隊に向いているのだろう。
食料プラントの戦闘で敵も実感しているだろうが、ハロルドの突破力は無視できるものではない。
横を見ると、少年のMⅢが膝を付いて止まっていた。
最も着弾点に近かったはずだが、目に見えての破損は追加装甲の盾が吹き飛んでいる程度だ。衝撃でシステムダウンしているが、サーモグラフィの情報通りであればエンジンは生きているようだ。
「全く⋯⋯ひどい目に遭いました⋯⋯衛生兵も見当たりませんし。ローレンス少尉、仕方ないので脱出装置を使って下がりましょう」
「⋯⋯ストロース中尉。相談がある」
まだ配属年数の若い隊員の要望に、レヴィナスは首を傾げた。
「機体を借りられるだろうか?俺のMⅢレックスはバッテリーが切れれば止まってしまう」
「⋯⋯構いませんが、貴方の方が爆心地に近かったのですよ?」
「こういう時だけ、半身が義体であることを便利だと感じる。何ともない」
ジャックの身体は左手左脚が機械義手だ。
機械義肢の重さで身体の左側に重心が偏ってしまうため、背骨の負荷を下げるインプラントも入っている。衝撃の他、ギックリ腰などには無縁な身体となっていた。
「⋯⋯貴方、早死にしそうですね」
「残念ながら、下の奴らより長生きしてしまった」
周囲には爆風で吹き飛ばされ、折り重なるように横倒しになったドーベル2とドーベル3のMⅢレックスが転がっていた。コクピットブロックが大きく歪んでおり生きているか怪しかった。
「分かりました。私がそちらに行きます。私は寂しく徒歩で戻るとしましょう」
「助かる」
ため息混じりだったがレヴィナスの許可が降りた。もう間もなく彼女はこちらに機体を持ってきてくれるだろう。
ジャックは自身のMⅢレックスに最期の仕事をさせる事にした。ホバーエンジンの浮力が切れた重い体を酷使させて青いMⅢの前に移動させる。
レールガンを格納する武装ユニットとなっているため、MⅢレックスの上半身は金属密度が高い。良い盾となるだろう。
バッテリーはギリギリ持ってくれた。アナログ操作でハッチを開く必要は無さそうだ。
ジャックは機体から降りると、少年の機体⋯⋯MⅢアルテミスを見上げる。ホバーエンジンの排気だけではない。機体から熱気が漏れているのか、青い機体の周辺は異様に空気が暑かった。
迂回するように大回りでMⅢアルテミスの後ろに回る。ちょうど、重厚なMⅢの足音が耳に届いてきた。
レヴィナスの機体はジャックのMⅢレックスと違い、上半身のレールガンをドローンコンテナに切り替えている。そのため、普段はミサイルコンテナを背負っているだが、今日はウェポンラックにレールガンを背負っていた。
「⋯⋯貴方は何をしているんです?」
MⅢアルテミスの盾にするように機体を置いてある状況を見て、レヴィナスのMⅢレックスは訝しげにジャックを見下ろした。
「このMⅢはまだ生きている」
「そういう事でしたか⋯⋯気が変わりました。そこをどきなさい。後ろにこの機体を着けて足場にしましょう。手伝います」
機体を駐機させたレヴィナスがコクピットハッチから顔を出した。サバイバルキットの痛み止めを打つとジャック達に目を向けた。
このアッシュゴールドの美女は年齢不詳だが、前線に立っている年数はジャックより倍以上に長いと聞いている。
「どうするつもりでした?」
「パイロットの状態を確認する。起こして機体を再起動させたい」
「では、緊急レバーでコクピットを開けましょう」
コクピットハッチの緊急レバーはMⅢのコクピットブロックの下面にあるのが一般的だという。彼女の言う通り金属カバーがあった。
技術士官でもないのに、整備関連の知識があるのは流石歴戦の傭兵とでも言うべきか。
サバイバルキットにあった手斧と左手の機械義手の馬力でカバーを抉じ開け、レバーを引くと圧縮空気の抜ける音が聞こえた。
「開かないな」
「アルビオン製の場合、あとは人力です」
再び手斧を酷使してコクピットハッチを開き、操縦席を後方に引き出せた。出てきたパイロットは力なく手足をうなだらせている。
アンナの弟だ。
「⋯⋯」
「この機体、やたら暑いですね⋯⋯。意識は無さそうなので、気付け薬を試しましょう」
「臭いやつか」
「ええ。臭いやつです」
サバイバルキットから取り出した小瓶を見てジャックは顔をしかめる。あれは人間が嗅いでいい臭いとは思えない臭いがするのだ。
そんなものをレヴィナスは躊躇いなく少年の鼻の前に持っていき、蓋を開ける。
「⋯⋯うっ、げぇ!何!?何ですか!?」
効果は覿面で少年が目を覚まして咳き込む。
哀れむ反面、少年が生きていたことにジャックは内心安堵した。
「お仕事中にオネンネとは言いご身分ですね?」
「⋯⋯中尉」
「貴女は⋯⋯たしか、ストロース中尉。と、ローレンス少尉⋯⋯」
朦朧としていた少年だが、はっとすると座席のベルトを外して熱気を放つコクピットブロックに潜り込んだ。
システムを再起動させたのか、青いMⅢの各種センサーが光を取り戻した。
「状況は!?」
再び少年、ニコルがコクピットから顔を出す
「私達もそれは知りたい所です。その機体の通信機は生きてますか?」
「⋯⋯故障しています」
「では、私のMⅢレックスと繋ぎましょう。アルメニア製ですので、電子機器、通信機器の性能は折り紙付きですよ?」
「いいのですか?」
「やられたままは性に合いません。ローレンス少尉。力仕事を頼みますよ」
「了解した」
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「MⅢアルテミスの識別信号確認!」
アリスの報告に管制室の面々が安堵の息を零す。ひとまず、衛生軌道上の実験部隊が暴走することは防げそうだ。
「私も暇じゃないんですよ!?ニコル君が無事だから許すけど」
「そもそも、彼を餌代わりに管理してきたツケですよね⋯⋯」
報告を聞いたクリスはセラに情報を共有すると、怨み節を返された。共有をしたらしたで、情報を止めていた事へのクレームだったりトリアが泣き出したりと散々な状況となっている。
仲間意識が強く、戦闘能力も高かろうと精神面の幼さが目立つ彼女らの管理はキース博士と相談が必要そうだ。
間もなくして、MⅢアルテミスのパイロットとも通信が復旧した。
「ローレンス少尉!繋がりま⋯⋯」
「状況を教えて下さい」
「それはこちらのセリフです」
ニコルの側の映像を見る限り、コクピットブロックが開いているようだった。後ろにはアッシュゴールドの女性軍人が映り込み、声も入ってきている。
「⋯⋯被弾しました。現地のMⅢと接続して通信を繋いでいます」
「細かい事は後回しにしてほしい。MⅢ部隊が時間を稼いでいる間に2機の大型機動兵器の対処をしなければならない」
アイアス都市軍の中佐⋯⋯バルドゥルとも通信を繋いでいるようだ。現場の状況については彼から聞いているのかもしれない。
「⋯⋯戦況は聞いていますね?」
「はい」
「実験部隊は暴走せずに済んでいます。作戦投入可能です」
「では、予定通りやりましょう。補給路の中継点を叩いて下さい」
ニコルの言葉に、アリスは怪訝な顔をする。
「⋯⋯大型機動兵器を叩くことも可能ですが」
アリスの案は最もだ。
ラルス達と実験部隊アバランチのホムンクルス達を使えば容易に大型機動兵器を叩くことができる準備がある。
「それをしてしまうと、相手の不明戦力が残ったままこちらの手札を使い切ってしまう。アイアスとしては手札を使い切るなら相手の伏せ札も全て晒してしまいたい」
「⋯⋯そういう事ですか」
カルコサ都市軍が複数の大型機動兵器を出して来たのは、こちらに大型機動兵器があることを知っていたからだ。都市外活動専任特殊部隊という強力な強襲部隊の存在も。
裏ルートで行った仕込みに関しては、この戦闘で役に立つものではない。
「カルコサの都市軍は侵攻時に2度、師団から隊を分けている。2度目に分かれた隊の規模が大きい。我々としては、何かあるならこちらと踏んでいる。叩けば相手も無視はできないだろう」
「何もなければ容易く制圧。何かあっても札は破れて陽動となりますか。先方はこちらでという訳ですね。戦利品はいただきます」
「構わないとも」
MⅢアルテミスの破損といい、あまりに貧乏くじだ。
アリスはため息を零した。




