section.52_ギガントマキア1
「映像、通信網の復旧急げ!観測機の出し惜しみはなしだ!予備の衛星アンテナでも良い!」
城塞都市アイアスの管制室のある第三層まで届く衝撃と共に、観測ドローンが全てロスト。
衛星通信も途切れて、城壁前の状態が確認できなくなった。
「衛星通信復旧!観測衛生の映像でます!」
「⋯⋯ちらウィペット1。砲撃を受け⋯⋯」
通信が復旧すると共に、緊急回線から通信が繋がった。
「タワーリーダーよりウィペット1へ!状況報告!」
「ウィペット1コピー。城壁上MⅢ部隊が砲撃を受けた。被害不明。映像データを送る」
返答のタイミングと合わせるように、管制室の画面に観測衛生の映像が戻った。城壁上から煙が上がっている。
まだ、新しいアンテナが健在のMⅢの識別信号を拾う。だが、信号があるのは半数程だった。小隊規模で全機健在なのはウィペット隊のみだ。
メイアからMⅢの記録映像が送られて来た。
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甲高い風切り音が耳に入った。
「全機後退!城壁後ろに飛び降りろ!!」
「何を⋯⋯」
「口よりも機体を動かせ!!」
メイアは叫んだタイミングですでに機体を後方に跳躍させていた。
ウィペット隊のメンバーは彼女に忠実に、というよりも言葉に対して反射で動いたようなわずかな差で後方に跳んでいた。
メイアのMⅢクーガーのカメラが上に向くと、まさに砲弾が城壁上に落ちて来る所だった。
城壁の上で巨大な爆炎が舞い上がった。
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「MⅢアルテミス信号途絶!」
アルビオン・バイオニクス都市外施設の管制室に動揺が広がる。報告を上げたアリスは唇を引き締めて分析に集中する。
「どういうーっ」
アリスとクリスの厚意で管制室に入室させてもらっていたラピスが声を上げそうになったため、同じく入室していたアンナが口を抑えた。
横目で見ていたアリスが小さく会釈する。
「軌道エレベーターの衛星砲は大型の飛行物体を観測していません!検知未満の規模の飛行物体⋯⋯超長距離砲、大口径のレールガンと想定」
「ちょっと!?今の情報ってほんー!?」
割り込んできた通信をアリスは問答無用で叩き切った。
「セラ・キースに繋いで!ホムンクルス部隊に勝手をさせるな!後続の作戦に影響が出る!」
「はいはーい。何かあった?」
クリスがセラのモバイル端末に繋ぐと、研究室にいるセラの場違いで緊張感のない声が聞こえてきた。
「すみませんセラさん。ちょっと実験部隊アバランチの相手をお願いします。引き止めて下さい」
「どういうこと!?」
「データと通信コードを送ります。すみませんがお願いしますね」
「ちょっ⋯⋯」
ホムンクルスの相手を、次女のホムンクルスに押し付ける。間が抜けているように見えるが、開発者のセシリア・キースを入れても彼女達にとって上から3番目の立ち位置だ。彼女達の中で発言権は強い。
問題は実験部隊アバランチと共にいるシーラ・キースだが、そこはラルスにどうにかしてもらう他ない。
「城塞都市アイアス北北西250km!大型機動兵器を確認!機種特定!フェデラル・エンジニアリングのブリッツァー!光学迷彩を使用していたようです!」
観測衛生に巨大なカブトガニのようなシルエットが映っていた。尻尾のように見えるのは尾ではなく巨大なレールガンの砲身だ。重要な電磁加速器を保護するため砲身を後方に伸ばした特殊な形状をしている。
「通信復旧次第、城塞都市アイアスに共有」
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「異なる企業連合製の大型機動兵器の連携⋯⋯」
アルビオン・バイオニクスより機種と座標が共有されたが⋯⋯遠すぎる。
MⅢの最高速で理論上1時間ほどだが戦闘速でひたすら走っては流石に燃料が持たない。
「城壁上はひどい状況だ。防衛隊のMⅢ部隊は全滅だ」
重量級MⅢが一部生き残っているが、パイロットが失神していたり、衝撃でシステムダウンしているようだ。回避できなかった軽装のMⅢは、良くて関節が潰れた中破の状況だ。
「あれに反応、耐えた都市外活動専任特殊部隊は流石だな⋯⋯。企業連合にそちらのMⅢも一応健在だと伝えてやれ」
「タワーリーダー了解」
城壁上にいたトーマスのMⅢはフェデラル・エンジニアリングのMⅢバイソンは動く城壁のような重装甲の機体だ。あの爆炎と衝撃の中でも健在だったのは幸運なのか機体の性能か。
「敵の第二射は?」
「確認できていません。ですが北方城壁の対空レーザー、レールガン共に沈黙」
そして何よりの問題は、城壁の対空設備の破損だった。最上階の第五層は開戦前に避難が完了しているが、今、地対地ミサイルの飽和攻撃を受けてはひとたまりもない。
「北方城壁の隔壁が開いています!」
「なんだと!?誰の指示だ!?」
「ハロルド・キース中佐のコードです!!」
こんな時に勝手に動かないでくれ。バルドゥルはハロルドのMⅢに通信を繋ぐ。
「ハロルド!!何をしている!今は部隊の立て直しが優先だ!」
「君はそうすればいい。だけど、このままだと地上の戦車隊も全滅するよ?」
「分かっている!!」
だから対応策を取らねばならない。だが、むやみに出撃しても砲撃に食われかねない。
「俺が時間稼ぎをしてやると言ってるんだよ。貸し1つだ」
「お前⋯⋯」
戦闘狂ゆえに現状に恐怖心がないのか。
人として壊れているのか。
「あと、アルビオンからのデータをよく確認するように」
「何だと?」
アルビオン・バイオニクスからのデータを再確認する。超長距離射撃を行ってきた大型機動兵器の衛星写真データと座標データだ。見直すと、テキストデータも入っていた。
"大型機動兵器ブリッツァー
フェデラル・エンジニアリング製
原子炉搭載自走型超長距離大口径レールガン
発射する砲弾のもともとの質量の問題で、発射後にはおおよそ20分の砲身冷却が必要。
また、機体内で砲弾を組み立てる機構が確認されており、冷却中に組み上げていると思われる。構造上の欠点として⋯⋯"
「⋯⋯だから急いで出撃しようとしているわけか」
ハロルドは戦闘狂ゆえにこの状況でも冷静だったらしい。
「ハウンズリーダーより全機へ。都市外活動専任特殊部隊、出撃。戦車隊を援護する。隔壁から出たら3小隊ごとに散開。武器使用は自由だ。カーシュとクレアは小隊員と共に俺について来るように」
「あはは。死なないように頑張るしかないな」
「り、了解しました」
ハロルドに指名されカーシュは苦笑いを零し、クレアは顔を強張らせる。
「何。婚約者を死なせるようなヘマはしないよ」
「キース中佐!!」
ハロルドの発言にクレアは顔を真っ赤にし、隊員からは別の動揺が広がった。
「え、あれマジだったの?」
「ぐっ⋯⋯」
緊張どころではなくなったものの、羞恥で口の端を歪ませることになる。
「いつもとやることは変わらない。むしろ味方もいる。時間稼ぎとは言わず殲滅戦といこう」
MⅢ27機が3小隊ずつに別れ、解放されたゲートを速度を落とさずに飛び出していった。
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「ねえ。私達は?」
「私達は出撃しないの?」
「⋯⋯命令は出ていない」
不満そうな双子を、セレスも歯噛みしつつ制止する。
機体もホバーエンジンはまだ稼働させていない。勝手に出撃させないための処置だ。航空機と同じで外部電力で起動しない限り勝手には出撃できない。
「セレスちゃんはニコル君がやられて悔しくないの?」
「やり返しちゃおうよ。私達で」
戦場の雰囲気にあてられて、双子は好戦的になっているようだ。姉としてセレスまで流されるわけにはいかないが、同じ世代のホムンクルスだけあり、同個体のセレスを煽るのは上手い。
大型機動兵器で飛び出し、叩き潰してしまいたい。怒りを吐き出したい。そう、一番に思っているのはセレス自身だった。
「こちらバルドゥル・ブリュール中佐だ。セレス・キース。応答願う」
「セレスだ。⋯⋯出撃指示か?」
少しの期待と、その場しのぎな出撃でないかの不安を胸にセレスは返答した。
「⋯⋯確認したいことがある。返答によっては出撃を願うかもしれない」
「遠回しな物言いは嫌いだ。率直に言え」
期待外れといえば期待外れだが、アイアス都市軍はまだ冷静な様子だ。
「⋯⋯分かった。大型機動兵器で大型機動兵器を破壊できるか?」
甘美な問いだった。できると言えば、出撃できるのだろう。単体であれば、あの大型機動兵器など相手にならない。
そもそも大型機動兵器は対大型機動兵器を目的とした機体だ。
だが、1つ大きな問題がある。大型機動兵器の存在だ。
「⋯⋯単機相手なら可能だ」
大型機動兵器ブリッツァーとレーダー車両が相手なら、レーダー車両部隊をすり潰しつつ突貫すれば片が付くものの、観測を行っているのも大型機動兵器のビーハイヴだ。
「大型機動兵器ビーハイヴを黙らせれば可能と⋯⋯」
大型機動兵器フリューゲルは最高速度は速いものの、瞬発力はなく、的も大きい。レールガンで観測射撃されては避けようがない。
単機での戦闘能力が低かろうと大型機動兵器は大型機動兵器だ。大型機動兵器ビーハイヴの装甲も並大抵のものではないだろう。
MⅢアルテミスのレーザー兵器も装甲を撫でる程度であれば耐えて見せていた。
「⋯⋯参考になった。ならば総力⋯⋯」
「⋯⋯僕の仕事、ですね⋯⋯」
別の通信が割り込んできた。




