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「いよいよ地対地ミサイルの射程圏内に入ったか」
「まだ何とかなってるけどね」
城塞都市内で定期的に空襲警報が鳴り響くようになった。メディアや一部の政治家、活動家から批判が飛んでくるものの、今のところ都市内に着弾はしていない。
現状、城壁上部に備え付けられた対空迎撃レーザーで対処ができていた。
だが、地対地ミサイルの射程圏内に入ったということは、侵攻部隊と城塞都市との距離が300kmを切ったということでもある。
「防衛部隊のMⅢも24時間の警戒態勢に入るべきだな。対空レールガンも稼働させる」
「都市外活動専任特殊部隊としては、まだ威力偵察は継続できる距離だけど⋯⋯」
「そろそろ地雷を撒くとこちらが困る距離だ。地上センサー含め、物をばら撒くだけならドローンでもできる。それに、隊員を休ませる必要があるだろう」
「まあ、それもそうか」
アレクの将官室に、ハロルド、バルドゥル、そして今回初めて見る隊長らしき熊のような大男と並んで、ニコルとセレスも顔を並べていた。
バルドゥルによると、アレク・アーノルド少将は元々、都市外の任務にあたるMⅢ部隊の隊長だったこともあり、MⅢ部隊の指揮官を集めては話をしているらしい。
歩兵や機械歩兵部隊、技術士官達でも似たことをしているのかと聞くとバルドゥルは目と話題を逸らした。
アレク・アーノルド少将の気質のようだ。その分根回しが早く進み、公式の会議が報告のみで早く終わるのはメリットらしい。
「で、その小さい2人が例の奴か?」
「⋯⋯クラーク大佐。非公式の場とはいえ、協力関係にある相手なんですよ」
「ああ、いや、すまんな」
バルドゥルに釘を差された熊男はポリポリと頭を掻いて、ニコルとセレスを見下ろした。
「トーマス・クラーク大佐だ。城塞都市の防衛隊のMⅢ部隊隊長を務めている」
「アルビオン・バイオニクス実験部隊のニコル・オレームです。隊長不在のため隊長代行となります」
「セレス・キース。同部隊所属のMⅢパイロットだ」
ニコルとセレスの名を聞いたトーマスはハロルドとバルドゥルと少年少女を見比べた。
「私の副官の弟で間違いありません。父方の姓のようです」
「あー⋯⋯一応、妹かな。一応ね。正直なところ、普通の人間と一緒にされると困るんだよね」
「なるほど」
事前にある程度の紹介はされていたらしい。
「君達も実際に相手と当たってみたんだろう。意見はあるかい?」
アーノルド少将が各隊長に代わり問いを投げてきた。相手はMⅢ部隊の現場のトップと言える人物だ。どう答えるべきか。
セレスに目を向けると、自分が答えると率先して口を開いてくれた。
「全体の作戦は手順通りだが、おそらく相手も同じだ」
「⋯⋯分かってはいたが、ハロルドと同じで子供と侮っていたら刺されるな」
幼すぎる兵士の言葉に、アレクは楽しそうに笑うが状況としては笑えるような状況ではない。
「相手はあえて真正面から来ている。勝てると思われている訳だ。おそらく、前線が伸び切った際に補給路を潰されるのも想定されている。そこが問題だ」
「それを確認するための威力偵察は今のところ嫌がらせ程度の成果しか上げられていない」
バルドゥルが目を閉じて天を仰ぐ。
耳が痛そうだった。
「何かあるのが分かっているなら、ナパームでもサーモバリックでも使って光学迷彩の電子塗装を燃やし尽くすべきだ」
「過激だな⋯⋯大きな問題は、それで手札を晒させた場合、相手が即座に切り札を切ってくる可能性だ。あと、ウチの領土が汚染されるのも問題だ⋯⋯」
「アンナ君の弟君。君はどう思っている?」
セレスが答えて終わりかと思ったら、自分に振られてしまった。
この少将は姉とも面識があるらしい。アーノルドという姓を考えると、アンナと友人と言っていたクレアからの繋がりなのだろう。
世間は狭い。
「中佐殿の意見は最もです。また、セレスさんの意見にも一理あります」
「ふむ。それで?」
「だからこそ、相手と城壁前でぶつかるのを待っているのでは?⋯⋯城壁上からのMⅢアルテミスのレーザー兵器の射程圏内。または、大型機動兵器フリューゲルやMⅢ大隊の即応圏内。城壁近辺なら資源施設もなく、兵器や車両破壊による土壌汚染も考慮の必要がない。大火力を使っても城壁で都市内には被害は出ないです」
前線は城壁から20km以内の距離になるだろうか。
「⋯⋯そうだ。正直なところ、企業の新兵器をアテにしたくはなかったが⋯⋯君の機体が広範囲を燃焼させる火力があることは把握している。攻撃後の君に攻撃が集中することを考えると、威力偵察では使えない。援護と救援を考えるなら、本隊同士がぶつかるタイミングしかない」
「手遅れにならないか?」
セレスが首を傾げるが、ニコルは頭を振った。
「現代では、国を一撃で滅ぼせる兵器は使い物になりません」
レーザー兵器による誘導兵器への対策と、軌道エレベーターの防衛設備⋯⋯衛星砲によって、長距離から一撃で国を滅ぼすようなミサイルと大型の航空機は産業廃棄物に成り果ててしまっている。
自爆覚悟で相手領地に持ち込んで起爆しても、風によって汚染が広がるため、隣国の都市国家同士の戦争で使うと共倒れになりかねない。
また、他の近隣都市国家どころか、ギルド、企業連合全てを敵に回すことにもなる。
何より、カルコサの求めている商材は人間だ。
「相手がテロリストか、それに類する組織なら使うかもしれませんが」
「まぁ、どの部隊も意見はおおよそ同じという訳だよね。方針は確定じゃないか?」
ハロルドが口を挟んだ。
「一応の手順を決めてしまおう。結局戦場は臨機応変にしてもね」
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セラ「シーラ姉、そっちどう?」
シーラ「ふわふわしてて慣れない」
セラのノートPCを覗き込むとシーラとラルスが映っている。映っているのはいいのだが、画面の中で2人がふわふわと浮いているのがラピスにとっては奇妙な光景だった。
「ラルスさんとシーラさんは何処にいるの?」
ラルス「軌道エレベーターの上だな」
セラ「ラルスさん。それだけじゃラピスちゃんには説明にならない」
ラルス「ん?ああ、そうか」
ラピスの理解が追い付いていないことを指摘され、ラルスは顎に手を当てる。
ラルス「ラピスちゃん、空見たときに黒い線みたいなの見たことあるか?」
「⋯⋯あ、晴れた時にたまに見える!」
ラルス「俺とシーラがいるのはそこの中だ」
軌道エレベーターは大気圏外に繋がっているだけでなく、衛星軌道上で他の軌道エレベーターと繋がっている。それが空に見える黒い線の正体だ。
途方もない大きさの建造物の話に想像力が着いてこなかった。
「これは⋯⋯仕事なの?」
「仕事ですよ。一応」
そんな宇宙からの写真や話にラピスが夢中になっているのをアンナは眺めていた。
アンナの問いにセラが答える。
「人が生存できない環境にある閉鎖空間では、ストレスが想像以上に溜まりやすいので、企業連合とギルドでは軌道エレベーター内に長期間滞在する場合は定期的なカウンセリングが義務付けられています」
「⋯⋯この世間話がカウンセリングというわけね」
「ようは家族間とのコミュニケーションでの気晴らしなので、一緒にビデオゲームとかでもいいんですよ。同じく軌道エレベーター上に上がってる実験部隊アバランチの娘達はクリスさんとアリスさんと全員でオンラインゲームやってますよ。聞いてみます?」
アンナはセラに勧めらるまま、他のメンバーが行っているというビデオ通話のルームにモバイル端末で入ってみた。
トリア「エナちゃん助けて!!クリスが粘着してくる!!」
エナ「私はもう死んでいる」
トリア「役立たず!ディオちゃん!!」
ディオ「私の安全のために散って」
テセラ「人でなし過ぎて草」
ペンデ「死人組は観戦が捗る。これは全滅かな?」
ルージュ「救助にき⋯⋯」
エクシ「ルージュちゃん後ろ!!」
ルージュ「⋯⋯言うの遅いよ」
エフタ「アリスちゃんはゲームだと気配が無さすぎる⋯⋯」
オクト「後何人だっけ?」
エネア「トリアも狩られた。あとはディオとエフタだけだね」
オクト「これは終わったね。こっちは音声チャットありのハンデ付きなのに弱すぎる」
トリア「あんた達、真っ先にやられた癖に!!」
阿鼻叫喚気味に殺人鬼と逃走者に別れて鬼ごっこをするゲームをプレイしていた。
画面には中々に見分けのつかない白髪の少女達が映っている。それぞれがローマ数字の髪留めを付けており、それが判断基準のようだ。ただ、1人だけ髪の赤い褐色肌の少女がいる。
エナ「誰かルームに入ってきたみたい」
トリア「え、誰⋯⋯あ、ニコル君?」
エナ「いや、オッパイがある」
トリア「本当だ⋯⋯女装?」
クリス「いえ、ニコルさんのお姉さんのアンナさんですよ」
「「「「「「「「「「ほう」」」」」」」」」」
10人全員がハモり、アンナは耳がおかしくなったかと思った。この少女達とも弟は面識があるようだ。自分が女性だからかなのか、知り合う弟の交友関係の男女比率がおかしい。
今のところ、ハロルド・キース以外のホムンクルスは女性しか見かけていないが、何か意図があっての事なのか。ハロルドが出奔していることに関係があるのかもしれない。
トリア「ニコルちゃんを私にください!!」
ルージュ「ニコル君、もう彼女いるよ?」
トリアの抜け駆けに他のメンバーがざわめくも、ルージュの一言で再び阿鼻叫喚気味になる。
エネア「み、皆のニコル君だったのに⋯⋯」
何やらセナとルナが大きくなったような、セラの学生時代はこうだったのだろうかと感じる少女達だ。
アリス「アリス・ルイーズです。アンナさん。彼女達の発言は女子学生の戯言と思っていただければ幸いです。ニコルさんをアイドル扱いしているだけです」
アンナ「そ、そう⋯⋯」
トリア「ところで、ニコル君の彼女って⋯⋯?」
ルージュ「お姉さんの後ろに映ってる青髪の娘」
トリア「これは⋯⋯推せる⋯⋯!!」
テセラ「それがカップリング萌えだよ姉さん」
エナ「妹が倒錯していて不安です。クリスさん」
キャイキャイと恋バナに花を咲かせる様子は確かに女子学生だ。
噂をすればと言うべきか、ビデオ通話のルームの中にニコルの名前が入ってきた。
ニコル「クリスさんアリスさ⋯⋯」
トリア「ニコルちゃんだ⋯⋯!」
テセラ「彼女できたってホント!?」
テセラの言葉にニコルは口の端を歪める。いつの間にやら自分のプライバシーが侵されていてはアンナも同じ顔をするだろう。
弟は何やら犯人探しでもするように、チャットのメンバーの名前を確認している。
アンナ「ルージュって赤髪の娘よ」
ニコル「⋯⋯そうですか」
アンナは自分に容疑がかかる前に犯人を売り飛ばした。弟は呆れた様子でため息をつく。
ニコル「アイアスの会議に参加しまして、仕事の話をしたいのですが⋯⋯。ラルスさんとシーラさんも入ってきます。⋯⋯なので、ラピスも今は控えてください」
アリス「では秘匿回線に切り替えましょう」
ニコルの言葉にアンナが振り返ると、後ろから青髪の少女がモバイル端末を覗き込んでいた。
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アリス「戦闘管制の共有は当然ですね。しかし、後手に回っている状況は良いとは言えません」
ラルス「まぁ、敵国を攻めるならともかく、自領地だと使う武器を選ぶのは仕方ない。他所でもそうだ」
エナ「私達やセレスの大型機動兵器は相手の切り札が判明するまで待機ってことだね。ただ⋯⋯」
クリス「しかし、初手でレーザー兵器を使うと⋯⋯下手をするとMⅢアルテミスに攻撃が集中しませんか?」
ニコル「だからこそ、僕の位置は最後方。対空レーザーと対空レールガンのある城壁の上です。ある意味1番安全です」
ラルス「⋯⋯まぁ、お前が良いなら良いけどよ。ヤバそうなら逃げろ。こっちも、戦況が不味くなったら作戦は無視する。作戦通りいかないことも珍しいことじゃない」
ニコル「⋯⋯わかりました」
実験部隊アバランチとの距離感
アンナ「あの女の子達とも知り合いなの⋯⋯?」
ニコル「え?いえ。アバランチはホムンクルスの試験運用部隊なので、僕は何回か挨拶をしたことがある程度です。目的が違う別動部隊ですし」
アリス「私が説明しましょう」
アンナ「ええっと、オペレーターの⋯⋯アリスさんね」
アリス「はい。アバランチの初期訓練はシーラさんが相手役。セラさんが彼女達の検診をしていました」
ニコル「⋯⋯なんとなく分かりました」
アリス「はい。シーラさんが自分の子どものように⋯⋯セラさんが自分の弟のようにニコルさんを自慢し続けた結果ですね。写真も配っていたようです」
アンナ「アイドル扱いってそういう⋯⋯」
ニコル「⋯⋯というより、甥っ子扱いでは」




