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section.48_合流

「車ごと吹き飛ばされたくない奴は道を空けろ!」


城塞都市アイアスの第一層では都市軍の技術士官達が叫ぶように声を張り上げていた。


大型機動兵器フリューゲルの受け入れのために交通規制をかけたものの、物見遊山に顔を出すのは市民だけとも限らないようだ。


非番の兵士に、反戦活動家、迂闊なマニアや写真家などなど⋯⋯規格外の出力を持つホバーエンジンのダウンウォッシュで身動きが取れなくなっている者が散見していた。


群衆雪崩が起きていないのが不幸中の幸いか。


排熱で命の危険のある者を優先し、四足タイプの無人兵器が突風による遭難者を屋内であるはずの第一層で引きずっていた。


これでも大型機動兵器(フリューゲル)のホバーエンジンは出力を抑えている方だ。


「⋯⋯馬鹿なんでしょうか」


「戦火に見舞われない市民とはこういうものだ」


MⅢアルテミスのコクピットで独りごちたニコルの言葉に返事が返ってきた。聞き覚えのある声だ。


アルビオン・バイオニクスの輸送隊の通信回線に新たな人物が追加されている。


見れば、ニコルの機体の前にMⅢレックスがノシノシと歩いてきた。大型機動兵器(フリューゲル)のホバーエンジンの突風で飛ばされぬよう、MⅢのホバーエンジンを下げて歩かせているようだ。


「ジャック・ローレンス少尉だ。都市軍の駐屯地まで車両とMⅢを先導する。大型機動兵器(デカブツ)以外は着いてこい」


「了解しました。では、セレスさん。後ほど」


「分かった」


大型機動兵器(フリューゲル)を操っているのはセレスだった。彼女と1台の大型輸送車両を残し、ニコル達は先導に続いていった。


残った1台の大型輸送車両は、大型機動兵器(フリューゲル)専用の輸送・整備装備を施した専用車だ。近くにいないと意味がない。


セレスと別れ、MⅢアルテミスに随伴するMⅢ2機と、装甲車、燃料車、大型輸送車両、電源車等の支援車両が続いて離れていった。


「第三層まで上がる。そろそろホバーエンジンの出力を上げてもいいだろう」


蜘蛛の目のように走る幹線道路の中で螺旋状に上層に続いている道路を進み、第二層は素通りして第三層まで上がった。


角層ごとに天井の高さも異なるようだ。第1層は30mはあったが、第二層は10m程度しかなく、第三層は20mほどだろうか。幹線道路の支柱と、天井に突き刺さる一部の高層ビルが階層構造の支柱となっているようだ


人口収容の効率化だけ考えられた新興の城塞都市は作りそのものが迷宮のようだった。


「気になるのか?」


「⋯⋯すみません。余所見でしたね」


「いや、お前の姉が住んでいる都市だ。気になるだろう。

第一層は物流区画とビジネス区画だ。

第二層、第四層は居住区画と商業区画が主だ。

最上の第五層は食料資源施設に駐屯地、ビジネス区画、商業区画と雑多だ。

最重要施設は第三層と地下階層だな。軍部や政治、発電所などインフラに関わる施設が詰まっている」


あの時の姉に対する助言といい、ジャックという男は意外と世話焼きなようだ。


「貴方は面倒見が良いのですね」


「⋯⋯いや⋯⋯まあ、そうなのかもしれないな」


何やら歯切れが悪くなったが、自覚はなかったのだろうか。


大型輸送車両(フリューゲル)と別れ車両も時速80kmを出せるようになると、アイアス都市軍の格納庫までそれほどかからなかった。


MⅢアルテミスと、共に都市国家アイアスにやってきたMⅢファングを並べてハンガーに固定して、ようやく機体から降りることができた。


MⅢファングはラルスの扱うMⅢオルトロスの量産型機体だ。


高速戦闘機に手足が生えたような形状は踏襲しているものの、追加のホバーエンジンが肩ではなく腰の後ろ側のスカートのような外装に搭載され、重心が低くなるよう再設計された機体だ。


「到着!着替えに行くよ!」


「了解!」


「着替えたらまた機体の前に戻ってきてくださいね」


「「了解ー!」」


搭乗していたのはセナとルナだ。機体から降りると足早に大型輸送車両へ私物を取りに向かっていった。長距離行軍も2度目となると慣れてきたようだ。


「君がニコライ・クライヴか」


「はい」


まだ慣れない名を呼ばれ、ニコルは振り返った。眉間にシワを寄せた、アッシュブロンドの髪をオールバックにしている軍人が歩み寄ってくる所だった。


「バルドゥル・ブリュール中佐だ。到着した実験部隊の戦闘指揮においては君が代表だと伺っている。よろしく頼む」


「アルビオン・バイオニクス実験部隊アルケミスト所属のニコル・オレームです。隊長のラルス・エムロード不在のため隊長代行となります。アイアスの書類上はニコライ・クライヴで相違無いですが、前者の名で呼んでいただけると」


「了解した。オレーム君」


眉間のシワは不機嫌という訳ではなく、シワになってしまっているようで苦労人な印象を受けた。挨拶を終えたバルドゥルはまじまじとニコルを観察している。


「なんでしょうか」


「いや、16と聞いていたが⋯⋯間違いないか?」


「はい。まぁ、もと孤児ですので栄養の問題ですね」


「⋯⋯失礼した。しかし、こうして見るとクライヴ少尉とよく似ている。髪を切ったのかと見間違う者もいそうだ」


そういえば、アンナと並んでセシリアにイビられていた軍人だと思い出す。姉の上官のようだ。


「「戻りましたー!」」


「⋯⋯なぜ私服なんですか?」


「今日は機体整備しないでしょ?」


「一応、地味なのにしたよ?」


話していると白髪の双子が駆け足で戻ってきた。揃いの黒いワンピース姿で現れたため、ニコルは頭を抱える。


この場に見合わない双子の少女に、アイアスの技術士官達から好奇の目が向けられている。


双子を見たバルドゥルがあからさまに眉間にしわを寄せた。


「その娘(こ)達は⋯⋯?」


「僕と同じ実験部隊所属のセナ・キースとルナ・キースです。今回はそこのMⅢファング2機のパイロットを務めます」


「キース⋯⋯ということはアルビオンの人造人間(ホムンクルス)というやつか。腕前は安心できそうだ。よろしくお願いしよう」


「「よろしくお願いします」」


ニコルとしては理解が早くて助かるが、何かしら企業連合と関わりを持ったことがあるのだろうかと内心で首を傾げた。


バルドゥルがハロルド・キースとのやり取りで気を揉んでいるなど、ニコルに知る由はなかった。


「宿舎は用意しているので、後ほど案内させよう。まずは悪い知らせがある」


内容に関してはニコルにもおおよそ想像がつく。


「カルコサ都市軍の侵攻が開始された。師団規模と予想されている」


「思ったより遅かったですね」


「⋯⋯肝が据わっているな。アイアス都市軍としてはこれから迎撃だ」


淡々と返すニコルに、バルドゥルはため息をこぼした。なぜため息をつかれたのか。ニコルは怪訝な顔をする。


「⋯⋯城塞都市の城壁で迎え撃つと聞いてましたが」


「それはもちろんだが、損耗させるため遊撃部隊による砲撃とミサイル、対戦車地雷で波状攻撃と威力偵察を行う。正面から当たるわけではない。君達こそ、自分達の施設が心配ではないのか?」


「下手に戦線を増やすと消耗が大きいのは攻める側ですし、こっちに攻撃がくれば待機中の部隊が黙っていません」


大型機動兵器(フリューゲル)はアウトベースに移送したもの、城塞都市アイアスに待機させたものの他にもう一機移送前の機体がアルビオン・バイオニクスの都市外施設で待機している。


現状、都市間戦争の状態で略奪を警戒するギルドとキャラバン、企業連合に手を出すと戦争する相手が増えるだけだ。


都市国家アイアスも気を遣って、攻撃予定範囲をギルドとキャラバンには伝えていた。


無法な略奪者に容赦する人間はギルドにも企業連合にもいない。


「⋯⋯すまない、無駄な問答だった。可能であれば、遊撃部隊のローテーションに加わって欲しい。共同戦線をはるための慣らしだと思ってくれ」


「了解しました。必要な武装は借りれますか?その作戦への参加を想定した装備を持ち込んでいません」


「助かる。かまわないとも。ローレンス少尉。都市外活動専任特殊部隊(ハウンズ)のブリーフィングに彼等も連れて行ってくれ」


「了解しました」


話している間にやってきていた、都市外活動専任特殊部隊(ハウンズ)所属の左四肢が機械義手の軍人⋯⋯ジャックはバルドゥルに敬礼を返した。


「⋯⋯オレーム。参加は戦闘職の者のみでいいか」


「はい。問題ありません」


「なら、大型機動兵器(デカブツ)のパイロットの少女はクレアに連れてくるよう伝えておく。3人は着いてきてくれ」


「「はーい」」


「ありがとうございます」


ジャックは双子の奔放な態度を気にした様子もなく踵を返した。

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