section.43_引き渡し
「予定より早く到着したな」
当然かもしれないが、城塞都市近隣を彷徨く命知らずな野党などいるはずもなく、ネブロとの約束の時間よりも1時間早く予定座標に到着した。
受け渡しはアルビオン・バイオニクスのMⅢと、城塞都市アイアスの武装を同時にという希望だった。そのため、この座標に企業連合、都市軍、犯罪組織の三つ巴で顔を合わせることになる。
「アルファ2よりアルファ1へ。接近する車列を確認しました。識別信号も確認、企業のロゴもあります」
「あちらも早めに着きそうだな」
クレアのMⅢレプスも、ジャックのMⅢレックスも索敵には向かない機体のため、小隊員のMⅢクーガーにドローンポッドを搭載して索敵を行っている。
こうして自分達で索敵を行うと、軍事衛生からの情報を共有してくれるアンナ達情報部のありがたみを実感する。
「アイアス都市軍アーノルド少尉より輸送隊の運輸会社スレイプニルへ。荷降ろしの準備を始めておいて欲しい」
「こちらスレイプニル隊長のロイ・カーターだ。了解した。なら、悪いがMⅢを大型輸送車両から離すか、ホバーエンジンの出力を下げて欲しい。職員が吹き飛ばされちまう」
「ああ、そうだった。すまない」
警戒態勢を維持するため、流石にホバーエンジンの 出力は下げられない。車両から距離を取ることでキャラバンの要望に答えた。
MⅢはその設計上、歩兵との連携を考えられていない。戦闘出力の際、その足元には人が立ち上がれないダウンウォッシュの暴風が吹き荒れている。
ギルドの傭兵達やキャラバンからすると常識なのだろうが、MⅢ単独部隊での攻撃作戦が主体の都市外活動専任特殊部隊にとっては慣れない習慣だった。
「アルファ2より全機へ。企業連合の連中⋯⋯ずいぶんと物騒なもの引き連れてますよ。ドローン映像データを共有します」
「アルファ1了解した。⋯⋯これは⋯⋯」
隊員から、大型輸送車両が6台も並ぶ車列の映像が共有された。18機ものMⅢが護衛として随伴する中に、その倍の全高はあろうかという巨体が車列の殿を務めていた。
大型機動兵器だ。都市国家アイアスも所持していないわけではないが、表に出す機会はほとんどない。
大型機動兵器は武骨なものが多い印象だが、鋭利に尖った胸部や翼のような腕部は高機動型のMⅢを彷彿とさせるが、巨体はMⅢよりはるかに肉厚なフレームで構成されているため目の錯覚でしかない。
「車両が多いとはいえ⋯⋯」
過剰戦力ではと思ってしまう。
「こちらアルビオン・バイオニクス実験部隊アルケミスト所属のラルス・エムロードだ。応答求む」
聞き覚えのある声だった。
「こちらアイアス都市軍所属のクレア・アーノルド少尉です。聞こえています。ずいぶんと大所帯のようで⋯⋯」
「ああ、ハロルドと一緒にいた少尉さんか。他にも用事があってな⋯⋯まぁ、今日はよろしく頼む」
ドローンの映像越しに、白いMⅢが手を振ってきた。展示会で見たことがある。アルビオン・バイオニクスのコンセプトモデルとして発表されていた⋯⋯MⅢオルトロスだったか。それにあの眼帯の男が乗っているらしかった。
「⋯⋯今日は、ハルはいないの?」
こちらもまた、聞き覚えのある声だった。シーラという銀髪の女性の声だ。
「シーラさん。勝手に通信に入らないでください⋯⋯失礼しました」
最後の声はよく知らない。だが子供の声のように聞こえた。
「今回、当小隊にキース中佐はおられない。カルコサとの戦時下ゆえ、理由は差し控えさせてもらう」
「⋯⋯そっか」
「お気遣い感謝します」
通信越しに少年がため息をつく声が耳に入った。わりと苦労人気質なのかもしれない。
「そちらもよろしいですか?ハロルド・キースは不在だそうです」
「ちっ⋯⋯勘の良いガキだな。サプライズってもんを知らんらしい」
「え、MⅢの駆動音を確認!?数20⋯⋯」
「これだとウチが常識知らずみたいだな」
「こちとら大量の物資を長距離輸送しなきゃならねえんだ。当然の数だろうが」
どうやらネブロ本人も来ていたらしい。ハロルドの所在を気にしていたところを見ると、もしかしたら1番最初に到着していたのかもしれない。
「機影も確認できました。しかし、光学迷彩追加装甲とはテロリストとは思えない上等な装備ですね⋯⋯」
軍事作戦において、観測衛生やドローンによる敵地上部隊の索敵は常識となっている。そんな中、当然ながら対抗手段も開発されている。
その1つが光学迷彩追加装甲だ。有機ELを塗布した追加装甲で大地の映像を映すことでカモフラージュする。方法としては簡易的だが、比較的新しい部類の装備のため、クレアとしてもテロリストが装備しているのは見たことがない。
車両にも同様の装備や処理をしているのか、MⅢと共に何もない空間から現れたように見えた。
「訂正しとくと、略奪に密輸、奴隷売買も生業にしてる傭兵でね。テロリストとはちょっと違う。ギルドにも所属してる。少しばかり儲け過ぎて、懸賞金なんて付けられちまったがね」
彼等の扱うMⅢ部隊は異質だった。
機体のフレームが四肢と胴でバラバラなのだ。胴がMⅢクーガーだと思えば、腕部はMⅢレプスのものだったりする。継ぎ接ぎのMⅢだ。装甲が剥がれているものもいた。
互換性が無いわけではないが、機体のシステムやオートバランサーは統一されたフレームを想定して組まれている。きちんと動作するのだろうか。
ただ1機だけ、フェデラル・エンジニアリング純正品と思われる黒い四脚型MⅢがいた。
巨大な砲を背負った、上半身は人型、下半身は肉厚な四脚の重量級のMⅢだ。見慣れない機体な上に、データ照合での機種判別がされないという事は、おもてにすら出ていない企業連合の試作機なのかもしれない。
出どころは分からないが、おそらくネブロ本人のものか、エース用の機体なのだろう。
「さて、俺達はここでじっとしている。さっさと商品を置いてってくれ。こう見えて忙しいんだ」
ネブロは商談の時同様、音声のみでの接続だ。言葉通り、MⅢ部隊も姿を現したものの、近付いてくる様子はなかった。
彼等なりの気遣いなのだろう。犯罪組織に近寄られて身構えない者はいない。
「了解だ」
「こちらもだな。すまないが頼むよ」
「へいへい⋯⋯。事前に聞いてたとはいえ、マジでコイツラに渡すんですね」
ロイは渋々といった様子で作業を始めてくれた。大型輸送車両に同乗させていたフォークリフトでパレット5つ分の武装を少し離れた位置に並べていった。
対して、アルビオン・バイオニクスの方は大型輸送車両そのものを並べてゆく。ロイが並べたパレットの隣に停車させると、運転手が近くに停車した企業の装甲車へ乗り移っていた。
5台の大型輸送車両、5つの武装が並べられた。アルビオン・バイオニクスの装甲車とキャラバンのフォークリフトは車列へと戻っていった。
「よし。じゃあ検品させてもらうとしよう。行け」
ネブロの指示で、彼等の車列側から装甲車が1台近付いてきた。20分ほど間を置いてから返事が返ってきた。
「確かに⋯⋯だが、MⅢが1機多いようだが?」
「サービスだ。廃棄予定のジャンク品だけどな」
「全く。ウチは廃品業者じゃねえんだぞ。まぁ、貰えるもんは貰っとくが。約束では大型輸送車両も貰っていいんだったな?」
「あんたらから回収する方が金がかかる」
「違いない」
ラルスとネブロのやり取りの後、アルビオン・バイオニクスの車列と、クレア達アイアスの部隊は警戒態勢を維持しつつその場を離れていった。
「お疲れさん少尉殿。まぁ、あいつら相手は気を張るよな」
「あなたは慣れている様子でしたね⋯⋯。しかし、信用できる連中ですか?」
「依頼した仕事はきっちりやってくれる奴だ」
そうでないと裏社会でやっていけないという。ギルドの管轄外の仕事で失敗した時に支払うのは給料や損害賠償ではなく彼等の命だと聞いてゾッとしなかった。
「それより、その連れのキャラバンはどうするんだ?」
「このままアウトベースまで護衛する予定です」
「なら、ウチの戻る連中も同行させてくれ。どちらにせよアウトベース付近は通る」
「それは⋯⋯カーター氏。どうだろうか?」
「護衛は多いに越したことはないさ。あんな連中が近くをウロウロしてるとなるとな」
「問題ないとのことだ」
「了解だ。ニコル、セナとルナ、セレスはあっちだ。俺達は予定通り上に上がる」
「わかりました」
青いMⅢとMⅢジャガー2機⋯⋯そして大型機動兵器とそれに付随する支援車両と装甲車や燃料車がその場に残り、ラルスのMⅢオルトロス含む15機に及ぶMⅢ部隊はその場を後にした。
アルビオン・バイオニクスの残った機体数は少ないが、まさか大型機動兵器が戻る側だとは思わなかった。
「アルビオン・バイオニクスの実験部隊、アルケミスト所属のニコル・オレームです。短い間ですがよろしくお願いします」
その少年は友人⋯⋯アンナの弟だとセラとラピスから聞いた人物だった。




