section.37_実弾演習2
「アルファ4よりアルファリーダーへ。目標視認!機種不明の大型機動兵器です!数3」
先行していたMⅢレプスの前衛部隊から届いた通信内容に部隊全体に動揺が広がる。強力な面攻撃に大規模な部隊が展開していると覚悟していたが、よりにもよって大型機動兵器を扱う部隊とは。
カルコサ都市軍の大隊長は舌打ちをする。
後方支援装備のMⅢクーガー6機からはまだ機影は視認できない。
「映像データを共有しろ!詳細報告!」
わざわざ名乗ってきた音声から、相手は企業連合のアルビオン・バイオニクス所属の傭兵であることは分かっている。おおかた金で雇われたに違いない。
大型機動兵器はいわば現代の戦略兵器だ。
軌道エレベーターの安全確保の名目上、衛星砲で物理的に戦略爆撃機も大陸弾道ミサイルも封殺された状態で規格外の大火力を移動させることのできる兵器である。カルコサでも2機所有している。
「大型機動兵器3機のみです!護衛無し!2機が後退中!」
「⋯⋯何?」
報告内容に耳を疑うも、送られてきた映像は報告通りだった。
MⅢに近い形状をした大型機動兵器が3機。うち2機はこちらに正面を向けたまま後退していた。
1機のみ、立ち塞がるかのようにその場に留まっている。巨大な鳥の羽のような形状の多重装甲は⋯⋯腕部だろうか。3本指のマニピュレーターが地を掴んでいるように見える。
後退している機体を見る限り全高は15mほどか。移動姿勢と駆動音を聞く限り、MⅢのよくにホバーエンジンを搭載しているようだ
キャンプ地を壊滅せしめた砲の砲身が見当たらない。いや、背中に背負っているが、砲身が後方を向いていた。
手前の機体は後退する2機と異なり、長い腕部で四つん這いのような姿勢を取っているのは射撃姿勢か。
「アルファリーダーより全機へ!目標は移動中だ!手前の機体が大口径砲を展開する前に懐に入れ!武器使用自由」
「了解!」
後退速度を鑑みるに機動力は大型輸送車両程度に思えた。最高速度に至っても時速100kmに到達するようには見えない。
機動力はこちらに利がある。
そう思えた。
先行するMⅢレプス3機は回避運動をしつつも直線的に距離を詰める。装備している機関砲を放つ。
相手が大型機動兵器なだけあって狙わなくても当たった。ただ、腕部と胸部の装甲に弾かれ、外見上は効果があるように見えない。
だが、全方位が重装甲というのは考えづらい。
「アルファ3よりアルファリーダーへ。座標送信。支援射撃を求む!」
「アルファリーダー了解。アルファ6からアルファ10は支援射撃」
「支援射撃了解。20秒後にミサイルが到達」
後方で足を止めたMⅢ部隊からミサイルが発射された。各機が2発ずつ。数は10。
そこで、ようやく大型機動兵器が反応した。わずかに頭部が上を向くと、胴の上面装甲が展開して隙間ができた。
その隙間から赤い可視光のレーザーが空に放たれた。
直後に、後方から爆発音が響き渡る。
「アルファ10より全機へ。迎撃されました!ミサイル全機消失」
「流石に誘導兵器対策はしているか」
対空レーザーだった。
ミサイルは撃ち落とされたものの、時間稼ぎにはなったはずだ。今のところ、大型機動兵器からそれ以上の反撃はない。
前衛が距離を詰め、移動を阻害できれば囲んで蜂の巣にできる。
「アルファ1よりアルファリーダーへ。目標がわずかに⋯⋯」
ブツッというノイズと共に前衛部隊のリーダーからの通信が途切れた。
「アルファ1⋯⋯?」
「アルファ1とアルファ3が食われた!!こいつら技とゆっくり動いて⋯⋯」
「アルファ2!!」
「どうした!?何があった!!?」
突然味方の通信が絶叫に包まれた。
映像データを見た限り、あの大型機動兵器に副砲の類いは無かったはずだ。それは別段珍しいことではない。
全長50mを超えるような要塞型の大型機動兵器でもなければ大火力の輸送運用に特化した兵器である。
あのやたら前方に飛び出た胸部に武装でも内蔵していたのか。
「アルファ4よりアルファリーダー!!逃げてください。ヤツがそっちに向かってます!!!」
「アルファ4!!何があった!?」
「前衛はもう俺だけです!!てっ⋯⋯な、アイツら今さら砲を⋯⋯」
前方から爆発音が響いてきた。空に黒い爆煙が登っている。
そして、目の前に迫ってくる機影が目に入った。
「全機迎撃!!武器使用自由!!!」
あの鈍重な後退速度と体躯からは想像できない速度で大型機動兵器が肉迫してきていた。
「推定速度190⋯⋯200⋯⋯220まだ加速しています!!」
「撃ち落とせ!!」
機関砲、重機関砲、ミサイルの発射音が響き渡る。
ミサイルがコンテナハッチの開いた瞬間、赤い可視光に照らされ撃ち落とされてしまう。アルファ7とアルファ8のMⅢクーガーが残弾のミサイルへの誘爆によって吹き飛んでしまった。
重機関砲の弾丸も腕部と胸部装甲によって弾かれる。おそらく最も強固な部分なのだろう。
なんとか大型機動兵器の脚部を狙いたいが、片腕で下半身を庇うような姿勢を維持して肉迫してくる。
「待っ⋯⋯」
気付いた時には既に目の前にいた。
それでも大型機動兵器は速度を緩めない。
大型機動兵器は距離を詰めるのが目的ではなかった。
「隊長!!」
衝突したMⅢクーガーは四肢をバラバラにしつつ宙に舞った。
通り過ぎた大型機動兵器の背中を撃とうと、残された3機が旋回する。しかし、照準を向けたころには、大型機動兵器はすでにこちらを正面に捉えていた。
大地を見ると大きくえぐれている。長大な腕部でドリフトするように速度を殺すのと合わせて旋回したようだった。
「くっクソ野郎!!」
「あんな死に方してたまるか!!!」
死に物狂いで引き金を引くが、大型機動兵器の正面装甲を抜けるような火力はなかった。
この距離だとミサイルは発射の瞬間に破壊されてしまう。
せめて近づけまいと、死に物狂いになるが、大型機動兵器が近付いてくる様子はない。
その代わりに背部から大口径砲の砲身が前方に展開してきた。
「ふざけんな!この距離で撃つ火器じゃ⋯⋯」
残りの3機も、大型機動兵器フリューゲルの主砲の爆炎に飲まれた。
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「ウッドペッカー1よりホークアイへ。目標の沈黙を確認。これより合流地点に移動する」
「ホークアイ了解。作戦終了。支援車両部隊と合流し、帰還してください。お疲れ様でした」
「そう思うんなら、帰る日の夕飯は僕の好物にしてくれ」
「肉ですか?」
「牛肉だな。分厚いのがいい」
「わかりました」
セレスのリクエストを聞き終えると、ニコルは作戦の通信を終了した。
「フリューゲルの最高速度って、本当はあんな使い方の為じゃないんだけどね。絶対に追いつかれない砲手ってコンセプトなんだけど」
「その文句はセレスさんに言って下さい」
後ろから作戦状況を眺めていた兵器開発部のエスト・ルーファスは呆れたように肩をすくめる。
確かに、体当たりを繰り返していたセレスのフリューゲルの鋭利な胸部装甲は歪んでしまっていた。
前に飛び出た胸部は主砲のカウンターウェイトでもある。そのため、大型機動兵器フリューゲルの鋭利な胸部はほぼ金属とセラミックの塊なのだが、当然ながら衝突すれば歪んでしまう。
「別に文句じゃないんだけどさ。ああいった戦い方専門の大型機動兵器ってありだと思う?いっそ平らにして金槌⋯⋯いや鉄床みたいな」
「⋯⋯需要がないと思います。フリューゲルのあれは副産物みたいなものですし。あんな戦い方はセレスさんくらいしかやりませんよ」
オプションの副砲を積むか主砲をレールガンに切り替え、距離を取りつつ戦う方が効率も良いだろう。
ニコルからすると無しだった
「そっか」
エストは残念そうに手帳にバツ印を書いていた。
候補に上がっていたのだろうか。そんな特攻兵器のような機体のテストなど死んでもごめんだ。
ニコルは聞かなかったことにした。
試作量産型大型機動兵器フリューゲル
アルビオン・バイオニクス製
最高速度時速300km(火砲装備・オプション兵装無し)
・主砲4門(大口径火砲orレールガン)
・胸部内蔵式対空レーザー砲20門
オプションとして腕部内側に重機関砲やドローンポットの搭載も可能
超長距離から高速機動で射点を変えつつ砲撃を行う機体。前方に飛び出た胸部前面装甲は砲身を折り畳んだ際のカウンターウェイトであるため金属とセラミックの塊になっている。
脚部が運動性と跳躍能力に優れる獣脚状になっており運動性も高いが、大型機動兵器でありながら、砲撃時には足を止める必要がある。
長大な腕部は反撃を受けた際に高機動機体の命である脚部を守る装甲である。




