section.36_実弾演習1
セシリア・キース博士が都市国家アイアスとオンライン会議を行っていた時、ニコルは同時にセレス、セナ、ルナとも通信を繋いでいた。
「ウッドペッカー1からホークアイへ。全機ホバーエンジンを戦闘出力へ⋯⋯このコードとやらは慣れないな。機体名と建造番号じゃ駄目なのか⋯⋯何なんだキツツキって」
ニコルに通信を送ったセレスは独りごちながら機体状況を確認する。
「可愛くないですか?私達が考えました」
「キツツキっぽいなって」
「⋯⋯甘やかしすぎじゃないか?」
自由奔放な双子の発言にセレスは眉間にシワを寄せる。
「ホークアイよりウッドペッカー1へ起動了解。砲撃姿勢を取ってください。⋯⋯キツツキは言い得て妙だなと思いまして」
戦闘出力でホバーエンジンが稼動する大型機動兵器フリューゲルから電源車両と燃料車両、作業を行っていたMⅢジャガーがさらに離れていく。
MⅢは大型でも全高約7m、重量も150t未満の機動兵器であるのに対して、大型機動兵器と称されるフリューゲルは脚部を折り畳み蹲った状態で全高は10mを超えていた。形状はMⅢに近く、ホバーエンジンも積んでいる。
MⅢに近い見た目と言っても、ニコルからすると似ても似つかぬ形状をしていた。
頭部こそ付いてるものの、それよりも主張の激しいキツツキの嘴のように大きく前に突き出た胴。
その胴の後ろに隠れるように後ろに折り畳まれた4本の大口径砲の砲身。
鳥や蝙蝠の翼でも模したかのような地につく程に長い腕部。
鳥類や竜脚類の形状をした脚部。さらには尻尾まで付いていた。
「ホークアイよりウッドペッカー2、ウッドペッカー3へ。当機体の特性は予習されてるとは思いますが、ブリーフィング通り、白兵戦となる場合2機は撤退。当都市外施設所属であるウッドペッカー1が対応します」
「ウッドペッカー2了解です」
「ウッドペッカー3了解しました」
セナとルナはニコルの作戦確認に返事を返す。
「本来は他所の施設に回す分だ。壊すなよ」
セレスが最後に釘を差した。
「セレス姉。コード忘れてるよ」
「そうそうキツツキ」
「知らん」
セレスは攻撃的な性格のため人への当たりが強いが、この双子はまた違う意味で癖が強そうだ。楽観的な部分はセラに近いようにも感じるが、キース博士へ報告が必要だろう。
「ホークアイより改めて全機へ。目標座標の共有完了。砲撃姿勢を取ってください」
「「了解」」
「⋯⋯了解」
大型機動兵器フリューゲルの胴の後ろで折り畳まれていた4本の砲身が前方に展開された。重心が前に傾くが、それを長い腕部が上半身を支える。
「機体姿勢安定しました」
「弾頭は散弾KEP弾頭を装填。間違うなよ」
「発射」
MⅢどころか戦車ですら積むことすらできない4門の砲が砲弾とともに爆炎を吐き出す。
第1射後、アクチュエーターが稼働し数十秒かけて2射目を装填。排薬しリロードを終えると、即座に発射する。再度、爆炎が空を覆い尽くす。
同じ動作を計3回。3機分の砲弾12発が4連続で発射された。
目標の観測をしているのはMⅢアルテミス2搭載しているドローンの予備機だ。
大型機動兵器に搭載している衛星通信アンテナを中継機として、ニコルは都市外施設のガレージから座標観測を行っている。
MⅢアルテミスをそのまま使用してもよいが、より回線速度を出すため機体を管制用の機材と繋いでいた。
モニターにはアイアスの領土に我が物顔で拠点設営をするカルコサ都市軍の大隊が映っている。
都市国家アイアスも軍事衛生などで把握しているはずだ。手出ししないのは、議会が交渉していると主張する以上、それを軍部が独断で反故にするようなことはできないためだろう。
彼らに特に恨みはない。
むしろ、今回の作戦で状況が好転する保証はない。
だが、セレスのように鬱憤が溜まっていないと言うと、嘘になる。
100kg近い弾頭が空中で分解した。炸薬は入っていない。代わりにダーツのような複数の細長い弾頭が空中にばら撒かれた。
「間もなく第1射が到達します」
夕立のように、金属の杭が目標地点に降り注いだ。
「ホークアイより全機へ。第1射の弾着を確認。続いて第2射⋯⋯」
カルコサ都市軍は、攻撃はないと高を括っていたツケを支払うことになった。
「目標の戦車隊は全滅。MⅢ部隊は半数が現存。射角から迎撃の砲撃。MⅢ部隊が散開。全機3時の方向へ回避行動」
フリューゲルは砲身を折り畳むと、3時⋯⋯右翼方向に移動する。脚部を伸ばし跳躍するように初速を確保すると、巨体でありながら即座にMⅢと変わらぬ速度を叩き出す。
念のための移動だったが、反撃で行われた砲撃は大きく手前にそれて 着弾した。
「ウッドペッカー1よりホークアイへ。敵砲撃の到達を確認した。被害0」
「ホークアイ了⋯⋯敵機より照準レーダーの照射を受けました。マスターへ指示を仰ぎます」
流石に腐っても正規軍だ。ドローンが見つかるのが思ったより早かった。
「キース博士。ご歓談中失礼します」
「どうしたニコル」
「実弾演習中に照準レーダーの照射を受けました。迎撃しますがよろしいですか?」
「構わないとも」
「了解しました」
形だけの、見せつけるような確認を済ませ、通信を切る。
ニコルにはアイアス都市軍の中佐の様子よりも、その補佐官⋯⋯金髪の女性の反応の方が目にのこった。
博士の意図を組んで、都市の記録に残っている自分の名前を口にしたが、ここまで分かりやすく動揺するとは思っていなかった。
そういう記録があることは把握していた。だが、ニコル自身、何も覚えていないため感慨の1つも沸かなかった、ただの事実。
それも10年近く前の。
「⋯⋯普通、もう死んでると思いませんか」
「どうした?」
「⋯⋯すみません。独り言でした。ホークアイよりウッドペッカー全機へ。逆探知されました。5分で生き残りの敵MⅢ部隊と接触します」
ドローンはセレスが搭乗する大型機動兵器フリューゲルを中継しているため、そちらに真っ直ぐ敵機は向かってきていた。
「ウッドペッカー2とウッドペッカー3は後退し防御姿勢。ウッドペッカー1は敵機の迎撃を」
「えー。もうおしまい?」
「もっと撃っちゃおうよ」
「黙って指示に従え」
セナとルナが唇を尖らせるも、セレスがひと言で黙らせる。大型機動兵器の2号機と3号機が渋々後退を始めた。
「警告する。こちらはカルコサ都市軍。貴部隊の行動は、我が国の主権および関連法規に対する重大な違反だ!直ちに武装解除し投降しろ」
「ふんっ。人の家の庭で主権だとさ。なんて返してやる?」
「こちらで返答しましょう」
カルコサ都市軍から飛んできたオープンチャンネルの通信を聞き、セレスは鼻で笑う。
「こちらはアルビオン・バイオニクス所属実験部隊、アルケミスト。都市国家アイアスの承認を得て作戦行動を実施しています。直ちに指定エリア外へ撤退してください。警告に従わない場合、必要な措置を講じます」
「なんだと!?」
何も嘘は言っていない。セシリア・キース博士はアイアス行政府に通告を突き付けている。
「繰り返します。直ちに指定エリア外へ撤退してください。警告に従わない場合、必要な措置を講じます」
「意地汚い戦争屋どもが!舐めるな!!」
暴言とともに一方的に通信を切られた。
「お前も性格が悪いな」
「キース博士の指示ですので」
ニコルの言葉にセレスが笑いを押し殺している。
アイアスからの指示や依頼とは言っていない。
ただ許可を得ていると答えただけだ。
アイアスに何の承認を得たかは答えていない。
聞かれていないから仕方がない。
「ウッドペッカー1からホークアイへ。目標を視認した。MⅢレプス。数5」
MⅢレプス。航空機のような流線型のフォルムと長いブレードアンテナが特徴のジパング・インダストリー製の機体だ。
「遅れてまだ6機が来ます。うち1機は中破しています。相手は機動性に優れた機体です。囲まれないで下さいよ」
「誰にものを言っている」
通信画面越しに、セレスが凶暴な笑みを浮かべるのが見えた。




