section.33_伝える
「⋯…」
沈黙が気不味い。
だからといって良さげな言葉も思いつかなかった。
ラルス・エムロードは正直なところ、難しいことを考えるのは得意ではない。そのため、仕事においても作戦を考えるのはラルスではなかったりする。
都市国家アイアスの食料プラントから離脱してから2日目の野営。夜警のため、ラルスはニコルと焚き火を囲んでいた。夕食も終え、見張り担当以外のメンバーは思い思いに時間を過ごしている。
本来の行軍速度であれば2日で走り切れる距離なのだが、行軍に時間がかかってしまっていた。
燃料車以外の車両に入れる燃料を少なくすることで重量を軽くし、都度補給を行っていたためだ。3日目の明日には都市外施設に到着できる見込みだった。
「お、電波繋がるんだな」
沈黙に耐え切れず、ラルスは何となしにモバイル端末の電源を点けると強度はともかくとしてオンラインに接続できた。
端末が低速環境でメッセージの受信を始める。
周囲を見てみると、ちらほらモバイル端末を触っている者が目に入った。
「ニコルも電源点けてみろよ」
「え、はい」
ニコルは気のない返事を返すと、モバイル端末を取り出し電源を入れる。
ラルスの方の端末はメッセージの受信を終えた。見ると、セシリア・キース博士からメッセージが入っていた。
メッセージの中身を見てラルスは目を丸くし、少年の方をチラリと盗み見た。この内容を見て、少年がどういう反応をするか確認するためである。
気怠げに起動したモバイル端末を眺めて、メッセージの受信を眺めていた少年の眉根がピクリと動いた。即座に目を丸くして、画面を食い入るように見始める姿を見て、ラルスは思わず笑いを零してしまった。
眼帯の男の笑い声に、様子を見られていたことに気付いたようで、少年は唇を尖らせた。
「な、なんですか?」
「いや、お前も変わったなと思ってな」
セシリア・キースから来ていたメッセージの内容は、セラとラピスから無事の連絡があった事と、こちらの状況を確認する内容だった。
ニコルの反応を見る限りだと、少女から直接メッセージが入っていたのかもしれない。
「2人とも無事だってな」
「⋯⋯はい」
「連絡しないのか?」
「⋯⋯こんな時間にですか?」
「惚れてる相手から連絡貰って嫌がる奴はいねえよ」
ラルスの言葉に、ニコルは頬を赤くして口の端を歪めつつもモバイル端末の操作を始めた。
「⋯⋯少し、席を外します」
「むしろ長電話して来い」
ラルスは上機嫌でニコルを見送った。
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どうしたものかと、ラピスはアンナとセラを交互に見る。その様子を見てアンナは自分がいる事を気にしてるのかと察する。
「私の事は気にしなくていいわよ」
「え⋯⋯あ、はい⋯⋯もしもし」
アンナに促され、少女はおどおどとした様子で通話を開始した。挙動不審な様子に、アンナは思わずセラに耳打ちする。
「誰から?」
「ラピスちゃんの彼氏」
「セラさん!!」
デリカシーの欠片もないセラに、少女は顔を真っ赤にして声を荒げた。まだ彼氏ではないものの、通信の向こう側の相手に好意はあるようだ。
「予定なのね」
「一緒に住んでるのにね」
「え?」
微笑ましい光景だと思ったのだが、セラの言葉にアンナは耳を疑う。少女は今度は声は出さずセラの頭を引っ叩いた。どうにも本当のことのようだ。
傷口に響いたのか、セラが頭を抱えるが、不思議と同情する気持ちは全く沸かなかった。
詳しく聞きたい気持ちは湧いたが、ラピスにジロリと睨まれアンナは聞かなかったことにした。恋の形は人それぞれである。
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「なんだか、すごい音がしたんですけど?」
音声通信の向こう側で景気のいいパァンという音が耳に入りニコルは首を傾げる。セラ以外にも誰かいるようで、女性の声が聞こえた気がする。
「⋯⋯セラさんが余計なこと言うから」
「⋯⋯元気そうで何よりです」
声のトーンが幾分か下がった少女に少年は苦笑いを返す。おおかたセラが叩かれでもしたのだろう。
「怪我はしてないですか」
「私は大丈夫。セラさんは頭を切ったくらい」
「⋯⋯それ、セラさん叩いて大丈夫なんですか?」
「セラさんが悪い」
色恋話が好物なセラ・キースは何かと余計な首を突っ込んだり、ひと言多い部分がある。自業自得といえばそうだった。
以前にセレスにちょっかいをかけて蹴られていた事もあったか。
「⋯⋯出発の朝のこと、バレてから結構しつこいんだよ?」
「あ⋯⋯あー⋯⋯話したんですか」
ほんの数日前の事故を思い出してニコルは顔が赤くなる。
「だっ⋯⋯だってしつこくて⋯⋯ 」
「僕もラルスさんにバレたので、人の事は言えないですね」
「「⋯⋯っ」」
お互い揃って身近な人にバレて話してしまっている事がおかしくて、互いに笑いが零れてしまった。恥ずかしくて、気不味くて、お互いにどうしようかと思っていたのだった。
「⋯⋯連絡くれて嬉しい」
「僕も、声が聞けて安心しました」
どうしようもなく頬が緩んでしまう。
少し前まで、不安で、恐ろしくて、後悔で押し潰されそうな気持ちだったのが嘘のようだ。
捜索を打ち切ると決めた時、それが正しい判断だと思った。車両の燃料にも、MⅢの燃料にも限りがある。皆を巻き込んで共倒れにする訳にはいかなかった。
正しい判断をしたはずだ。
「ラピス、僕は⋯⋯」
なのにずっと苦しかった。
「うん」
理由はとても単純だ。
「あなたが好きです」
「うん⋯⋯んえ!?」
数日前に、あんな言葉を聞いたあとで、ズルいかもしれない。こんな声だけで雰囲気など無いようなものだ。
向こう側で少女が戸惑っているのが聞こえた。
「わ⋯⋯私も⋯⋯」
「⋯⋯はい。ありがとう、ございます。あと、すみません。こんな形で、タイミングで⋯⋯」
「⋯⋯う、ううん」
「後日、ちゃんと、もう一度言わせて下さい」
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「⋯⋯大丈夫。ちゃんと、嬉しい。えへへ⋯⋯うん。また⋯⋯またね」
少女は少年との音声通信を終え、モバイル端末を両手で握りしめる。
頬が緩みきってしまっている自覚があった。心臓が高鳴っているのが分かる。多幸感と高揚感で呼吸も荒くなりそうだった。
深呼吸してなんとか気持ちを落ち着けようと務めるが⋯⋯。
「ほほう」
セラの声が耳に入り、ラピスは現実に引き戻される。ニコルの声は聞こえていないはずなのに、セラはとても楽しそうに笑っている。
「これは⋯⋯お祝いかな?」
茶化すセラに拳を振り上げたいが、緩みきった頬は言うことを聞いてくれない。
「そうね。おそらくその通りね」
「あっアンナさんまで⋯⋯!」
そこまで表情に出ていただろうが。いや、頬を引き締められないほどに表情には出ている。
「記念日は大事よ。スナックくらいしか用意できないけど」
「なにを騒いでるんだ?」
帰宅してきたクレアまで加わってしまった。これではもはや公開処刑である。
「クレア。これで食堂からスナックとジュースを買ってきて」
「何なんだ急に?」
「今日はラピスちゃんの記念日なのよ」
「記念日⋯⋯?なんだ。だったら早く言ってくれればよかったのに。集合場所は寮のロビーでいいか?ロウソクは何本いる?」
この場にいる人物の中で、クレアだけが何も分かっていないのだった。
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そんな事があってから1ヶ月経った。
2人はまだ、アイアスから帰ってきていない。
わりと砂糖多めな回になりました。
ラブコメはいったんおしまいです。
たぶん。




