section.29_殲滅戦
「セッター1からサルーキ1へ。作戦領域に到達……ほぼ終わってるんだが」
「サルーキ1よりセッター1へ。ハウンズリーダーが先行した時点で分かってたことだ。残敵掃討だ。歩兵と生き残りを食料プラントに入れるな」
「ボルゾイ1よりハンドラー1へ。現着した。残念なことに周辺に敵影がない。指示を求む」
「ハンドラー1から全機に。カルコサ都市軍の地上大隊がまだ領地内にいるわ。掃討が済み次第、別命あるまで警戒態勢で待機」
レヴィナス・ストロース中尉は各部隊に周辺警戒の指示を出した。
面制圧と索敵に特化したMⅢで構成されたハンドラー小隊は、着陸地点と関係でクレアのシェパード隊とジャックのドーベル隊が行うことになった。
「ハンドラー1からシェパード1へ。要救助者の状況報告」
「シェパード1よりハンドラー1へ。応急処置後、精密検査のため、2名ともチャーター便に乗せた」
更新終了と答えて、クレアは自機のMⅢレプスに戻る。
大型輸送車両に乗っていたのは若い女性と少女だった。奴隷売買の商品のためにカルコサ都市軍が追い回していたと考えると反吐が出る。
「シェパード1よりハンドラー1へ。機体に戻った」
「ハンドラー1からシェパード1へ。ハンドラー小隊の護衛を継続」
ハンドラーの部隊コードを有するのMⅢ小隊は3機ともMⅢレックスで構成された後方支援部隊だ。
小隊所属のMⅢレックスの共有の特徴として、レールガンは取り外されており、代わりにハンドラー1と2はドローンコンテナを、ハンドラー3は望遠カメラを内蔵している。そして、3機ともが大型の地対地ミサイルコンテナを両翼に6基ずつ、合計12機背負っていた。
MⅢレックスは踏破能力と積載量にもすぐれており、その特性を後方支援に活かした装備をしていた。
「はあ……アーノルド少尉。つまらないと思いませんか。大隊長殿ばかり楽しんでいますよ」
「……申し訳ありませんが、その感性は分かりかねます」
レヴィナス・ストロース中尉はメイアほど規則に厳しい人間ではない。だが、ハロルド・キースに代わり大隊指揮を請け負うことが多い。
索敵と火力支援に特化したMⅢのため、部隊全体の把握と指揮を並行して行えるためだ。
「せっかく、たくさん発射できると思ったのですが」
「「……」」
ただ、役割や口調とは裏腹に、かなり大隊長であるハロルド・キース中佐に近い性質をしていた。
トリガーハッピーと言うやつである。
「タワー1よりハウンズリーダーへ。至急……」
「ハンドラー1よりタワー1へ。現場判断にて、作戦行動中、大隊指揮権はハウンズリーダーよりハンドラー1に継承されています」
「ま、またですか……」
タワー1、アンナは前線好きのキース中佐の奇行にため息をついた。咳払いをして気分を引き締め直す。
「……衛星にて監視していたカルコサ都市軍の車両大隊に動きあり。そちらに進行を開始しました」
「あら」
「到達予測は時間は18時間後となります。現政権より迎撃要請。補給隊を手配するため防衛戦の構築を……」
「ハンドラー1よりタワー1へ。武器使用は?」
「武器使用自由。現場に一任されます」
「良い、お知らせですね」
レヴィナスの言動に、アイアス都市軍の城塞都市の防衛隊出身の面々は渋い顔をし、都市外活動専任特殊部隊の古株や傭兵時代からの昔馴染は失笑を零した。
「ハンドラー1からハウンズ全機へ。狩りの時間です。包囲殲滅戦です。餌が欲しい猟犬は鳴いてください」
「セッター1よりハンドラー1。コピー」
「ボルゾイ1よりハンドラー1。コピー」
「ウルフ1よりハンドラー1へ。コピー」
……最終的にセッター、ボルゾイ、ノーリッチ、バセット、ウルフ、ウィペット、ブルの7小隊。MⅢ21機が声を上げた。
ハウンズリーダーは、
「流石に補給が必要かな。追加ステージがあるなら事前に教えて欲しかったなぁ」
「1人で10機以上食ったのに、まだ食い足りないんすか。隊長らしいですね」
「カーシュ、機体貸してくれないかな?」
「いやっすね」
カーシュの軽口にハロルドも軽口で答えた。
カーシュの物言いが正しいのであれば、ここに来ていたカルコサ都市軍MⅢの3分の1をハロルド・キースが単独で殲滅したことになるのだが。
「ウィペット1よりドーベル1、シェパード1へ。お前達はいいのか?」
「ドーベル1からハンドラー1へ。御免被る。何故かわりとここに敵が来たからな」
「シェパード1からハンドラー1へ。同じく。私はともかく、隊員たちは補給がいる」
わざわざ気を利かせてメイアが聞いてくれたものの、何故かここハンドラー1に向かってくる敵機が多かった。クレアとジャックの小隊周辺には10機近いカルコサ都市軍のMⅢの残骸が転がっていた。
隊員たちの要望を聞いたレヴィナスは情報部の管制室に要望を送る。
「ハンドラー1からタワー1へ。チャーター便を11機。ハンドラー小隊の予備コンテナを2機手配願います。また、目標座標と衛星映像の共有を求めます」
「タワーリーダーよりハンドラー1へ。予備コンテナは1機だ。撃ちたいだけだろう」
「いけずですね」
バルドゥル・ブリュール中佐が割って入り、要請の一部は却下された。
それでも、即座に領土侵犯していたカルコサ都市軍車両大隊の位置座標と、衛星映像が共有される。
「ハンドラー1よりハンドラー小隊へ。面制圧射撃を行います。3発ずつ4回に分けて地対地ミサイルを発射ですよ。皆さん。派手にいきましょう」
レヴィナスの楽しそうな笑い声が通信に響く。
戦場に似合わない甘美で妖艶な声色に、クレアとジャックは背筋がさむくなった。
「ハウンズリーダーよりタワーリーダーへ。食料プラント周辺の敵機殲滅を完了。被害状況は防衛隊に確認を頼むよ」
「タワーリーダーよりハウンズリーダー。コピー」
作戦の了承を得たハンドラー小隊のMⅢレックス3機が、遠方の敵を狙うためミサイルポッドを上に向けた。
----------
「……ミサイル?」
索敵ドローンが検知した熱源に、ニコルは反応する。だが、予想ルートを見る限りこちらを狙ったものではないようだった。
MⅢアルテミスのレーザー砲は冷却を終えているものの、連射が効かないため使わずに済むことに越したことはない。
「あと合流できていない車両は何台だ?」
ラルスと輸送隊の隊長、戦車隊の隊長が通信で車両の数の確認を行っていた。車両部隊の方は合わせて一般職員と戦闘職員の点呼を行っていた。
「大型輸送車両が1台足りん」
「MⅢイカロスとMⅢアルテミスがあと1台車両を探しているが……。ニコル、どうだ?」
「……こちらは発見できません」
「シーラは」
「見当たらない。プラント方面はまだだけど……」
「そっちは駄目だ。戦闘中だろう」
「あまり長居もできん。空を見ろ巡航ミサイルも飛んでいる。情報部にでも任せるべきだ。あそこなら足の長いドローンも保有してたはずだ」
戦車隊の隊長の言葉に、ラルスは舌打ちをした。
「……シーラ。戻ってこい。MⅢイカロスの燃料が一番不味い」
「でも……」
「戻ってこい」
創作作業も、そろそろ潮時だ。到着してすぐに戦闘に巻き込まれたため、燃料車に補給ができていない。都市外施設に戻って、より長距離を捜索できるドローンに捜索を引き継ぐべきだ。
「ドローンも戻さないとバッテリーが切れます」
「……撤収だな。MⅢイカロスが戻り次第、出発でいいか」
「車両部隊に伝えよう」
方針が決まったため、輸送部隊の隊長が職員に声をかけ始める。
「まだ探したい」
「駄目だ」
「シーラさん戻ってきてください。ECMは弱まってますが、そろそろレーザー通信の中継も難しいです」
「でも、セラとラピスちゃんだよっ」
「……は?」
シーラの言葉に、ニコルは呆気にとられてしまった。
「おいっ!!」
「だって……」
ラルスが咎めると、シーラは唇を尖らせた。
彼女達は食料プラントの中心にいたはずだ。
防衛戦からも遠く、他の車両よりも逃げる時間は比較的長くあった。
大型輸送車両は足は遅いものの燃料タンクは大型で足は長い。
さらに戦車並みの装甲を持つ特殊な大型車両で、コンテナ車両すら機関砲での貫通は難しいほどだ。タイヤも、空気圧式ではなく耐衝撃樹脂を充填したものでパンクもしない。
それらの条件から、無事だろうと高を括っていた。
ニコルは操縦桿を握りしめる。
思考がグルグルと回転する。
いるとすれば、今の創作範囲外になる。
可能性としては良ければアイアス都市軍の部隊展開しているエリア内。
または、カルコサ都市軍の人狩り部隊に連れ去られたか。
いや、後者の可能性は低いはずだ。
撤退中に見た戦闘では、完全にアイアス都市軍による蹂躙だった。
今、優先するべきことを考えなければならない。
「……シーラさん。戻ってください。撤収です」
「む……」
「……」
「他の職員を危険に晒す訳には、いきません」
ニコルの指示に、シーラからの反論はなかった。
City State 隔たれた世界 、アルビオン・バイオニクス社の少年兵のストーリーも折り返し地点です。
引き続き読んでくれると嬉しいです。
ここまで読んでくれたあなたに感謝を。




