section.26_混戦
空襲警報の甲高いサイレンが断続的に鳴り響く。
食料プラントに務める職員達が身を難くして、即座にモバイル端末で警報情報や最寄りのシェルターを確認する。
そんな中。
「……何この音?」
耳に残る甲高い不快な音にラピスは小首を傾げた。
「えっ?嘘でしよ!?こんなタイミングで!?」
対してセラは顔を真っ青にする。
彼女達は、健康診断用に借りた共有ホールに、大型輸送車両から必要設備を並び終えたところだった。
作業の手伝いに駆り出されていたプラントの防衛隊を務めるアイアス都市軍人の顔がキッと険しくなる。
「非戦闘員は最寄りのシェルターへ!車は使うな!徒歩で行けるシェルターに行け!」
「うえ!?」
声を張り上げる軍人にラピスは肩を震わせる。どうしたものかとオロオロしていると、声を張り上げていた軍人が駆け寄ってきた。
「落ち着いて下さい。ええっと……君は……」
「すみませーん。企業連合の娘です」
ラピスの着ている制服に気付いて、対応に困る軍人にセラがフォローを入れる。ラピスも軍人も、セラが近くに来てくれた事で安堵の息を吐いた。
「ああ、そうですよね。予定通り、あなた方はここを離れられる認識で良いでしょうか」
「そうですね。荷物に関しては置いていきます。戦闘になった場合、回収には来ませんので処分をお願いします」
「承知しています。では、幸運を」
セラと挨拶を交わした軍人は、非戦闘員の誘導業務へと戻っていった。
何が起こっているのか理解しきれていないラピスはセラへと目を向ける。
「車に戻るよ」
「え……えっと……戦いに、なるの?」
「そう。だから私達は逃げるの。行くよ」
ラピスはセラに手を引かれて駆け出した。
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「空襲警報?越境行為を行っていたのはカルコサの地上部隊ではなかったんですか!?」
「詳細はわからん!だが、レーダーと望遠カメラで捉えたのはカルコサ都市軍の空挺部隊だ!あんた達はさっさと逃げろ!共闘されても金なんて出ないぞ!」
逃げると言っても、車両や戦車、MⅢの速度と輸送ヘリの速度では足の速さが違い過ぎる。
識別信号を出していようが、無視して追撃されたら逃げ切れたものではない。
「ニコル!どうこう言っても仕方ない!逃げんぞ!」
「ゲートはもう空けてもらってる」
ラルスとシーラに促され、ニコルもMⅢアルテミスをガレージの外に出す。
「輸送部隊や戦車隊との連絡は?」
「繋がってない。ECMでも使われてるのかもな」
アイアス都市軍のプラント防衛隊も既に展開しているが、MⅢの数は10機に戦車が3機。残りはレーダー車や装甲車と支援車両のみで心許ないものだった。MⅢに至っては塗装中だったのか、色が斑になっている機体もいる。予備機まで引っ張り出しているのだろう。
食料プラントは戦争用の陣地ではない。テロリストやゲリラを排除できればいい程度の戦力しか配置していなかった。
だが、ニコル達の戦力はさらに少ない。この場で通信ができているのは、食料プラントの防衛隊の回線を間借りしているからだ。
「複数の高熱源体確認!対地ミサイル来ます!」
その入ってきた通信にニコルは舌打ちした。
「アルビオン・バイオニクス所属MⅢアルテミスより防衛隊へ!自衛のため迎撃します!レーダー情報を共有して下さい!」
「迎撃!?何言って……」
「長生きしたけりゃさっさと共有しろ!!」
なにか言いたげな防衛隊のオペレーターに、ラルスが恫喝すると即座に対空レーダーの情報が共有された。
こういう時、顔と低い声で威圧感の出せるラルスが羨ましくなる。
そんな事を考えている内に、MⅢアルテミスはニコルの操縦に従い左腕のレーザー兵器を構える。
光を集束するための砲身は展開しない。
「戦車部隊、機械化歩兵部隊がいるなら目を覆って下を向いて下さい!3カウントで携行型衛星砲の照射を開始します!失明したくないでしょう!!」
「はぁ!?」
可能な限りわかりやすい単語で伝えたつもりだが、防衛隊から動揺が広がった。
レーザー兵器と言っても周知されているのは、対空レーザーなどミサイルを迎撃、撹乱するだけの低出力なものだ。
「3!」
ただ、1つだけ、大型の旅客機や軍用輸送機を消し飛ばす出力を持つ有名なレーザー兵器がある。
軌道エレベーターを防衛する対空衛星レーザー砲が、衛星軌道上に無数に存在していた。
「2!」
実際の威力を目にしたものは少ないが、都市同士の戦争が高速戦闘機ではなく、地上戦と海上戦に傾向させている元凶である。
今から掃射される出力の危険性を理解したのか、防衛隊の通信が沈黙に包まれた。
「1!」
その大出力レーザー兵器が放出された。
MⅢアルテミスが搭載するレーザー砲は、衛星砲の出力を維持したままMⅢが傾向できるサイズまで小型化した兵器だ。
用途としては、高出力の狙撃武装が主要になるが、それ以外にも機能が取り付けられていた。地上兵器としてのレーザー兵器が担う、巡航ミサイルや対地ミサイルからの対空防御機能である。
ただ、大きな問題として、衛星砲の高出力を小型化した上に地上で使用しているため、照射時間にもよるが1発撃つごとに10分以上の冷却が必要になってしまうのだ。
それならば、どうすればよいか。
答えは単純。出力をそのままに拡散させればいい。
照準用の赤いレーザー光は拡散し、空を真っ赤に染め上げる。
不可視の高出力レーザーも赤い光を追って空を走り抜けた。
全ての対地ミサイルが空中で焼かれる。
1コンマ遅れ、空を覆い尽くす用に爆発が起こった。さらに数秒遅れで爆発の衝撃波と爆風が周囲の草木を揺らす。
「対地ミサイル全て消失……また、先行していた敵輸送ヘリの失速を確認」
管制室のオペレーターから呆然とした様子で報告が上がってきた。また、機影が見えていた大型のヘリが失速し墜落する。高出力レーザーの余波で熱せられたローターのブレードが自壊して揚力を失ったのだ。
その内容と光景に防衛隊の隊員からは歓声が上がった。
「これで離脱する時間が稼げるはずです。僕達は離脱します」
「助かった!そちらの幸運を祈る!全機に告ぐ!増援が到着するまでの辛抱だ!時間を稼げ!墜落してもMⅢは生きてるぞ!戦車隊前へ!」
ヘリが墜落した位置から、逆襲と言わんばかりに機関砲の砲弾が飛んできた。
まだMⅢの自動照準可能距離の外なのか、狙いは散漫である。
ニコルはMⅢアルテミスの右肩の盾を射線に向けて機体を走らせる。ラルスもMⅢオルトロスの右腕部の大盾で流れ弾を防ぎつつMⅢイカロスを庇うように移動を始めた。
「……残り、私が撃ち落として来ようか?」
「目標の数も多く遮蔽物もない中、誘導兵器を持ってる相手にですか?」
「む……」
「ここはニコルの判断が正しい。ウチの戦車は……後回しでいいだろ。離脱しているはずの車両を拾っていくぞ」
鮮烈な戦果を見せたMⅢアルテミスだが、地上戦での戦車の優位性は未だに健在だ。
正面からの1対1で戦車がMⅢにやられることはそうそうないだろう。そもそも役割が異なっている。MⅢは言うなれば圧倒的な機動力を手にした自走砲に近い。
「俺が足の遅い大型輸送車両を優先して守る。シーラは装甲車と燃料車を拾ってきてくれ」
「分かった」
「ニコルはドローンを展開して、レーザー通信の中継網を作れ。車両を見つけたらMⅢイカロスの誘導を頼む」
「了解です。……こんなことなら衛星通信の装備も持ってくるべきでしたね」
「戦争に巻き込まれるなんて想定できるか。無い物ねだりしても仕方がないだろ」
合流の段取りを決めている間にも、上空を前線を突破したカルコサ都市軍の輸送ヘリが通り過ぎていった。
「……あいつらはなんでアイアス都市軍の戦車隊を素通りしてくんだ?」
定石なら、防衛線を張っている食料プラントの防衛隊後方に降下して挟み撃ちにするべきだ。
「ラルス!!」
シーラが声を上げるとともに、MⅢイカロスの重機関砲を空に向けて発射した。
見れば、輸送ヘリから切離されたばかりのMⅢの頭部が吹き飛んでいた。衝撃でバランスを崩したカルコサ都市軍のMⅢクーガーが地面に叩きつけられる。
だが、その間に他のMⅢが地上に降下してきている。
「こいつら手当たり次第かよ!舐めやがって!!」
ラルスのMⅢオルトロスが前衛に着く。
「武器使用は自由だ!叩き潰せ!!」
ラルスの指示に、ニコルもシーラもMⅢのエンジン出力を戦闘速に引き上げた。




