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section.20_都市連合行方不明者情報

行方不明者267番

・氏名

ニコライ・クライヴ


・失踪時の年齢

満5歳


・性別

男性


・身長/体重

108cm/16kg


・失踪日時

復興暦345年6月14日


・失踪場所

アイアス市 第五層16-3居住区


・職業

-


・特徴

金髪

痩せ型


・失踪時の服装

青いシャツ

ベージュのハーフパンツ


・状況

離婚協議中、父方が息子を誘拐し失踪。

以後、行方不明。


・失踪後の情報

容疑者は軍属であり、誘拐したその日のうちに専用のパスにて城塞都市外へ逃亡した模様。警察機関による追跡が困難となり容疑者含め消息不明。


行方不明者の現年齢は16歳。


・ご家族からのメッセージ

もし生きていれば連絡をください。



都市外指名手配856番

ダニエル・オレーム


満52歳


・罪状

住居侵入

暴行

器物破損

反逆罪



アンナ・クライヴは行方不明者情報の書面と、指名手配の書面を眺めつつため息をついた。


軍の情報部に入れば弟はともかくとして、このろくでなしの情報くらいは得られるかと思っていたが、考えは甘かった。


おおよそ10年前の事件とはいえ報告書はあるらしいことまでは分かったのだが、憲兵隊の管轄であり申請しなければ閲覧することはできなかった。


そして、申請してみたものの、完全な私情が理由では通るはずもない。


「いっそブリュール中佐に頼んでみる……?」


中佐の指示で過去の事故報告を閲覧するという体裁を取れば通るだろう。問題は中佐に私情で頼み事をすることになるという点だ。


憲兵隊に異動願を出すという手段は最初から除外されている。訓練時から実感していたが、誰が何と言おうと現場職は自分には向かない。嫌だ。


そもそも、事故報告を見たからといって弟が見付かる保証はないのも大きい。


煮詰まったアンナは寮のテーブルに突っ伏してため息をついた。


「アンナ。シャワー空いたぞー」


背後から飛んできた独身寮のルームメイト……クレアの声に、アンナは弾かれたように身体を起こして立てていたモバイル端末を裏返した。


「そんな慌ててどうしたんだ?」


「何でもっ……ないわよ」


取り繕いつつ振り返り、クレアの格好を目にして脱力することになった。


スポーツブラとボクサーパンツだけでウロウロするルームメイトにため息がこぼれた。


「あんたってホント、羞恥心とかないの?」


「楽だぞ。緊急招集で着替える時も脱ぐ手間がない」


女性士官用の独身寮で男がいないとはいえどうかと思う。裸族でないだけまだマシだろうか。


クレアの綺麗に割れた腹筋が目に入り、アンナは思わず自分のお腹をさすった。


「で、何見てたんだ?」


「……何でもないって言ったわよ?」


「となると……弟くん絡みか」


言い当てられてしまい、アンナは閉口する。


軍学校からの友人で腐れ縁であるクレアはアンナの家の事情の事も話したことがあった。


親が反逆罪の犯罪者という事実は悪い意味で目立つ経歴なのだが、クレアはそれを嘲ることも妙に同情することもない。


クレア自身も親絡みのしがらみがあったためだ


「……何か見つかったのか?」


「何ひとつ見つからないからこうなってんのよ……」


「10年くらい前だっけ?」


少々遠慮気味に聞いてきたが、何も変わってないと分かると、クレアはいつもの調子に戻った。


「愚痴くらい聞くぞ」


「准将閣下のご息女の手を煩わせるわけにはいきませーん」


「おいこら」


クレアの父親はアイアス都市軍の准将……要は軍部のお偉い方のお嬢様である。


意趣返しで身分を揶揄され、クレアは口をへの字に曲げた。


「……寮で愚痴る癖はつけたくないから、今度飲みに行くときにさせて」


「そっか」


おそらく厄介な経歴2人、仲が悪くなさそうな事を良いことにセットで扱われているのが2人が腐れ縁である原因だろう。


クレアはそれ以上、アンナの弟のことには触れなかった。デリカシーが無いように見えてこういう気遣いはできるルームメイトなのだ。


これだけ年数が経ってしまっていては、死んでいたっておかしくはない。理屈で分かってはいるが、感情では認めたくない部分だ。


交際した男にもう無理だろと揶揄された時、殴り飛ばしてその日で別れるくらいには。


「いや、それはそれとして部屋着くらい着なさい」


「分かった分かった。髪が乾いたらな」


下着姿でタオルを頭に巻いたままうつ伏せになっているルームメイトの尻を叩いて、アンナはシャワールームに向かった。


----------


アンナ・クライヴが眺めていた書類と同じものを、ラピスは目にすることになった。


セラ達が把握しているニコルの来歴上、まず間違いなく都市国家アイアス出身。両親の離婚調停が拗れた結果、父方に誘拐されたようだ。


行き着いた先はギルドとキャラバンの中継拠点であるアウトベース内のスラム街。


ただ、そもそもの離婚の原因なったのは父方の素行の悪さと暴力であり、当然ながら息子が懐くはずもなかった。虐待がエスカレートした結果は……


「ニコル君は覚えてないみたいけど……状況的にニコル君が父親を手にかけてるの」


セラ曰く、殺害した父親の隠れ家をそのまま利用し、スリや物乞い、強盗で命を繋いでいた所をシーラに拾われたらしい。


具体的にはスリがバレて逃げるも、シーラに隠れ家までつけられて捕まったというのが事の顛末だ。


「ニコルをお母さんの元に返そうとは思わなかったの?」


聞かずには入れない問だった。


「ニコル君は親の顔すら覚えてないのに?」


「ゲノム解析の結果も優秀だったからなぁ」


セシリア・キース博士の物言いはともかく、様々な要因が重なった結果、セラ達と共にいることになったわけだ。


「だが、覚えていないだけでニコルも自分の出自には気付いているぞ。聞いてみればいい。僕は聞いたことがある」


セレスはそんな事を言っていた。


結局この問題はニコルがどう考えているのかが重要であり、ラピスにとって納得のいく答えなど得られるはずはないのだった。


そのまま、ニコルに居候させてもらっている部屋に戻ってくる事になった。


「聞いてみたらいい……か」


先に少年が帰ってきていなかったのは幸いと思うべきだろうか。ニコルが帰ってきたのは、ラピスが夕食の準備を始めた頃だった。


「あ……おかえりなさい」


「ただいまです」


どう聞くか考える時間はあったが、少年を前にすると慣れてきた挨拶もぎこちないものになってしまった。


そんな様子の少女を見て少年は首を傾げる。


「何かありましたか?」


「……うん、えっと。今日はセラさん達のお母さんと会ったよ」


「あー。キース博士に会ったんですか。じゃあアレを見たんですね」


誤魔化すつもりでキース博士に会ったという事実を言ったのだが、それだけでぎこちない様子に納得されてしまった。


あれはあれでたしかに衝撃的ではあったが。


「どうでした?」


「……すごかった。あと、働かないかってこれも貰った」


聞いてしまったニコルの身の上は棚上げとし、話の流れに身を任せてセシリアから渡された書面をニコルに手渡した。


「良かったじゃないですか」


「これってどういう事なのかな?」


「簡単に言うと、キース博士の実験でラピスのコピーを作ることOKしてくれたら、仕事とか勉強とか面倒をみますよっていう約束をする紙ですね」


「私のコピー?」


うまく理解できず首を傾げる。


「そうですね……。今日、セラさんやセレスさんと似てない姉妹に会いましたか?」


ニコルの言葉に、ルージュという赤毛のセラ達の姉妹を思い出した。


「ルージュさんて人も姉妹だって言ってた」


「彼女みたいに、少しラピスに似たセレスさんの妹を作らせて欲しいって事です」


「……どれくらい似てる感じになるの?」


「目元とか、髪の色とか……それくらいですかね。まるまるそっくりにはならないと思います。ルージュさんのもとはエストさんという方なんですが」


そう言って、ニコルはモバイル端末でエストという男性の写真を見せてくれた。


「……そんなに似てない」


髪の色は一緒だが、それ以外はあまり似ていなかった。


「そんな感じです。宗教的な抵抗がないなら、OKしていいと思います。1人で自立した生活もできますよ」


「1人……」


少年の言葉に、ふと父が亡くなってから1人で生きてきた生活を思い出した。


村の人は優しかったが、どこか腫れ物に触れるような接し方で何とも言えない距離があったように思う。


「どうしました?」


「……1人より、ニコルと一緒の方がいいな……」


思わずボソリと呟いてから、自分が何を言ったのか気付いた。


「ちっ……これは、村で1人暮らしだったから寂しいのは苦手って意味で……」


「え、ああ。はい」


慌てて取り繕いつつ少年の顔を見ると、珍しい表情をしていた。目が合うと、頬を赤くして顔を逸らされてしまった。


「……僕も言い方が悪かったです。出ていかないといけないという意味ではないですので……」


年相応に照れた様子は初めて見た気がする。


「家事をしてもらって、助かってます。ラピスが嫌でなければ、全然いてもらっても」


ニコルはその場を誤魔化すように咳払いをした。


「変な話題にしてすみませんでした。先にシャワー浴びてきますね」


「う、うん」


照れている自覚があるらしく、ニコルは逃げるように脱衣所の方へ姿を消した。


少年を見送り、少女はキッチンスペースの中で頭を抱える。


「……私の意気地なし」


結局、肝心なことは棚上げにして聞けていない。

そして、一歩踏み込めそうなところで何も言えなくなってしまった。


シャワーを済ませて戻ってきたニコルはいつも通りに戻っていた。

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