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section.18_実験部隊

兵器の研究開発施設を地下に作る場合、当然ながら搬入搬出用の超重量エレベーターが必要になる。


大型輸送車両や戦車を乗せられる、耐荷重100tに上るエレベーターだ。


だが、そんな重量物を運ぶ機構となると、当然ながら動きは鈍重なものとなってしまう。


そのため。


「外に出ても戦闘が終わってたら困るし、いっそ特殊機動で登っちゃおうか」


などと言い出すのがエストである。


穏やかに見えて、急がば回れよりも善は急げという言葉が好きな人物だ。


超重量エレベーターを点検用の操作パネルを開くと機関を停止させて外までのハッチを全て開いてしまった。


警報が出ているため、他に利用する者がいないのが幸いである。


本来はエレベーターの荷台が通る縦穴を、MⅢアルテミスは上昇していた。


「意外と上昇速度は速いんですね」


「通常のホバーエンジンでも、MⅢを滑空させるくらいの推力はあるからね。でも、この上昇速度は試さないと分からなかったかも」


地上のエレベーターハッチを出ると上昇を止めてホバリングに切り替える。後は動作試験と同じ動きで、ハッチから離れるだけだ。


「着陸の方法は……」


ニコルはホバーエンジンの出力レバーをゆっくりと戦闘速度の数値に戻していく。


機体の重量を支えていた推力が徐々に失われ、機体は大地に脚を降ろした。緊急着陸のような脚部の耐衝撃性能に頼りきった接地は回避できたようだ。


今ニコルのMⅢアルテミスがいるのはアルビオン・バイオニクス都市外施設の兵器開発部が専有する研究棟区画だ。


流石に、慌ただしく緊急出撃を行なっている駐屯地区画へのエレベーターを使うほどエストも図々しくはなかった。


しかし、戦闘に使用される機動兵器が勝手に出てきたことに気付かないほど、情報部と守備隊も間抜けではない。


「こちら、情報部オペレーターのアリス・ミラーです。機体コードを確認しました……兵器開発部所有、実験部隊アルケミスト所属のMⅢアルテミス。ニコル・オレームですね。守備隊からの出撃要請はありませんが?」


「……エストさん?」


情報部から通信が入ってきて苦言を呈されてしまった。


ニコルはエレベーターやら好き勝手に操作していた兵器開発部の青年に確認する。


「実戦試験の要望は出したよ。守備隊に。今さっき」


「「今……?」」


ニコルとオペレーターのアリスの声が揃ってしまった。


「さっき」


「……確認します」


エストが言い直すと、渋々といった様子で確認を取ってくれる。


少し間が空き、返答が返ってきた。


「……確認できました。本当に数分前ではないですか。勝手な行動は困ります」


ブツブツと文句を言いつつも、アリスは諦めた様子でため息をついた。


「全く……わかりました。索敵は間に合っていますので、MⅢアルテミスには砲撃支援をお願いします。高所へ誘導のため輸送ヘリを……」


使えるものは使うことにして作戦プランを練り直してくれるようだ。


「あ、ヘリはいらないよ。アルテミス単独で移動してもらうから」


「はい?」


「量産型飛行機能の機動性テストだから」


「……なるほど」


おそらく、申請があったことは確認したものの内容はまだ見ていなかったのだろう。再び間が空いてからアリスより改めて指示が飛んできた。


「では、MⅢアルテミスは指定のポイントまで移動をお願いいたします」


「了解です」


アリスが指定した座標は、廃都市が現役だった際に作られた電波塔の上……機動力テストにも狙撃にも最適なポイントだった。


―――――――


「……ベストポジションですね」


「何よりです」


廃都市エリアにある電波塔の展望台上。


ホバーエンジンの戦闘出力による重量軽減でMⅢアルテミスは床を踏み抜くことなく立っていられている。


「この足場の悪さだとレールガンでも床が抜けそうですね」


「実験機には例の物のが積まれているでしょう。そちらで狙撃をお願いいたします。実戦試験なのですよね?」


「了解です」


アリスのトゲのある言い回しにニコルは苦笑いを浮かべる。勝手に出撃した手前、文句も言えない。


「索敵ドローンが得た敵機の情報と作戦内容を共有します。アルファ1から6は降下位置からポイントを更新してください」


「アルファリーダー了解。部隊各員。今回の仕事はラッキーだ。女神様が来てくれている。哀れなオリオンを追い立てるぞ」


「私語はほどほどに」


守備隊の軽口にアリスは苦言を呈した。


ニコルはそんな会話を他所に共有された攻撃目標の情報を確認する。


目標は6機。全てMⅢクーガーだ。

フェデラル・エンジニアリングの機体で多くの都市国家が採用しているMⅢだった。


無骨で重装に見えるが、良くも悪くも標準的な性能の人型MⅢだ。誰でも扱いやすい機体と聞いたことがある。


「ただのゲリラにしては上等な装備ですね」


敵機の状態は良さそうだ。

機関砲(マシンガン)にシールド、機体によっては対戦車ミサイルを搭載している。

都市迷彩にそこまで大きな劣化がないものの、肩装甲に何やら塗装を削り取った後があった。


「各員、詮索も遠慮も不要です。都市国家アイアスより現在都市外で活動する部隊はいないと返答をいただいています」


相手が何者であれ、この都市外施設を領地に含めている都市国家アイアスと揉めることはないということだ。


ここ最近、カルコサ都市軍の越境行為が頻発しているらしいが、アイアスは問答無用で排除していた覚えがある。方針を変えたのか、はたまた無関係なゲリラなのか。


「アルファリーダー。目標を捕捉した。追撃する」


「アルファ2。同じく目標を補足。1機撃墜……続いて1機の脚部を破壊」


「敵機の合流ポイントを算出。共有します」


アリスから目標座標が送られてきた。


ニコルはMⅢアルテミスの左腕の砲を天に掲げた。上に向けられた砲は、アクチュエーターを稼働させて折り畳まれていた砲身を展開していく。


MⅢアルテミスの全高以上の全長となった砲は最後にバイポットを地につけて砲身を安定させる。


最後に、MⅢアルテミスの頭部装甲が開き、大型の望遠カメラが顔を出した。


「展開しました」


砲身を可能な限り下方に向けることで目標座標に射角を取ることができた。


かなりの高所であることが不安材料だったが、幸い計算づくだったようだ。


「索敵ドローンを検知されました。作戦パターンBに移行します」


「アルファリーダー了解」


「アルファ2了解」


誤射を防ぐため、アリスからは敵機だけでなく味方機とドローンの配置がニコルに共有されていた。


守備隊のMⅢ部隊は散開し、距離を取って侵入したMⅢ部隊4機を遠巻きに囲む陣形に移行した。守備隊の代わりに索敵ドローンが複数機が方位内に入り高度を下げる。


相手が追跡手段に気付いた場合の作戦パターンのようだ。あえて索敵ドローンを気付かれやすい配置にして相手の動きをコントロールしている。


これ見よがしに配置された索敵ドローンに気付かない間抜けであれば、遠巻きに囲んでいる守備隊が包囲して殲滅する。


幸い、目標は索敵ドローンを避けるように移動しており、ニコルの仕事がなくなることは無さそうだ。


「まもなく目標がポイントに到達。カウントします。タイミングを合わせて下さい」


「了解です。目標が複数機のため、掃射モードにて砲撃します」


ニコルの返事を聞いたアリスが、若干の間を開けてからカウントを開始する。


「…3」


「…2」


「…1」


操縦桿のトリガーを引いた。


左腕の大型砲。


その弾薬代わりにマガジンに装填された高出力コンデンサが3つ、アクチュエーターによって接続された。


この砲は弾丸を放出しない。


高出力電力と砲身を通った熱量によって急激に砲身が発熱し周辺との温度差で白い蒸気を発した。


砲身からは、赤い光線が放出され、空を切り裂く。


MⅢアルテミスの望遠カメラの映像の真ん中に、示し合わせたように目標のMⅢクーガーが入り込んできた。その胸部装甲に赤い光が当たっている。


赤いレーザーは照準補助用の可視光線にすぎない。


照準用の可視光線に気付いた様子だがもう遅い。


レーザー兵器による破格の熱量が機体に直撃する。


急激に赤熱した敵MⅢの装甲とフレームが、膨張した機体内の空気の圧力に耐え切れず弾けた。


MⅢの胴の内装はコンピューターや精密機器の塊であり、耐熱性は高くない。1秒もかからず風穴が空いた。


そのMⅢの後方に控えていた機体も同じ末路を辿う。


「残り2機」


「上15、右10」


アリスから具体的な数値で射角の指示が飛んできた。


ニコルの操縦桿の操作に従い、赤い可視光が目標のMⅢクーガー2機をなぞるように通過する。


出力が最大に達していたレーザーがMⅢ2機をケーキでも切るように両断した。


「目標の沈黙を確認。作戦終了。撃破した機体の回収は情報部が引き継ぎます。こちらに人的被害はありません。素晴らしい結果です」


アリスの満足げな声が耳に入った。

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