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section.16_家族の形

ガラスの中にいる人は皆似通っていた。


セラを幼くした容姿の少女がほとんどで、ガラスの中で裸体を晒している。皆揃って口と股にはホースが繋がっており、頭には金属のヘルメットのようなものを被っていた。


『あれ?母さんに、セラ姉とセレス姉だ』


そんな光景に呆気を取られていると、そんな声が耳に入った。


見ればガラスの中の少女の中で真っ先にこちらに気付いた少女がヒラヒラと手を振っていた。その仕草はどことなく、先日の別れ際のシーラの仕草を思い出させる。


『知らない()もいるね』


「この()はラピスちゃんだよ。皆より年上だよ」


セラの言葉に反応するように、ガラスの向こうの少女達の注目がこちらに集まった。


それぞれがガラスの柱の中という光景は異様ではあるが、少女達の反応はありふれたものだった。


遠くのガラスの中の少女は目を凝らしてこちらを観察しようとし、中にはガラスの壁面に張り付いている少女もいた。


近くのガラスの中の少女達は手を振ったり、しげしげとこちらを眺めたりしている。


「こ、こんにちわ……ラピスです」


近くのガラスの中の少女に恐る恐る挨拶をすると、にこやかに返事が返ってきた。


『こんにちわ。私はセナよ。セレス姉にいじめられてない?』


「おい。こら。一言余計だ」


肩を怒らせるセレスに対し、ガラスの向こうの少女、セナはケラケラと笑っている。


「……ふふっ」


つられてラピスも笑ってしまい、セレスからジロリと睨まれてしまった。


不気味な部屋だと思ってしまったが、彼女たちの反応はただの少女と変わりないように思えた。


「あの、この娘達は……?」


「……私達の妹だよ」


セラは嬉しそうに笑う。


「私もセレスも、シーラ姉さんもここから産まれたの。他人(ひと)とちょっと違う形で産まれるから、怖がられたり、嫌な顔されたりもするんだよ」


「確かに最初はビックリしたかも……」


「専門的な言葉を使うと、私達はホムンクルスっていう人工的に作られた人間なるの」


でも、産まれ方以外は何も変わらないとセラは語る。


何となしにガラスの壁面に触れると、向こう側のセナも寄ってきて手のひらを合わせてきた。セナが一糸纏わぬ姿のため目のやり場には困るものの、嫌悪感や恐怖は今のところ感じなかった。


「ここに並んでいるのは培養槽という訳だ。君の触れているセナはそろそろ外に出る頃合いだ。皆、私の娘達だよ」


『私は外に出たら真っ赤なワンピースを着たいわ』


「それはいいな。きっと似合うとも」


培養槽に浮かぶ少女は無邪気に笑っている。


そんなセナを見るセシリア・キース博士の目は娘を慈しむ母親のものと相違無いように……少なくともラピスはそう感じた。


「そう言えば、ルージュはどこにいるんだ?」


『ルージュ姉なら奥にいるわよ』


「ああ。ありがとう」


娘達の誘導に従い、セシリアは奥に進んでいく。ラピス達も彼女に続いていくと、他の少女たちが手を降ってくる。


振り返していると腕が疲れてしまった。


「お前、けっこう遊ばれてたな」


「え?」


「初めて来る人はリアクションを返してくれやすいから、皆アピールしてくるの。皆で話ができて、仮想現実があっても培養槽の中は退屈だから」


嫌われている訳ではないのなら良しとするべきだろうか。


それよりも、あの少女達が外に出てきたら名前と顔を一致させるのは大変そうだ。何せ姉妹のためか似たり寄ったりな顔立ちばかりである。


奥にはまた別の扉があった。


扉を開くと、同じく培養槽が並んでいるが趣が違った。


浮かんでいる少女たちは同じく金属のヘルメットのようなものを頭に着けているのだが、バイザーが顔を覆い隠して沈黙している。


先ほどの雰囲気と大きく異なり微動だにしない様にラピスは不安になる。


「この娘達は頭の機械でお勉強中だよ」


それを察してか、セラが説明してくれた。


ラピスには理解が難しかったが、体感時間を高速にした仮想現実空間で、人が12年ほどかけて勉強する内容を1年間で学習しているらしい。


「ルージュはもう1つ奥の方か」


セシリアはお目当ての人物が見当たらないのか、さらに奥に進んでいく。


鉄の扉をもう1つ超えると、まったく異なる部屋になった。


培養槽ではなく、球体状の機械が大量に並んでいて、所々に作業スペースやまた別の機械がある。


物も散らかっていて、人が頻繁に作業や出入りをしているであろう事を想像させた。


その中を赤毛の少女がウロウロしていた。


「ルージュ。相棒の目星はついたか?」


「んー。やっぱりこの()がいいなって」


ルージュと呼ばれた少女は何やら駄々を捏ねるような様子で、一つの球体状の機会を指さしていた。


セラやセレス、先ほどの培養槽にいたセナと異なり、赤毛で肌は褐色の少女だった。どこか眠たげな眼差しのシーラやタレ目気味なセラとも違い、活発そうな顔付きをしていた。


「あれ?なんでセラ姉とセレスもいるの?あと、その娘は誰?」


「あの、ラピスです。よろしくお願いします」


「ラピスか。私はルージュ。そんな畏まらず呼び捨てでいいよ」


明るい性格はどこかセラに似ている気がするが、もっとアグレッシブな印象を受けた。


ルージュを指差すものを見て、セラは首を傾げた。


「その人工子宮もゲノム合成装置もまだ空だよ?」


「母さんから聞いてるけど、ニコルの遺伝子使った()作るんでしょ?組むなら私と違って後衛で、私とおんなじ試作型(プロトタイプ)の方が気が合うかなって」


「まぁ、ニコルがベースだから索敵と狙撃は得意になるだろうが、あいつほど好戦的になるかは分からないぞ。戦闘職にすらならんかもしれん」


「それならオペレーターでもいいと思ってる」


ルージュとセシリアの会話に突然ニコルの名前が出てきて、ラピスは目を丸くする。


確認するようにセラの方を見ると、彼女は渋い顔をしていた。


「ルージュ、母さん。そういう話は……」


「なんだ。もともとセラの発案だろう。異なるタイプの戦闘職の個体が作れると」


「あと、絶対美少女になるとか言ってたな」


「うぐ……」


セラは話を止めようとしたものの、話題に巻き込まれてしまった。


何やらラピスには理解が難しい。次にセレスの方に助けを求めると渋々説明してくれた。


「私達ホムンクルスは誰かのコピーでもある。だから私達は容姿がそっくりなんだが……、他の人の見た目や得意なことをコピーした姉妹も作れる。それがルージュ姉だ。あの3人はニコルをコピーした姉妹を作る話をしてる」


「ニコルにそっくりな女の子を作るってこと?」


「まぁ、そういうことだな」


ラピスはあの金髪で中性的な少年の、くせっ毛な髪がフワフワなロングヘアになる姿を想像する。


……普通に似合ってしまいそうな気がした。


「……私より美人になりそう」


「アイツは中性的だから想像しやすいだろうな」


女性であれば筋肉が少ない分もう少し細身になるだろう事を考えると、かなり美人な女性になるのではないだろうか。


セシリアとルージュ、巻き込まれたセラの新しい試作型(プロトタイプ)の話はまだ続いている。


「確実に美人にはなるよ。母さんだってデザイナーズベビーのゲノム配列商品になるって言ってたよね」


「私はニコルの身体能力が引き継げるか気になってるんだけど?」


「以前にニコルの出自は調べさせたと言ったろう。姉の容姿も仕事も確認したが、戦闘職を希望するかは作ってみないと分からん。本人次第だ」


セシリアの言葉にセラがギョッとする。何やら気になる発言に、ラピスも思わず聞き耳を立てた。


「そもそもアイツの攻撃性は後天的なモノの可能性が高い。虐待された環境なんぞ再現できてたまるか」


「母さんストップ!」


「虐待……?」


「ああ。開拓村の出だと聞き慣れないかもな」


聞き慣れない単語にラピスは首を傾げると、ルージュが気を使って説明してくれる。


「この世の中、実子に暴力をふるったり世話をしなかったりするクソみたいな親もいる。そういう行いをまとめて虐待って言うのさ。当然だが、だいたい子供の方が死んでしまう」


丁寧な説明だった……のだが、ラピスは一瞬、ルージュが何を言っているのかよく理解できなかった。


親と死に別れていても、父や母に理不尽な行いをされた覚えがない少女に、親が子供に酷いことをするという行為に現実味を持てなかった。


そもそも親が子供を殺すものなのか。


「ルージュ!!」


「え、セラ姉?何?」


「……でも、ニコルは生きてるよね?」


呆然としつつも、そんな質問を投げた。


それは事実であるはずだ。


少年は少女をここに連れてきてくれたのだ。


「ああ、それは……」


ルージュの言葉を遮るように、襲撃警報を知らせる電子音が鳴り響いた。

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