『リルヴァ』出現 〜首都『カームクラン』視点〜
ヅヴァイ、そしてリリーシャがそれぞれの辿り着いた国で侵攻を始めた頃、最後の一柱である『リルヴァ』も侵攻対象となる国を見つけ出していた。
「・・・・・」
他のニ柱とは全く異なる方位をあてもなく飛行を続けたリルヴァは、とある『列島』へと辿り着いていた。
「・・・・・」
リルヴァは顔となる部分が漆黒に塗りつぶされている為、その感情を読み取ることができない。
そして、通常の『邪神』と異なり、何ら感情を持ち合わせてないまま空中に漂う様子は酷く不気味であった。
そのリルヴァの直下にある『商業国家アーティナイ連邦』の首都『カームクラン』の街は、陽が傾き始めたことで夕食の買い出しをする市民達等で大いに賑わっていた。
「・・・・・」
ブジュウウウウ!!
リルヴァは無言でその街並みを見下ろすと、腕の先で畝る赤黒い触手を勢いよく地上に向けて伸ばした。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
ガヤガヤガヤガヤ・・・。
「うん?」
その時、バザールで購入した食材が入った網カゴを抱えて歩いていた一人の町娘が上空の異変に気がついた。
彼女は上空に小さく浮かび上がる黒い物体と、それから放射状に伸びる赤黒いものを見て首をかしげる。
ズブウ!!
すると、放射状に伸びた触手は彼女の周囲百メートルくらいを円で囲むように地面へと突き刺さった。
ズヴン・・・。
その直後、複数の触手に囲まれた地面が真っ黒に染まっていく。
ズブズブズブズブ・・・。
それと同時に、その黒くなった部分の上にある建物やあらゆる物が、まるで沼に飲まれるようにゆっくりと沈んでいった。
ズブズブズブズブ・・・。
そして、先程上空を仰ぎ見ていた女性も例外なく漆黒の沼へと沈んでいく。
「えっ!?あ!?うえ!?」
女性は自分の足が徐々に無くなっていく感覚に戦慄した。
「へあ?あっ!?あ"あ"あ“あ"あ"!?」
やがて彼女の下半身が全て漆黒の沼に飲み込まれた頃、その意識は完全に途絶えた。
「なっなんだ!?これはあ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
「うわあぁぁぁぁ!?」
同様に、突如現れた漆黒の沼の範囲内にいた多数の市民達が次々と断末魔の声を上げながら飲み込まれていった。
グップグップグップ・・・。
その時地面に突き刺さったままになっていたリルヴァの触手は、まるで沼に飲み込んだあらゆるものを吸い上げるかのように蠢いていた。
やがて、漆黒の沼は地上に存在していたあらゆるものを飲み込むと、何事もなかったかのように消滅した。
シュルル・・・。
そして、漆黒の沼が消滅した直後、触手を収めたリルヴァの頭部と見られる部分に変化があった。
グチュチュ・・・。
「あ"あ"あ"あ"」
「お"お"お"お"お"」
先程まで漆黒の闇に染まって何も見えなかったリルヴァの顔面部分に、まるで百面相のように苦痛の表情を浮かべた複数の人間の顔が次々と浮かび上がってきた。
それは、全て先程の沼に飲み込まれていった人々であった。
「すべでを・・のみ"ごむ・・・」
次々と切り替わるように複数の顔面が浮かび上がり、それが最初に飲み込まれた女性の顔になった時、リルヴァはその女性の声で不気味に言葉を発した。
その後、リルヴァはゆっくりとカームクランを前進しながら、人や街並を次々と暗闇の底へ沈めていった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
ザワザワザワ・・・・。
その頃、街の異変を察知した『カームクラン』の冒険者ギルドは慌ただしくなっていた。
タッタッタッ!
「アキト殿!冒険者は集まったかえ?」
そんな中、『商業国家アーティナイ連邦』の元首である『ミウ・シノサキ』が息を切らせながらギルドの受付広間に駆け込んできた。
「大統領閣下、ちょうど有力な冒険者達が大方集結したところですよ」
『カームクラン』の冒険者ギルドのギルドマスターである『アキト・マツダイラ』は冒険者を緊急招集するのに駆け回った為か、額から流れ出る汗を拭いながら答えた。
ダッダッダッ!
「アキト!ミウ殿!」
その直後、ミウの背後から更にもう一人、屈強な体格をした男が受付広間に入ってきた。
「兄上!」
「シゲノブ殿!調査の結果はどうだったかえ?」
『商業国家アーティナイ連邦』の国防を担う連邦軍総司令官である『シゲノブ・マツダイラ』はミウの問いかけに表情を曇らせた。
「・・やはり、市街地に現れた『奈落』は『邪神』によるものであった」
「なんという事じゃ・・」
シゲノブの言葉を聞いたミウは、その薄紫色の瞳を伏せた。
「ハーティさん達がいない以上、『邪神』は我々が討伐しなければなりません。とにかく、出せるだけの全ての戦力をぶつけましょう」
「・・アキトの言う通りだな。とにかく持てる戦力をありったけぶつけるしかあるまいて。某はマルコ殿に女神様から下賜された武器をお借りするゆえ、ミウ殿は『神社庁』へ協力を頼んでくれ」
「わかったのじゃ」
ミウ、アキト、シゲノブの三人は頷き合うとそれぞれの責務を全うする為に駆け出した。
その三人の会話を、冒険者パーティ『旋風』に所属する三人が遠くから耳にしていた。
「聞いたでござるか?」
「はい兄上。『邪神』が出現したとなれば、冒険者達は市民の避難などに駆り出されるでしょう」
「・・・であるな」
「正直ほむら達も市民の避難誘導を率先して行わないといけないと思います。ですが・・・」
「ほむらの言いたいことは拙者にもわかるでござるよ。たとえ、拙者達が『邪神』に対して遠く力及ばないとしても、ハーティ殿たちへの恩義がある故できる限りのことはしたいでござるな」
「兄上・・・」
「それに、今回は『邪神』一柱しか確認されていないと言う話でござる。前回のように『ワイバーン』や『黒竜』を相手にしなくていい分、戦況はかなりマシな筈でござるよ」
「ハンゾウ殿の言う通りであるな。それに『神社庁』の神官が力を合わせれば、『邪神』にも有用な『上級浄化魔導』を発動出来る筈であるからな」
「拙者達はせいぜいそれまでの時間稼ぎをするでござるな」
「そうですね。『白銀の剣』の皆さんがいない以上、ほむら達が頑張らないといけませんから。せっかく救ってもらったこの『カームクラン』の街を『邪神』なんかに滅ぼされるわけにはいきません!」
ほむらの言葉に同意するように、ハンゾウとクウゼンは頷いた。
「では、『旋風』はこれから『邪神』の足止めに行くでござるよ!!」
「「応!!」」
ハンゾウの言葉を皮切りに『旋風』の三人は冒険者ギルドから飛び出した。
(ハーティさん・・どうか私達に『女神様』の加護を・・)
ほむらは心で『女神』に祈りながら、腰に携えた新しい小太刀に手をかけた。




