決戦の地へ 〜第四章エピローグ〜
「『イルティア・レ・イーレ』・・女神の槍・・」
ハーティは風で乱れる髪を押さえながら呟いた。
「さあ、ハーティ!乗艦しよう!問題はその方法だが・・」
「随伴の騎士は訓練場に駐機している『ラピス』で行くのでしょう?なら、マクスウェルとフィオナ様を私達が運べば事足りるわ」
「なら、僭越ながら殿下は私が背負って行きます」
ハーティの提案に対して、ユナが間髪入れずに立候補した。
「私は構わないが、ユナ・・くれぐれも落とさないでくれよ?」
「・・・・もちろんです」
「・・なんだ、今の意味深な間は」
「なら、フィオナ様は私が運びます。よろしいですか?」
「あら?高名な『聖女様』に抱えていただくなんて光栄ですわね」
「じゃあ、あたし達は人工女神を召喚するから訓練場に向かっておくわ」
クラリスは手をひらひらさせると、ニアール、ナラトスと共に謁見の間を後にした。
「・・ではマクスウェル殿下、失礼します」
「・・お手柔らかに頼むよ」
「さあ、フィオナ様・・行きますよ」
「本当に大丈夫かしら?」
「今は『女神化』しているので『ブースト』を発動しています。なので問題ありませんよ」
ユナの背にマクスウェルが、リリスの背にフィオナが乗る形になると、ハーティ達は『飛翔魔導』で『イルティア・レ・イーレ』の甲板に向かって一気に飛び出した。
「っく!」
「きゃあああ!」
ユナとリリスの背に乗る二人の声を伴いつつ『イルティア・レ・イーレ』の甲板に着地したハーティ達は、そのままマクスウェルの案内と共に艦橋へと向かった。
そして、巨大な艦内の長い廊下や幾つかの昇降機を経て歩くこと数分・・。
ハーティ達は艦橋に到着した瞬間、『最敬礼』をしたクルー達に歓迎された。
「ああ!本物の『ハーティルティア』様だ!」
「ああ・・なんと神々しい」
「聖女様!?そのお姿は・・もしや、貴方様も『女神様』なのですか!?」
クルー達はハーティと『女神化』したリリスを目の当たりにして、驚いたり、崇めたり、咽び泣いたりと様々な反応をしていた。
「皆が驚くのはわかるが詳しい事は後で説明しよう。ひとまず本艦は急ぎ『サウスポイント』へ向かう」
「は、はっ!了解しました!」
マクスウェルの声に気を取り直したクルー達は『最敬礼』をやめ、それぞれの持ち場へと戻っていった。
「・・・・」
そんな中、ハーティは広大な艦橋を見渡した時に目に入った『女神像』を見て固まっていた。
そして、その様子を見ていたマクスウェルが説明を始めた。
「ああ、この艦は君を旗印とした多国籍の集まった軍である『女神同盟軍』の旗艦だ。即ち、この艦は『女神同盟軍』の頂点に立つ君のものであると言えるな。同時に、この艦はその名の通り『女神教』における神殿の役割も兼ねている。艦内には多数の神官が乗艦しているし、各種儀式や祭事が行える程立派な教会施設も完備している」
「なんだか、私がどんどん奉り上げられている気がするわ・・」
「・・それは仕方ないさ。君はこの世界を創造した『女神ハーティルティア』なのだから」
「マクスウェル・・」
「そして、今度はハーティルティア様と私達が力を合わせて、この世界を救うのです」
「ユナ・・」
「ハーティルティア様、今度こそ・・『デスティウルス』を滅ぼしましょう!」
「リリス・・」
マクスウェルやユナとリリスの言葉に合わせるように、艦橋にいる全員が力強く頷いた。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
ちょうどその時、訓練場に到着したクラリス達は堂々と立ち並ぶ魔導機甲を見渡していた。
「あたし達の追い求めてきた夢が・・こんな形で実現するとはね・・」
「ええ、本当に感慨深いわ。そして、魔導機甲の量産に成功して初めての戦いが、『この世界を救う』なんて大それたものになるなんて、想像できなかったわ」
瞳を潤ませながら語る二人の肩にナラトスが優しく手を置いた。
「正直、私はかつて人間など矮小な存在だとしか思わなかった。だが、人間達は皆で力を合わせ、知恵を振り絞る事で大いなる力を持つことが出来るということを知った。だから、きっと人間達はこの世界を救うことができるだろうと今の私なら思うことができるな」
「ナラトス・・」
「ナラトス様・・」
「さあ、『イルティア・レ・イーレ』が動き出すぞ。私達も行こうではないか」
ナラトスが空に滞空する艦を指さすと、クラリスとニアールは力強く頷いた。
そして、クラリスは風に靡くツインテールの片方を優雅に払うと、声高く愛機の名を言葉にした。
「出でよ!『プラタナ』!」
それに続き、ナラトスが前方に片手を伸ばしながら、同じく魔導式を展開した。
「出でよ!『メルティーナ』!」
ズズズ・・・・。
直後、訓練場に広がった二つの魔導式から、白と黒の人工女神が顕現し始めた。
・・・・。
・・・・・。
『こちらクラリス。あたし達はいつでも行けるわ!』
「マクスウェル、クラリス達も準備できたみたいよ」
クラリス達が人工女神を収納魔導から出現させた直後、ピアスからクラリスの言葉を聞いたハーティは、その内容をマクスウェルへと伝達した。
「よし!では早速出発しよう!」
マクスウェルはそう言いながら、艦内通信用の魔導コンソールを操作した。
「艦内全乗組員に告ぐ。本艦はこれより進路を南に向け、最果ての地『サウスポイント』へ向かう!これから私達が向かうのは世界の命運をかけた決戦の地だ!心して向かうぞ!『イルティア・レ・イーレ』!発進!」
「了解!機関八十!巡航用魔導推進機発動!『イルティア・レ・イーレ』発進!」
イィィィィン!!
ゴオォォォォォ!!
マクスウェルの号令に従ってクルーが機関出力を上げると、艦に搭載された二種類の発導機が唸りをあげる。
そんな中、ハーティは艦橋の巨大な窓から遥か彼方の空を眺めていた。
(『邪神デスティウルス』!この世界は『邪神』の好きにはさせない!今度こそ・・あなたを滅ぼしてこの世界を護ってみせるっ!!)
強い決意と共に握られたハーティの手には、『聖剣ニーヴァルテ』が握られていた。
(お願い『リフィアス』、『バハムス』!!貴方達の力を貸して!!この世界を救う為に!!)
そして、『イルティア・レ・イーレ』は決戦の地『サウスポイント』に向けて進み出したのであった。
ーーハーティが世界を救う旅に出てから数ヶ月。
ハーティは様々な国を渡り歩き、沢山の出会いと別れを繰り返しながら、『エルフの国リーフィア』へと辿り着いた。
そこで復活を許してしまった『デスティウルス』を滅ぼす為、ハーティは仲間達と共に決戦の地『サウスポイント』へ向かう事となる。
全ては愛する世界の為、想いを託して散った『バハムス』と『リフィアス』の為に・・。
果たして、ハーティとその仲間達は『神界大戦』から続く『神族』と『邪神族』との永きにわたる戦いを終わらせて、愛する世界を救うことができるのか。
それは、『女神』にさえ知りえぬ事であった。
第四章『エルフの国リーフィア』編 〜完〜




