リリス、覚醒
チャキ・・・。
リフィアスを失った悲しみに打ちひしがれていたハーティは、自分がいつの間にか一本の剣を手にしているということに気づいていなかった。
「あの・・ハーティルティア様・・その、今手にされている剣は・・?」
ユナに指摘され、ハーティは自分が手にしている剣を確かめる為に視線を落とす。
それは、神白銀と『聖樹』による複合素材で出来た剣のようで、その剣全体が淡く白銀色に発光していた。
刀身には現代とは異なる体系と見られる魔導式が複雑に刻まれており、それがおよそ只人では生み出せるようなものではないという事が誰の目にも明らかな代物であった。
そして、その剣に見覚えのあったハーティとリリスは、驚愕で今まで泣き腫らしていた目を見開いた。
ハーティは刀身に映り込む自身の顔と視線を交わしながら、静かにその剣の名を口にした。
「『聖剣・・ニーヴァルテ』!!」
「ハーティルティア様!!その名は・・!?まさかっ!?」
ユナの言葉にハーティは頷いた。
「間違いないわ。この剣は、かつて『神界大戦』でリフィアスが振るう事で、幾千もの『邪神』を薙ぎ払った『聖剣ニーヴァルテ』・・『女神』であった私が生み出した三つの『神器』の一つで、究極の『対邪神用戦略級決戦兵器』よ」
「だけど・・どうしてこれが私の手の中に・・?」
「おそらく、それはリフィアスの肉体が失われる前に、彼女のハーティルティア様への強い想いによって生み出されたからでしょう」
リリスの言葉を聞いて、ハーティは再び『聖剣ニーヴァルテ』へと視線を落とす。
『敬愛する主様・・どうかご武運を』
ハーティは手にしている『聖剣ニーヴァルテ』からリフィアスの声が聞こえた気がして、その刀身を優しく撫でた。
そして、ハーティは指で瞳に溜まった涙を拭うと、静かに立ち上がった。
「・・さあ、『ヴァルハラの聖樹』に戻りましょう!リフィアスの遺言通り、次は『聖杖エーテリア』を手にするわよ!」
ハーティの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
そして、ハーティ達は安全の為に王城で待機していたフィオナと合流してから、再び『ヴァルハラの聖樹』がある謁見の間へ戻った。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
謁見の間に着いたハーティは、すぐにリリスを玉座の後ろにある『聖樹』の幹の側まで案内する。
そして、そこに埋まる『聖杖』を目にしたリリスは、感極まって両手で口を塞ぎながら涙を流した.
「ああ・・間違いなく、私の『聖杖エーテリア』です!ずっとこの地にあったんですね・・!ああ・・なんと言う事でしょう!!」
「・・というか、感動する聖女様に悪いんだけど、そもそも『聖樹』から『聖杖エーテリア』を取り出しても大丈夫なわけ?まさか『聖樹』が枯れてしまうなんてことはないわよね!?」
「クラリスの心配は尤もだけど、この樹は『聖杖エーテリア』によって五千年もの間マナを供給されて、既に『聖樹』として成熟している筈よ。だから、『聖樹』を傷つけない限り、『聖杖』を取り出しても問題ない筈よ」
「・・じゃあ、いくわよ・・」
そう言うと、ハーティは右手に柔らかな光を放つマナを纏いながら幹に触れた。
すると、ハーティの触れた場所から『聖樹』の幹がまるで口を開く様に形を変えていき、幹に埋もれて同化していた『聖杖エーテリア』が顕となった。
そして、宙に浮いた状態となった『聖杖エーテリア』は、まるでハーティの手のひらへと吸い寄せられるように収まった。
ハーティの手に収まった『聖杖エーテリア』は『聖樹』によって出来た本体に神白銀の装飾が巻きつく様に施されており、『聖剣ニーヴァルテ』と同様に杖全体から淡い光が放たれていた。
その『聖杖』を見て、その場にいた皆が息を呑んだ。
「これが・・『聖杖エーテリア』っ!!すごい!側から見ていても凄まじい量のマナを秘めているのがよくわかるよ!」
自身が高位の魔導士であるマクスウェルは興奮した様子で『聖杖』を眺める。
「言わば、『神界』時代に生み出された『発導機』ってことね・・ただ、その力はあたしの『プラタナ』に積んでいるものとは桁違いなんでしょうけどね」
「・・ということは、この『聖杖』さえ手にしたら、誰でも人智を超えた力を手にすると言う事かしら?」
フィオナが『聖杖』をまじまじと見つめながら首を傾げる。
その問いに対して、すかさずリリスが答えた。
「『聖杖』やリフィアスの『聖剣』も然りですが、神々が持っていた『神器』は持つ者のマナの波長が合う、つまりは『神器』に選ばれた者しか本来の力を発動する事ができません」
「ですから、転生していると言う事実がある以上、かつての所有者である私ですら、『聖杖エーテリア』が扱えるかどうかは正直わからないのです」
ハーティは、フィオナに説明しながら表情を曇らせるリリスへ『聖杖』を差し出した。
「それは、リリスがこの『聖杖』を手に取ればわかることよ」
リリスは差し出された『聖杖』暫く見つめ続ける。
そして、意を決すると、『聖杖』を手に取った。
ブワッ!
「「「っ!」」」
その瞬間、リリスの身体から凄まじい光が放たれた。
その光は激しいマナの奔流となって、リリスの髪を揺らす。
「す、凄いです!マナが・・・力がどんどん漲ってくる気がしますっ!この感覚・・・!とても懐かしい感じがします!!」
リリスが自分の身体にマナが満ち溢れてくる感覚を得て興奮していると、やがてその光はリリスの身体を淡く光らせる程度に収まった。
「・・なんということだ・・!私は今、奇跡を目の当たりにしているっ!」
マクスウェルを筆頭に皆が驚愕している中、ナラトスがリリスの姿を見て口を開いた。
「そなた・・その髪色は・・!?」
ナラトスの言葉を聞いたリリスは、足下にある美しく磨かれて自身の姿が映り込む大理石の床へと目を向けた。
「・・・っ!?」
そこには、ハーティと同じく白銀色に輝く髪を靡かせながら驚いた表情をする少女が映っていた。




