『最悪』の象徴
「リフィアス!」
リフィアスの身体が『エメラダ』に乗っ取られている為、ハーティ達は自分の下腹部に手を突き刺しているリフィアスをただ見ている事しかできなかった。
「ゴフッ!この肉を掻き分ける感覚・・悪くないわねぇ・・っと見つけたわぁ!」
『エメラダ』はリフィアスの体内に確かな手応えを感じると、吐血で赤く染まった口を歪ませた。
「うふふ・・やっと見つけたわよ。ああ・・『リフィアス』の臓物で汚くはなったけど、間違いなく『黒の魔導結晶』だわ」
邪悪な笑みを浮かべる『エメラダ』の血で染まった手には、ハーティが今まで見てきた物より一回り以上大きな『黒の魔導結晶』が握られていた。
そして、その『黒の魔導結晶』からは視認できるほど濃厚な黒い霧が立ち込めていた。
「素晴らしい!素晴らしいわあ!これほどの力をもっているのなら、いけそうねえ」
『エメラダ』が『黒の魔導結晶』を見ながら恍惚な笑みを浮かべた直後、リフィアスの身体からも黒い霧が放出されはじめた。
リフィアスから放出された霧は『黒の魔導結晶』から放出される霧と渦巻き混ざり合いながら、徐々に人の形を形成していった。
やがて、それは黒髪の妖艶な美女となり、ハーティ達の前で確かな『存在』となった。
そして、その妖艶な美女の姿は、紛れもなくハーティが滅ぼしたはずであった『エメラダ』そのものだった。
「やっぱり、こっちのほうがしっくりくるわねぇ」
黒い霧から形成された『エメラダ』は自らの身体の動きを確かめると、満足げに嗤った。
ドシャ!
そして、リフィアスは『エメラダ』が身体から離れたことによって、糸が切れたように崩れ落ちた。
「リフィアス!」
ハーティは崩れ去ったリフィアスに駆け寄ろうとする。
「あらあ?これからが一番の見どころなのに、無粋な事はしないでほしいわね!」
ドゥン!!
「くっ!」
バァァァン!
しかし、それはエメラダが放った魔弾によって阻止された。
「さあて、それじゃあいただこうかしら?」
魔弾を防御魔導で受け止めて苦痛の表情を浮かべるハーティを一瞥したエメラダは、手にしている『黒の魔導結晶』をリフィアスの上にかざした。
ズゴゴゴゴ・・・。
すると、地面に横たわるリフィアスの身体から白銀色に光るマナが放出されて、その光が『黒の魔導結晶』へと吸い込まれていった。
そして、リフィアスのマナを吸収することによって、『黒の魔導結晶』から放出される黒い霧はますますその濃度を増していった。
やがて、その黒い霧はエメラダの周りを渦巻くようになった。
「素晴らしい!素晴らしいわあ!!この力!これこそ!わたくしが追い求めてきたものよ!」
「エメラダァァァァ!」
ドゥン!
体制を持ち直したハーティは一人陶酔するエメラダに向かって魔弾を放つ。
ズウァン!
しかし、エメラダの側にリフィアスが倒れていることによって威力を抑えられた魔弾は、エメラダに渦巻く黒い霧に容易く掻き消された。
「さあ!今こそデスティウルス様の復活の時!!よおぉぉぉ!」
そして、エメラダが興奮の最高潮に達しながら、声高らかに『邪神デスティウルス』復活の宣言をした、その時。
スブシュウウウ!!
先程までエメラダの周りを渦巻いていた黒い霧が突如、鋭く尖った幾数本の槍のようになってエメラダの身体中へと突き刺さった。
「グフゥ!?な・・ぜ・・・?」
それはエメラダにも予想外な事態だったらしく、その目は驚愕で見開かれていた。
そして、その衝撃でエメラダの手から落ちる筈であった『黒の魔導結晶』は、ゆっくりとエメラダの眉間の前まで浮き上がっていく。
ギュルル!!
直後、エメラダの眉間まで浮き上がった『黒の魔導結晶』は、不気味な音を立てながら楔の様な形状に変化した。
その鋭い先端部分は、エメラダの額へと向けられていた。
「まさ・・か!?」
ドチュ!
そして、楔形になった『黒の魔導結晶』は、額からエメラダの脳天に深く突き刺さった。
「グアァァァァァァ!!」
脳天に『黒の魔導結晶』が突き刺さったエメラダは空中に浮き上がった状態のまま苦痛の声をあげる。
そして、身体に突き刺さったと思われた黒い霧は、次々とエメラダの中に吸い込まれていった。
「リフィアス!」
予想外の出来事ではあったが、エメラダがリフィアスから離れたのをチャンスに思ったハーティは、リフィアスの元へと素早く駆け寄って治癒魔導を発動した。
パァァァァァ!
ハーティの治癒魔導によってリフィアスの下腹部に開いた大孔は急速に回復していったが、リフィアスは依然気を失ったままであった。
そして、ハーティがリフィアスを治癒している間に全ての黒い霧を取り込んだエメラダは、首をもたげながら力なく宙に漂っていた。
「一体・・何が起こったと言うの!?」
ハーティ達は動かなくなったエメラダを固唾を呑んで眺めていた。
ガッ!
すると突如、跳ねる様に動き出したエメラダの双眸が大きく見開いた。
その瞳はかつての漆黒から、赤とも紫とも言えない色に変化し、妖しく光り輝いていた。
そして、その瞳にある瞳孔は爬虫類の様に縦長のものとなり、センターで分けられた前髪の間で露わとなっている額には、『黒の魔導結晶』が埋め込まれるように嵌っていた。
「・・・・・」
そのまま、エメラダは自分の手を見つめながら握ったり開いたりを繰り返して、動きを確認していた。
「グフハハハハ!!」
ひとしきり自らの身体の具合を確かめて満足した様子になったエメラダは、邪悪に嗤う。
その声は今までの『エメラダ』とは異なったものであり、直接頭に響き渡る様な声は、今までハーティ達が戦ってきたどの『邪神』よりも邪悪であった。
「思い・・だシたっ!思い出しタぞ!!」
「今、我の力の一部である『黒の魔導結晶』と融合して、全テ思い出した!!」
「我は・・我は『エメラダ』などではなイ!!」
「我の名ハ、『デスティウルス』!!」
「そノ名はあらユる『最悪』の象徴!『絶望』そノもの!!」
そして、『デスティウルス』と名乗る、かつて『エメラダ』であった存在はゆっくりとハーティへと視線を向けた。
「我もキ様と同じく、この世界に溢レ落ちタ『転生体』であっタようだナ!フハハハハ!」
「そんなっ!『邪神デスティウルス』も、この世界に転生していたなんて!」
「ハーティルティア様・・危険です。これからは、とてつもない邪悪なマナが溢れ出しています。『神界大戦』の時に比べるとかなり弱体化していますが、この感じは間違いなく『邪神デスティウルス』そのものです!!」
「っく!『邪神デスティウルス』であれば、世界中のエーテルを喰らい尽くすまでその力を増大させるはずっ!!なら、そうなる前に私が今!この場で滅ぼすしかないっ!」
そう言うと、ハーティは自らの身体から膨大なマナを練り上げ始めた。




